ブラジル、新型コロナによる人口減少で景気後退へ

できるだけショッキングではないタイトルにしたかったが、その方針を選んだのはブラジル大統領なのである。

「それが現実だ」

アメリカやドイツなどで新型ウィルスの流行が収まりロックダウンの緩和が始まっている中で、新型ウィルスの流行に歯止めが効かなくなっている国がある。ブラジルである。大統領のボルソナロ氏は記者会見で次のように述べた。

国民の70%が感染するだろうが、それが現実だ。

そして記者から1日で474人の死者が出たことについて問われると次のように返した。

だから何だ? 済まない、わたしに何をして欲しいというんだ?

ボルソナロ氏は自分のセカンドネームをもじって次のように続けた。

わたしの名前はメシアだが奇跡は起こせない。

ブラジルの流行状況

ブラジルの新型ウィルス感染者数の推移は次のようになっている。

  • 4月23日: 49,492人 (+3,735 +8.1%)
  • 4月24日: 52,995人 (+3,503 +7.1%)
  • 4月25日: 58,509人 (+5,514 +10.4%)
  • 4月26日: 61,888人 (+3,379 +5.8%)
  • 4月27日: 66,501人 (+4,613 +7.4%)
  • 4月28日: 71,886人 (+5,385 +8.1%)
  • 4月29日: 78,162人 (+6,276 +8.7%)
  • 4月30日: 85,380人 (+7,218 +9.2%)
  • 5月1日: 91,589人 (+6,209 +7.2%)
  • 5月2日: 96,559人 (+4,970 +5.4%)

ピーク時には1日当たり20%から30%の増加が続いたアメリカやヨーロッパの数字に比べれば、一見してこの数字自体はそれほど問題ではないように見える。

しかしこの数字が問題なのはブラジルでロックダウンが開始された3月下旬から既に1ヶ月以上が経っており、しかもロックダウンの解除が既に始まっているからである。4月20日にはマスク着用を義務化した上で一部の小売店の営業再開が決まっている。にもかかわらず感染者数は増え続けている。

途上国におけるウィルス流行

ロックダウンが効いていない上にロックダウンの解除が始まっており、そして流行は拡大を続けている。もうどうしようもない状況である。その背景には途上国は先進国よりも新型ウィルスの流行に脆弱だという事実がある。一見無責任に見える発言をしたボルソナロ大統領は次のように述べている。

ほとんどの国民は冷蔵庫が空なので家に籠もる贅沢などできない。

アメリカや日本のように国民が裕福な国ではリーマン・ショック並みの景気後退を代償として1ヶ月程度の外出自粛を行うことができる。

ある程度貯金があれば数ヶ月収入が無くとも生きていける。裕福な国ではそう出来ない国民に対して政府が現金を配ることもできるかもしれない。

過激な発言を続けるボルソナロ大統領への批判は特に欧米において大きいのだが、多くの先進国の人々が見落としているのは先進国と同じ贅沢が途上国にもできるわけではないということである。ボルソナロ氏はロックダウンについて次のように述べている。

こんなことは続けられない。こんなことが続けば失業数は途方もない規模になり、それを解決するには数年かかることになる。ブラジル経済は停止することができない。そうすればベネズエラのようになってしまう。

本当は先進国でもそうなのである。著名投資家ガンドラック氏の言葉を思い出したい。

政府による企業救済とヘリコプターマネーを求める声がうるさいほどである。でも政府は文無しだ! まったくの文無しだ。

冷蔵庫に何もなく、政府も何も出来なければ働く以外に何が出来るだろうか? そういう現実がブラジルにはあるのである。ボルソナロ氏のロックダウン解除への呼び声をブラジル人がどれだけ支持しているのかは定かではないが、少なくともロックダウンを無視して外出せざるを得ない人々がいるからロックダウン期間中も感染者数が増え続けているだろうことは確かである。

ブラジルの今後

ブラジルには今後3つのシナリオがある。

  • ロックダウンを強行して冷蔵庫に何もない生活を送る
  • ロックダウンを解除して感染者数が増え続け、ウィルスへの恐怖から人々が外に出られなくなり、経済活動が滞る
  • ロックダウンを解除して感染者数が増え続け、それでも経済活動を続けて国民の70%が感染、5%が死亡する

どれも破滅的結果は避けられないようである。最後のシナリオについては現在の感染者96,559人に対して7%にあたる6,750人が亡くなっていることから単純計算したが、実際にこのまま感染者数が増え続ければ医療が崩壊して死者数は感染者数の7%では済まなくなるだろう。ブラジルのような国では人口減少によるGDP減少という冗談にもならないシナリオが現実になる状況下にあるのである。

こうした状況を受けてブラジルレアルは下落している。以下はドルレアル(USDBRL)のチャートであり、上方向がドル高レアル安である。

投資家として言えば、レアルの空売りはもしかしたらまだ間に合うかもしれない。ブラジルがこの状況を打開できるシナリオはほとんど見えてこないからである。しかし筆者は現状では十分なポジションを既に他の市場で取っている。

また、先進国の人々がブラジルの状況を他人事だと思えるのも今だけだろう。これまで債務膨張で何とか経済を保ってきたイタリアやギリシャなどのヨーロッパ諸国はついにブラジルのような貧しい国に転落しつつある。

そしてイタリアの状況はアメリカや日本のような国の未来でもあるのである。そしてこのまま債務を増やし続け量的緩和を続ければ日本も最後にはブラジルになるだろう。

日本が奔放な債務拡大と量的緩和を行っても円が下落しないのは高度経済成長期に蓄えた対外資産のお陰である。紙幣印刷をねだり、10万円が空から降ってくることを期待しても許される現在の日本人は親の資産を食いつぶす放蕩息子のようなものだということを自覚しなければならない。そして親の資産が尽きる瞬間は必ず来るのである。その時に日本人はその報いを受けるだろう。