世界最大のヘッジファンド、暴落する割安シェール企業株をナンピン買い

前回の記事ではレイ・ダリオ氏率いる世界最大のヘッジファンドBridgewaterのポートフォリオの全体像を紹介したが、今回はダリオ氏の保有する個別株を追ってゆきたい。

一つ前の3月末の開示において、ダリオ氏がアメリカのシェール企業Southwestern Energy (NYSE:SWN)に投資していたことを思い出したい。全体としては新興国への投資を増やしたダリオ氏だが、個別株はどうなっているだろうか?

落ちるナイフを掴み続けるダリオ氏

今回の6月末時点のポジション開示において、このポジションは以下のように変化している。

  • 3,093万ドル -> 5,007万ドル

グローバルマクロ投資を行うBridgewaterのポートフォリオは非常に分散されているため、この金額は新興国ETFに賭けている55億ドルに比べれば1%にも満たないが、それでも開示された個別株ポジションの中では最高額である。ダリオ氏の最大の米国個別株ポジションということになる。

しかしながら、3ヶ月前の時点で筆者が「落ちるナイフ」と表現したこの銘柄は、3ヶ月の間に更に20%下落した。

それでもダリオ氏は持ち続けるどころか、ポジションを大幅に増やしている。自分の投資が正しいと信じているのだろう。

暴落するエネルギー関連銘柄

因みに、米国市場で暴落しているのはSouthwestern Energyだけではない。エネルギー関連銘柄全体に売りが入っている。例えばExxon Mobil (NYSE:XOM)である。

この間何が起こったのか? 先ず、原油価格はそれほど下がった訳ではない。

しかし、原油価格が50ドル前後にまで回復しても状況は劇的には改善しておらず、また50ドル台の壁が大きいことがこれまでの原油価格の推移で示されているため、エネルギー関連企業の苦境が長引くことが想定され、投資家が逃げているのである。原油価格の動向については以下の記事で予想した通りに推移しており、シナリオも当時からほとんど変わっていない。

しかしSouthwestern Energyの株式は確かに安い。2017年前半の一株当たり利益は既に$1.02に達しており、後半の利益が仮にゼロでも、現在の株価$5.33で計算するとP/E(株価収益率)は5.23であり、後半も前半と同じ純利益と仮定するとP/Eは2.61となる。原油価格の推移が上記の記事の通りになると仮定すれば、P/Eは現実的にはこの二つの数値の間の何処かで落ち着くことになるだろう。いずれにしても確かに安いのである。

結論

仮に株価が下がり続けたとしても、その投資の理屈が正しいのであれば、投資家は売りではなく買い増しで対応するのが正しい。これはダリオ氏も以下のインタビューで言及している通りであり、彼はそれを実践しているのである。

ニュースに振り回されるだけでも悪いが、最悪なのは市場の反応に振り回されることだ。

例えば、株が大きく上がったとしよう。あなたは「株式市場は素晴らしい投資対象だ」と考える。しかし価格が上昇し割高になるということは、将来のリターンが減少したということを意味する。逆に大きく下がった資産があったとすれば、価値が上がったことを意味するかもしれない。リターンを計算する方法を学ばなければならないということだ。

Bridgewaterがいくらでも買い下がれるのは、運用する資産総額が世界最大であるからではない。マクロのポジションの大きさに比べて個別銘柄への投資は非常に分散されており、一つの銘柄に賭ける金額がポートフォリオの極一部に過ぎないからである。

BridgewaterがSouthwestern Energyに賭けている金額は、新興国株ETFに賭けている金額の1%に過ぎない。株価が下落するにつれてポジションを倍に増やしたところで、全体から見れば微量なのである。一般に、個人投資家は一つの個別銘柄にポートフォリオの大部分を投資し過ぎる。そうした投資家は、機関投資家のリスク管理をもう少し学ぶべきかもしれない。個人投資家へのアドバイスを語った以下のインタビューは中々面白いので、未読の場合は読んでもらいたい。