新型コロナで借金が実体経済に影響を与える仕組みを分かりやすく説明する

前回の記事では農家と映画館しかいない経済を想定することで新型コロナで消費が減速してゆく様子を簡単に説明した。

しかし前回の記事では考慮しなかった1つの要素がある。それは借金である。

債務の実体経済への影響

前回の記事では考えなかったが、現実の世界には人にお金を借りることが可能であり、人によっては(あるいは国によっては)借金を使って無茶な消費を楽しんでいる。

今回の記事では経済の中に借金に頼って無謀な消費をする経済主体がいる場合、コロナショックがどういう影響を及ぼすのかということを考えたい。

前回と同じように農家と映画館しか存在しない経済を考える。最初はそれぞれが2万ドルを持っている。

0年目 (総資産4万ドル)

  • 農家: 現金2万ドル
  • 映画館: 現金2万ドル

前回では映画館は毎年2万ドルの食料を農家から買っていたが、今回は映画館は質素な生活をしており、1年間に食料を1万ドルしか消費しないと仮定しよう。一方で農家は娯楽の多い豪華な生活が好きで、映画鑑賞に毎年3万ドル費やしたいとしよう。消費の合計(つまりこの経済のGDP)は前回と同じで4万ドルになるだろう。

しかし農家は2万ドルしか持っていない。そこでお金を使わない映画館に頼み込んで1万ドル借金をしたとしよう。農家は1万ドルを受け取る代わりに債券を発行して映画館に渡す。将来お金を返しますという証明である。つまりこうなる。

0年目 (総資産5万ドル)

  • 農家: 現金3万ドル、うち借金1万ドル
  • 映画館: 現金1万ドル、債券1万ドル

今や農家は3万ドル持っている。一方で、映画館の方でも債券を資産としてカウントする。債券とは株式や不動産などと同じ金融資産であり、株式を買っても資産が減ったと考える人はいないだろう。債券も同じであり、よって映画館もまだ2万ドルの資産持っていることになる。

そうすると、いつの間にか経済全体の総資産が5万ドルに増えている。ここがポイントである。経済全体の資金量は貸付で増加する。そしてそれは経済のなかで貸付が減ると再び縮小する。そうするとどうなるかというのが今回の話なのである。

さて、1年目を考えよう。借金によって農家は希望通り3万ドル分映画を見ることができた。一方で映画館も農家から1万円分の食料を買い入れる。

1年目 (GDP: 4万ドル、総資産5万ドル)

  • 農家: 現金1万ドル、うち借金1万ドル (消費: 映画3万ドル)
  • 映画館: 現金3万ドル、債券1万ドル (消費: 食料1万ドル)

この経済全体のGDPは農家と映画館の消費を合わせて4万ドルということになる。前回と同じである。

しかしこれで農家の持つ現金は1万ドルになってしまった。農家は2年目も3万ドル分映画を見たいので、映画館に再び2万ドルの借金を申し込んだ。映画館はお金が余っているので、これを承諾する。すると次のようになる。

1年目 (GDP: 4万ドル、総資産7万ドル)

  • 農家: 現金3万ドル、うち借金3万ドル (消費: 映画3万ドル)
  • 映画館: 現金1万ドル、債券3万ドル (消費: 食料1万ドル)

借金が増えたことによって経済全体の総資産は7万ドルに膨れ上がった。馬鹿みたいな話だが、これは現実である。世界経済の借金総額はもう何十年も膨らみ続けている。これは実際に起こっているのである。

そして2年目にコロナショックが発生する。農家は映画館に行けなくなる。一方で映画館はいつも通り1万ドル分食料を買い入れる。するとその結果は次のようになる。

2年目 (GDP: 1万ドル、総資産7万ドル)

  • 農家: 現金4万ドル、うち借金3万ドル (消費なし)
  • 映画館: 現金なし、債券3万ドル (消費: 食料1万ドル)

GDPは1万ドルに落ち込み、質素に暮らしていたはずの映画館は現金がなくなってしまった。これでは3年目の消費ができないので、映画館は農家に貸している借金を返してもらうことにした。農家はやむなく3万ドルの借金を返済する。

2年目 (GDP: 1万ドル、総資産4万ドル)

