ギリシャ国民投票はどうなるか?: 国民投票後の投資戦略

現在の金融市場では、株は高過ぎ、しかし空売りするには早すぎ、債券はバブルであり、為替はイベントがなく、金の買い場はまだ先であるという、グローバル・マクロの投資家にとって日照り続きの状況にあるが、ギリシャの国民投票をめぐる市場の混乱が事態を少し打開するのではないかと考えている。

国民投票は現地時間の7月5日に行われる。本稿では国民投票が債権団の提案に賛成した場合、反対した場合にそれぞれ何が起きるのかを纏め、それぞれの場合にどう投資すべきなのかを記しておきたい。

事前の調査では賛成と反対が拮抗

先ず賛成と反対のどちらになるかだが、ロイターによれば、事前の世論調査では賛成が44%、反対が43%、未定が12%と、賛成と反対がほぼ拮抗しており、どちらにもなりうるというのが現状である。

ギリシャ政府、債権団ともに、メディアを通じてギリシャ国民の説得を続けている。ギリシャのツィプラス首相は、以下の記事の通り、反対は債権団との交渉でより有利な立場に立つための意思表示であり、ユーロ圏離脱を意味しないと繰り返している。

また、バルファキス財務相は「輪転機は既に壊した。われわれには自国通貨を発行する能力はない」と述べ、ユーロからドラクマへ移行する意思がないことを強調した。

ツィプラス首相の思惑を阻むため、欧州委員長のユンケル氏は、「反対多数になれば協議におけるギリシャの立場が有利になるということは決してない」と表明した(ロイター)。

フィナンシャル・タイムズ(原文英語)ではギリシャの銀行が30%の預金課税(ベイルイン)の準備をしていると報じ、バルファキス財務相が「悪意あるデマ」と否定する一幕もあった。銀行封鎖で拡大しているギリシャ国民の不安を煽りたかったのだろう。

逆に、IMFは「ギリシャにはGDP比30%以上の債務減免が必要」(ロイター)と発表し、ギリシャ側の要求を擁護した。この発表には欧州諸国の強い反発があったという。

賛成の場合どうなるか?

さて、先ず賛成の場合何が起きるかを考えよう。ギリシャ国民が債権団の提案を受け入れるとした場合、ツィプラス首相は辞任に追い込まれる可能性がある。ブルームバーグのインタビュー(動画、英語)によれば、バルファキス財務相はその場合辞任すると表明しており、また政府の形はある程度変わる可能性があると述べている。

首相が誰になるにせよ、賛成の場合、ギリシャは6月時点の債権団の最終提案に近いものを受け入れることになるだろう。内容は以下の記事の通りである。

ギリシャがこの要求を受け入れた場合、デフォルト懸念は後退し、ギリシャ国債は持ち直すだろう。10年物の利回りは現在14%前後だが、2014年には5%台にまで低下していた。

国民投票が賛成を選んだ場合、利回りは1-2年のスパンで再び5-10%まで回復する可能性はある。そうなれば格好の空売り時である。

上記の債権団の提案は、瀕死のギリシャを死に至らしめる。ギリシャは通貨高と緊縮財政に苦しみ、経済は長期の景気後退に陥り、GDP比債務は更に膨張するだろう。このような状態に陥った国の債務は返済されない。日本の場合は対外債務でないのが救いとなっている。

個人投資家にギリシャ国債をトレードするのは難しいかもしれないが、政府の債務と一蓮托生となるギリシャの銀行株であれば、取引は可能である。

例えば最大手のギリシャ国立銀行(NYSE:NBG、Google Finance)はニューヨーク証券取引所に上場している。売り時は株価が充分に回復した時であるから、1-2年先の話である。

反対の場合どうなるか?

では反対の場合どうなるか? この場合は2つの可能性が考えられる。ギリシャは国民投票の結果を盾に、よりギリシャに有利な条件、恐らくは債務減免を要求するだろう。

これを債権団が認めるかどうかは微妙なところだが、個人的には認めるのではないかと踏んでいる。デフォルトもユーロ圏離脱もない可能性が高い。

ギリシャにユーロ圏離脱の意思がなく、交渉を望むのであれば、債権団としてはそれを拒否する強い理由がない。国民投票の結果が支援の条件を変えることはないと嘯くかもしれないが、結局は交渉のテーブルに付き、そしてテーブルに付いた以上は、多少なりとも6月の最後通告よりは譲歩してギリシャ政府と合意するだろう。

この場合に金融市場がどうなるかは、ギリシャの引き出した譲歩の内容によるが、上記のギリシャ国立銀行を始めとして、ギリシャ株は持ち直す可能性が高い。

そもそもあまり動いていないユーロに関しては、ギリシャ問題を抜きにした分析が改めて通用するということになるだろう。

万一債権団との合意が成立しなかった場合だが、この場合はギリシャはデフォルトとなり、ユーロ圏を離脱する。

デフォルトをしてもユーロ圏を離脱しないという論者もいるが、これは政治的に可能であっても経済的に不可能である。資金供給がない状態で通貨高に耐える体力がギリシャ経済にはなく、そして耐える理由もないからである。

この場合、リスク回避のためユーロが下落し、円が上がるかもしれない。ユーロドルの適正レートは1.15であり、ドル円の適正レートは125であるため、それぞれ1.00-1.05、115-120のレンジでの買いが推奨される。

しかし、ユーロを買う場合は、ECB(欧州中央銀行)の追加緩和リスクをヘッジするため、ユーロ圏の資産株の買いと組み合わせるべきだろう。

結論

纏めれば、国民投票が賛成の場合、回復を待ってギリシャ国債と銀行株の空売りであり、反対で合意が成立する場合、ギリシャ株の買いであり、反対で合意が成立しない場合、ユーロドルとドル円が下落すれば押し目買いである。ギリシャ国民の選択を見守りたい。