米国金融引き締めトレード比較: ドル円、ゴールド、長期金利、ジャンク債

トランプ大統領と共和党の税制改革がようやく議会を通り、Fed(連邦準備制度)による利上げとバランスシート縮小という金融引き締め政策が続く中、以下の記事で列挙した金融引き締めトレードの進捗は様々である。

この記事では、上記の記事でリストアップしたトレード戦略のう内、ドル円の買い、ゴールドの空売り、ジャンク債の空売りの進捗をチャートとともに眺めてゆきたい。

実質金利 + インフレ率 = 長期金利

個々のトレードに言及する前に、復習になるが、先ずはすべての基本となる米国長期金利のチャートからである。長期金利はトランプ政権と共和党の税制改革に後押しされてようやく上昇した。

そしてこれまで説明してきた通り、長期金利とはインフレ率と実質金利の和である。市場の予想するインフレ率と実質金利のチャートも再掲しよう。

このように、ここ最近の長期金利の急騰は、インフレ率と実質金利の両方が上昇した結果であるということが分かる。

名目金利と実質金利

さて、長期金利は様々な市場に影響を与えるが、名目の(そのままの)金利に影響されるものもあれば、インフレ率を差し引いた実質金利のチャートに影響されるものもある。

ドル相場や金相場に影響するのは実質金利の方である。投資家はドルの金利が上がればドルを保有したくなり、逆にドルの金利が下がればドルは資産としての魅力が減少し、ドル以外のもの、つまり円やゴールドを保有したくなる。

したがって、ドル円は実質金利と相関関係にあり、金価格(正確にはインフレを差し引いた実質金価格)は実質金利と反相関の関係にあることになる。ドル円や金価格のドル以外の要素、つまり日銀の動向やゴールド自体の生産量などの要素を考慮しなければ、基本的にドル円と(ドル建て)金価格は正反対の動きをすることになる。

しかし、最近のチャートはそうはなっていない。先ずはドル円のチャートである。

次は金価格のチャートである。

9月にドル円が大底を迎え、金価格が天井を迎えたところまでは反相関が表れているが、その後の動きは微妙である。ドル円とゴールドのどちらかが実質金利との連動を離れていることを意味する。

上に掲載した実質金利のチャートと比較すれば、実質金利の上下に相関を維持しているのはドル円の方であることが分かる。金価格のチャートは実質金利のチャートと上下逆になるはずだが、そうはなっていない。

名目金利とジャンク債

とりあえずはドル円と金相場の現状を確認して、ジャンク債のチャートも見てみたい。以下はジャンク債ETFのチャートである。

ジャンク債は筆者が実際に空売りをしている資産クラスである。

上記は11月20日の記事であり、このタイミングでのトレード開始ならばドル円の買いでもゴールドの空売りでもジャンク債の空売りでも含み益となっているが、ジャンク債が一番長期的にも金融引き締めの方向(ジャンク債の場合下落方向)に継続して向かっているようである。その理由は、ジャンク債空売りの記事で以下のように書いた通りである。

通常、米国が金融引き締めを行う場合、「アメリカがくしゃみをすれば別の国が風邪を引く」と言われるように、その影響は米国債よりも他の資産クラス、典型的には新興国の資産など、よりリスクの高いとされている資産から資金の引き上げがあるものである。(中略)そしてアメリカ国内では米国債よりも、倒産の可能性が高い企業の社債、つまりジャンク債などから先に売られてゆくのが王道である。

一方で、ジャンク債の価格は実質金利ではなく、名目金利(インフレ率を差し引かない長期金利)に影響される。しかし、金融引き締めで上昇するのは名目金利よりも実質金利の方であり、税制改革に反応して市場の予想するインフレ率が上がった(名目金利が上がりジャンク債下落に寄与した)とはいえ、インフレ率によるジャンク債の下落分は元に戻る可能性も高く、ジャンク債の空売りをしている投資家はインフレ率の分を別の形でヘッジすることを考えた方が良いだろう。

一方で実質金利に影響されるドル円とゴールドだが、金価格と実質金利の反相関は、一時的に外れることはあっても、長期的に外れることは考えづらい。実質金利から考えればゴールドはもう少し下落するべきだが、そうなっていないのは、恐らく投資家の根強い低金利への傾倒が反映されているのだろう。「金利が長期的に上がるはずがない」ということである。

結論

理論から言えば本来は実質金利に賭けるべきところを、ドル円でもゴールドでもなく名目金利と連動するジャンク債の空売りを選んだ理由は、この金価格の動向に反映されている投資家の低金利への傾倒である。なかなか金利は上がらないだろうが、中央銀行が実際に資金を引き上げる以上、売られる資産は必ず出てくる、というわけである。

ジャンク債の下落の一部がインフレ率の上昇によるものであるということへの懸念はあるが、筆者はドル相場や金相場に浮気をせずにジャンク債の空売りを継続する。インフレ率へのヘッジにはインフレ連動債などを当然使うのだが、日本の個人投資家には手が届きにくいかもしれない。日本の証券業界にはもう少し頑張ってほしいものである。また、これらの金融引き締めトレードの手仕舞いのタイミングについては、以下の記事を参考にしてもらいたい。