  • 農家: 現金1万ドル (消費なし)
  • 映画館: 現金3万ドル (消費: 食料1万ドル)

3年目にはコロナショックはなくなるのだが、映画館は資金をある程度手元に置いておく大切さを学び、これまで行なっていた貸付を行わないことにした。

すると農家はもはや3万ドルの消費をすることができず、農家は3年目に映画を1万ドル分しか見られなくなる。一方で映画館はいつも通り1万ドル分食料を消費する。3年目はこうなる。

3年目 (GDP: 2万ドル、総資産4万ドル)

  • 農家: 現金1万ドル (消費: 映画1万ドル)
  • 映画館: 現金3万ドル (消費: 食料1万ドル)

3年目まで経済が落ち込むのは前回と同じである。しかし今回の問題は4年目になってもそれが回復しないことである。農家の持つ現金はいまだ1万ドルのままなので、農家は1年目のように3万ドルの消費を行うことができない。よって4年目は次のようになる。

4年目 (GDP: 2万ドル、総資産4万ドル)

  • 農家: 現金1万ドル (消費: 映画1万ドル)
  • 映画館: 現金3万ドル (消費: 食料1万ドル)

GDPは2万ドルに減ったままである。前回の話では4年目にはGDPは元に戻っていたことに着目してもらいたい。

現金の量が前回と同じで最初のGDPも前回と同じでも、経済のなかに借金によって無理に消費を上げている経済主体がいると貸付の減退によってコロナショックの後もGDPは恒久的に下がったままになる。

現実世界に話を戻そう。新型ウィルスによる世界的な都市ロックダウンや原油暴落で売上が減少した企業や事業者が大量に出ており、一部は債務不履行に陥っている。

こうした状況によって多くの人や企業が借金返済を迫られると、上で説明したように世界全体の資金総額が減り、GDPは恒久的な減速に直面することになる。

よってここから世界経済がどうなるかを考えるためには、経済全体の借金(債務)の量が減るのかどうかを考えなければならない。

リーマンショックの例

2008年のリーマンショックにおいて債務の量がどうなったかと言えば、当然ながら民間における債務の量は大幅に減少した。多くの人が借金の返済を余儀なくされたということである。

これを補うために政府は国債を発行するなどして代わりに借金を増やした。政府債務はこの期間むしろ増えている。

結果として経済全体の債務の量は増えている。

ここの読者の多くは上の農家と映画館の例を見て「自分なら農家のような無茶な暮らしぶりをするわけがない」と思ったことだろう。しかし実質的には政府を通して先進国の国民すべてがそういう生活をしているのである。個人では無茶な借金をしないにもかかわらず、選挙を通すと同じことが簡単にできてしまう。殺人は難しくとも戦争は簡単であるのと同じである。本当はやりたくともやる勇気がないことは政府にやってもらおうということである。

経済対策と景気後退

さて、そして注目しなければならないのは2008年には債務(流通するお金の量)が合計でむしろ増えたにもかかわらず、それでもGDPは下がったということである。

それは前回の記事で説明したように債務の量にかかわらず消費減速があるからであり、また政府の公共事業や今回の新型コロナの場合はヘリコプターマネーなどが経済に不均衡を生み出すからである。

現状どういう不均衡が生まれているかは金融市場を見れば分かる。以下の記事で説明している。

そして前回の記事で説明したように、不均衡はそれそのものが景気後退要因である。

さて、今回の新型コロナでは不況の規模はどれくらいになるだろうか。例えばアメリカ政府は借金を増やして2兆ドルの経済対策を行うとしている。これは現在のアメリカのGDPの10%弱にあたるが、2兆ドルを費やして経済が2兆ドル持ち上がるわけではないということは前回の記事を読んでもらえれば分かるだろう。新型コロナによる経済減速が仮にGDP10%分に相当する場合、それでも実体経済はマイナス成長になるだろう。

新型コロナによる経済減速と政府による莫大な資金投入、その結果はどうなるだろうか。今後、GDP統計を含む様々なデータが公表されることにより新型コロナの影響がより明らかになってくることになる。ここではそれらをいち早く報じ、できるだけ分かりやすく解説してゆくので楽しみにしてもらいたい。