欧州委員長人事で英キャメロン首相が孤立、伊レンツィ首相は英国を踏み台に緊縮緩和を要求

次期欧州委員長の人事で英国のキャメロン首相が孤立している。キャメロン首相はドイツが推薦する元ルクセンブルク首相のユンケル氏の欧州委員長就任に強く反対し、彼が欧州委員長となった場合、英国はEU離脱の可能性もあるとしてドイツと交渉を続けてきたが、こうした状況を見たイタリアのレンツィ首相は「経済成長と雇用創出を重視する考えがあるならば、人物自体は誰でもよい」として、ユンケル氏が緊縮財政の緩和について譲歩する場合、彼を支持する用意がある考えを示した。イギリスが勇み足でEU離脱という最後のカードをちらつかせた状況を利用して、より穏やかな譲歩案を提示した形となる。

これで南欧諸国はどう転んでも利益を得られる状況となった。欧州委員長が誰になろうとも、全く譲歩を引き出せない結果にはならないだろう。ロイターによれば(原文英語)、欧州議会の第2会派である社会民主進歩同盟の代表、ハンネス・スヴォボダ氏は、「長期的な債務削減を諦めることなく、緊縮規定をより柔軟に運用する方法を模索すべく、レンツィ首相と協議している」と述べた。ユンケル氏の就任そのものに反対するキャメロン首相とは違い、レンツィ首相の要求はドイツにも譲歩を示した、EU内で同意しやすい落とし所であると言える。

ユンケル氏の就任自体に問題がないのかと言えば、南欧諸国に対してはあまり問題とならないだろう。ユンケル氏はユーロ圏の財務相会合であるユーログループの議長として、ユーロ圏の統一に尽力してきた人物である。今回の欧州議会選挙の結果は、緊縮規定が緩和されなければユーロ圏から離脱する国が出てくる可能性を示唆しており、経済統合に尽力するユンケル氏であるからこそある程度の譲歩をせざるを得ないのである。

問題を抱えているのは、最後のカードをテーブルに上げたにも関わらず、成果を得られそうにないキャメロン首相だろう。元々歴史的にヨーロッパ大陸とは距離があるイギリスはEU離脱に一番近い国であり、イギリスに対して何の譲歩も行われない場合、イギリスのEU離脱はありうる。この場合イギリスと欧州両方の経済にある程度の悪影響があると思われる。しかし南欧諸国の経済には、緊縮規定の緩和のほうが影響は大きいだろう。

今月26-27日にEU諸国の代表はこの問題について話し合うことになっている。現状、南欧の内需株に投資する投資家にとっては良い方向に向かっている。