メルケル首相: SNS大手のトランプ氏アカウント停止は問題

新型コロナウィルスの流行がもはや制御不能なものとなるなか、米国の政治は混乱を極めている。2020年の大統領選で敗北したドナルド・トランプ大統領は選挙結果を長らく否定していたが、最近ようやく政権移譲に同意した。

アメリカ議会乱入

一方で選挙結果を不当なものと考える一部の有権者が1月6日に米国議会に押し入り、有権者と警官の両方を含む複数の死者が出るなどいかにも米国らしい政治が続いている。

そうしている間にも米国では新型コロナの新規感染者が1日に20万人程度、死者が数千人程度の規模で確認されており、他にやるべきことがあるだろうと思うのだがそういうことは気にしないのがアメリカのやり方である。

このアメリカ議会乱入の後、Twitterなどの大手SNSサイトがトランプ氏のアカウントを停止するなどの措置を行なった。前々から感じていたことだが、TwitterやFacebookなどの会社は「何が社会に発信されるべきで、何が発信されるべきでないか」を決める権限があるようである。

元々は新聞社やテレビ局などがこの権限を自由に行使していた。そこにSNSが現れ、限られた企業ではなく人々が自由に意見を交換できるようになった結果、イギリスはEUを離脱し、アメリカではトランプ大統領が誕生した。

これが一部の政治家の気に入らなかったようである。トランプ氏が大統領選で勝利した後、一部の政治家によってSNS各社に影響力を行使すべきだという話し合いが持たれ、それは速やかに実行された。

Facebookのマーク・ザッカーバーグ氏は当初は政治家らのこうした主張を馬鹿げたものだと一蹴していたが、ザッカーバーグ氏本人が議会に呼び出されるなど事態の深刻さを認識した後はSNS上のコンテンツを検閲することに同意することになり、Twitterなど各社も続くこととなった。政治家の圧力によってSNSが新聞社になったのである。

規制を主導したメルケル氏

こうしたいわゆる「インターネット規制」を主導した政治家の代表格がドイツのメルケル首相である。

しかしFinancial Timesなど各紙が報じているところによると、今回のトランプ氏のアカウント停止についてはメルケル氏は「言論の自由は重要で本質的な権利」であり、トランプ氏のアカウント停止は「問題だ」と主張、SNS大手の動きを批判した。

インターネット規制を主導していたメルケル氏に何があったのか? それはメルケル氏のコメントを全文読んでみると分かる。彼女はこう言ったのである。

言論の自由は重要で本質的な権利である。この権利は制限されることもあるが、それは法を元に議会によって決定されたフレイムワークによって決まるべきであり、ソーシャルメディア各社の決定によって決められるべきではない。

これを読者各位はどう思うだろうか? ドイツの与党であるキリスト教民主同盟を率いるメルケル首相は、当然ながら議会の一員である。

要するにメルケル氏は、「言論の自由の制限は自分たちによって決められるべきであり、彼らが決めるべきではない」と言ったのである。

ちなみにメルケル氏はドイツにおけるリベラル政治家の代表格である。リベラリズム(自由主義)とはなかなか面白い命名ではないか。