マクロン仏大統領: ドイツはユーロの欠陥から利益を得ている

これでもうドイツの味方をする国はユーロ圏内にも無いのではないか。

7月13日、フランスのマクロン大統領はパリのエリゼ宮でドイツのメルケル首相と会談した。両国合同の閣僚会議で、戦闘機の共同開発の合意が行われるなど、会議は終始和やかなムードで推移したが、やや話題を呼んでいるのは会議前のマクロン大統領の発言である。

ともに親EUでリベラル派の首脳として知られるマクロン氏とメルケル氏の会談で、他の点ではすべて友好的に進んだ会議だったが、Telegraph(原文英語)などによれば、その会議の前にマクロン大統領が以下の発言をした。ユーロ圏におけるドイツの立ち位置についてである。

共通通貨ユーロは機能しない。それは国家間の分裂をもたらすからだ。ユーロ圏の中では、債務のある国は益々債務を抱えるようになり、競争力のある国は益々競争力を高めるようになる。

ドイツはユーロ圏のこの機能不全から、そして他国の不利益から利益を得てきた。この状態は持続不可能であり、よって健全ではない。

これまで何度も説明してきたが、共通通貨ユーロの仕組みにおいては、貿易を通してドイツのような経済大国には益々資金が流入するようになり、イタリアやギリシャのような経済の弱い国からは益々資金が流出するようになる。つまり、ギリシャやイタリアは資金をドイツに吸い取られているのである。

この理屈については以下の記事で経済学的に分かりやすく説明している。貿易収支のグラフを見れば素人でも一発で分かる事実である。

しかし、それでもドイツ人はこの事実を頑なに否定してきた。EUの中ではドイツと歩調を合わせることの多いフランスだが、今回投資銀行出身のマクロン大統領が遂にこの事実を公に追求したことで、この件についてドイツに味方する国は事実上居なくなったと言って良いだろう。孤立無援である。

そもそも、ドイツに従う必要のないユーロ圏外の国々は随分前からこの状況を批判していた。トランプ大統領などはもっとあからさまな表現をしている。

EUとは要するにドイツのことだ。EUはドイツのための乗り物なのだ。だからイギリスがEUを離脱した時、それはとても賢明だと思ったのだ。

そして更に踏み込んでいたのは、イギリスのEU離脱を主導したボリス・ジョンソン外相である。

ユーロはドイツの生産力がユーロ圏の他の地域に対して不可侵の優位性を得るための道具となってしまった。これはわれわれイギリス人にとって、節度と常識の声としてヨーロッパの救世主となり、目の前で繰り広げられる無秩序を止めるためのチャンスなのだ。

他の国にここまで言われていて、ドイツ人自身はどう思っているのか? ドイツ国内においても、経済学を少しでも知っている政治家はこうした事実を理解している。ショイブレ財務相は以下のように本音を漏らしていた。

生活水準を他のEU諸国と分かち合うことを考えるべきなのだが、そうした考えは今のドイツではタブーとされている。

しかし、ショイブレ財務相が言うように、その他多数のドイツ人がそういう考えを認めるはずはない。ドイツ人と話したことのある人であれば分かることだが、彼らはドイツの貿易黒字はドイツ人の勤勉さの証拠で、イタリア人やギリシャ人は怠け者なのだという意見を変えようとしない。しかし、それは経済学的には完全に事実と異なるのである。

このことはソロス氏のような著名ヘッジファンドマネージャーも、経済学者も、トランプ政権も、そして今やフランス大統領でさえも理解している。ショイブレ財務相も理解している。しかし、それでも大勢のドイツ人がその事実を認めることはない。それで苦しむ近隣諸国があったとしても、彼らは自分に心地よい虚構のなかに生きていたいのである。

しかし、親EUのマクロン大統領にとって、この発言はユーロ圏の状況を懸念する人々へのリップサービスのようなものだろう。ソロス氏などが2010年のユーロ圏債務危機よりも以前から主張していたように、この状態を解決するには加盟国の債務を纏めて共同の財務省を創設するしかないのだが、マクロン氏はユーロ共同債の発行を否定している(Deutsche Welle、原文英語)からである。

親EUの政治家といえども認めざるを得ない事実だから一応批判はするが、実際に解決することはしない。投資銀行出身の大統領らしい表面的でお役所的な選択である。

そして、EUの問題を認識しているにもかかわらず、反EUのルペン氏を排除してそういうマクロン氏を選んだフランス人の優柔不断さもフランス人らしい。国際政治とは国民性が出るものである。ドイツ人もフランス人も、そして日本人も、大昔から変わっていないのである。