株式市場に先駆けてリスクオフする為替市場 ドル円下落の理由

さて、株式市場も荒れてきたがそれ以上に明確にリスクオフとなってきたのが為替市場である。為替市場ではここ1週間ほど円高、ドル高、スイスフラン高といわゆる低金利通貨への逃避が続いている。為替相場のリスクオフが本格的に株式市場にも波及するのかどうかが注目される。

ユーロ安、ポンド安、円高、スイスフラン高

4月以降の株高で為替市場もずっとリスクオンとなっていた。為替についてはユーロとポンドがコロナの悪影響を受けやすいことを指摘しておいたが、そのユーロとポンドが上昇していた。

筆者はユーロ圏に囲まれた富裕国スイスのスイスフランに対してユーロを空売りしている。ユーロスイスフランのチャートは次のようになっている。

新型コロナでギリシャやイタリアなどが致命的な状況となっているユーロが、一時的な収入減に耐えられる十分な資産を持っているスイスのスイスフランに対して一時的に上昇した。株式市場のリスクオンが意味もなく為替市場に波及したからである。

新型コロナの影響の大きい銀行業に依存しているイギリスのポンドも同じような値動きとなっている。以下はポンド円のチャートである。

しかしどちらもあるべきトレンドに戻ろうとしている。ポンドの状況がユーロより悪いように見えるのは、ユーロ圏よりもイギリスの状況が悪いという為替市場の判断なのだろう。

為替市場の動向の意味

5月以降の為替市場のイレギュラーな動向は筆者にとって非常に大きな示唆を与えてくれた。筆者は6月前半までの株高の中、株価上昇は根拠のない楽観であり、中央銀行の緩和によって株高が正当化されたわけではないと続けて主張してきた。

その理由のなかでもっとも大きいものの1つが為替市場がリスクオフに動かなかったことである。いまだコロナがまったく収まっていないブラジルの通貨レアルでさえも一時上昇していた。以下はドルレアルのチャートであり、上方向がドル高レアル安である。

しかしそれもレアル安トレンドに戻りつつある。そしてドル円も今のところはリスクオフの円高方向に素直に反応しているということである。

量的緩和で救えないもの

為替市場の矛盾した動きは、筆者にこれまでの上昇相場が偽物であることの強い確信を与えてくれた。しかし何故為替相場がリスクオフにならなければ株式相場の上昇が偽物だと言えるのだろうか?

量的緩和は究極的にはすべての市場を救うことができる。上場している株式を中央銀行がすべて買い上げてしまえば中央銀行は株式市場を完全に操作できる。

コストはないのか? その犠牲になるのは実質経済成長率であり、アメリカや日本などの先進国経済はそのためにこれまで既に低成長を享受してきたのである。新型コロナでも各国政府は紙幣印刷に頼っているが、そのコストは「低成長」どころでは済まないだろう。

しかしそれでも中央銀行は債券市場と株式市場を救うことができる。きっと政府にとって株式市場は実体経済よりも大切なのだろう。

ただ、金融緩和にも救えないものが1つだけ存在する。為替市場である。量的緩和とは自国通貨を刷ることで自国通貨を増やす政策であり、自国通貨を上昇させようとすれば自国通貨を減らさなければならない。

しかし自国通貨を減らせばリーマンショック以降金融緩和の薬漬けになっている株式市場は完全に崩壊してしまう。だから各国政府は自国通貨を犠牲にして他のものを守ろうとする。レイ・ダリオ氏の言うように、それが経済にとって良いからではなくそれが一番政治的に都合が良いからである。

背理法で証明するはりぼての上昇相場

したがってこれまでのリスクオン相場は流動性相場ではなく単に根拠のない短期的楽観に過ぎないということが分かる。何故そう言えるのか? 仮に金融緩和による流動性相場であるとすれば、コロナによるダメージに応じて自国通貨が下がらなければならない。国によってはコロナによる資金流出が元々膨大な上に、各国政府は「必要な分だけ」緩和をしようとするからである。

ブラジルレアルは下がらなければならず、ユーロはスイスフランに対して下がらなければならず、ポンドは円に対して下がらなければならない。

しかしここ数ヶ月そうはなっていなかった。市場がコロナの影響を正しく評価した上で流動性が勝ると本気で考えていたならば、為替相場だけは理性的に動かなければならなかったのである。

しかしそうならなかった。これに世界で一番コロナの影響を受けるブラジルの一番影響を受ける銀行株まで上がり始めた状況などを加味すると、市場が流動性の規模を正しく織り込んだのではなく、単に市場が何も分かっていないだけだということがはっきりするのである。

ヘッジファンドの先駆者ジョージ・ソロス氏の言葉はほとんど引退した今でも深みがある。

繰り返しになるが、バブル相場を見たときにはその中身をしっかり精査することが必要である。ウォーレン・バフェット氏はこう言っていた。まさに今の状況にふさわしいだろう。

波が引いて初めて誰が裸で泳いでいたかが分かる。

あなたは今服を着ているだろうか? せめて水着くらいは着用しておくべきだろうと、個人的には思うのである。