世界最大のヘッジファンド: ビットコインはガラケーのようになる

少し間が空いたが世界最大のヘッジファンドBridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏がビットコインについて書いた記事の続きである。

今や世界中のファンドマネージャーらがビットコインに注目している。ダリオ氏もその1人であり、以前の記事では主にダリオ氏がビットコインを褒めた部分を紹介した。

しかしダリオ氏は政治でも何でもできるだけ中立的に話をしようとする論客であり、ビットコインについても長所、短所を両方論じている。今回の記事ではダリオ氏がビットコインの短所とみなした部分について報じたい。

ビットコインの問題点

ダリオ氏は以前の記事でビットコインは価値の貯蔵とプライバシーの保護という実需を満たすものになりうると主張していた。その上で氏は次のように問題点を指摘する。

ビットコインは一部の人々が主張するようにはプライバシーの保護になるようには見えない。ビットコインは結局は公開された台帳であり、公開された場所に保存されている。だから政府が(そしておそらくハッカーも)誰がビットコインを保有しているのかを知りたいと思えば、プライバシーが守られるかどうかは疑問だろう。

ダリオ氏が問題視するのはビットコインがプライバシーの保護に繋がるかどうかという点である。

わたしが以前から主張しているように、少なくとも暗号通貨取引所に身分証明書を送ってビットコインを買っている人々のプライバシーは、現金を使っている人々のプライバシーよりもオープンになっている。現金を使っていれば記録されないものをわざわざ自分から記録しているからである。

またダリオ氏は別の問題も指摘する。

それに政府がビットコインを禁止したいと思えば、現在ビットコインを使っているほとんどの人はビットコインを使えなくなり、ビットコインの需要は急激に低下するだろう。

これも取引所を使ってビットコインを売買している人々の問題である。取引所は政府によって容易に閉鎖されうる。ビットコインはデジタルデータなので本来取引所がなくともやり取りは出来るが、ダリオ氏の言うように取引所が閉鎖されれば多くの人はビットコインの売買を止めるだろう。

上にも書いたように取引所を使ってビットコインを買うメリットはなく、この方法でビットコインを買っている人の需要は本当の需要ではないことになる。彼らは値段が上がっているものを買っているだけである。ビットコインにとって本当の試練となるのは自分が何を買っているのかを理解していないこうした人々がいなくなってから何処まで行けるかということだろう。

問題点は修正されるか?

さて、上に書いた問題点のうちプライバシーの問題は技術的に解決可能である。

取引が世界中に公開されているというのはビットコインの設計者が望んで行なった設計ではない。ビットコインの採掘とは取引が真正のものであるかどうかを第三者が計算で確認することであるため、すべての取引が第三者によって確認される必要があった。取引が公開されているのは仕方なくそうなっているということである。

一方でこの問題は既に技術的に解決されている。対象に関する知識を公開せずにその知識(データ)を持っていることを証明する技術で、ゼロ知識証明と呼ばれる。

数学の知識がなければ完全な理解が難しいかもしれないが、取引情報を秘匿できる技術で、これを使えば取引を全世界に公開せずにやり取りが出来ることになる。

これでダリオ氏の指摘したビットコインの問題は解決されるかと言えば、そうではない。なぜか? ダリオ氏が次のように説明している通りである。

ビットコインのシステムは固定されてしまっているので、ビットコインは進化することができない。

ビットコインは新たな機能を取り込むことが出来ないのである。システムを書き換えることが出来れば取引を書き換えることが出来るので、暗号通貨を進化させるには既存のものを修正するのではなく新たな通貨を作る必要がある。

ダリオ氏は次のように続ける。

ビットコインの改良版が新たに作られ、ビットコインを追い越してゆくだろう。

ビットコインの供給は限られているが、暗号通貨全体の供給が限られているわけではない。

ブラックベリー(訳注:欧米でよく使われていた旧タイプの携帯電話)の供給が限られていてもあまり意味はないだろう。より進化した他の競争相手に置き換えられるだけだ。

ビットコインはガラケーのようになるそうである。

しかしこれらは実はわたしが3年前に書いたことの焼き増しに他ならない。ダリオ氏は3年遅かったようである。

成功することがリスク

この話の一番の肝はダリオ氏の次のコメントである。

暗号通貨が成功すればするほど暗号通貨にとってのリスクが大きくなるように思う。

なぜか。ダリオ氏が最初に述べた、政府が本腰を入れて暗号通貨を禁止するリスクが高まるからである。

特に、ゼロ知識証明を備えた暗号通貨がビットコインを超えて有名になった場合、国民から税金を徴収して票田に再配分したい政治家たちにとっては本物の脅威となる。そうなれば暗号通貨は政治家との本物の戦争に突入するだろう。ダリオ氏は次のように述べている。

暗号通貨の最大のリスクは成功しすぎることであるように思う。成功しすぎるなら政府は暗号通貨を抹消しようとするだろうし、政府にはそうするだけの十分な力がある。

しかしそのシナリオが実現するまでにはまだ間がある。

「成功」しすぎるまでどれくらいの余地があるのかについてはスコット・マイナード氏の見方が参考になるだろう。

この記事を書いてからビットコイン価格は大分上がったが、マイナード氏の想定価格まではまだ距離がある。

一方でビットコインの投資家はその後のシナリオも考えておく必要があるだろう。

通貨の支配権という権力を維持したい政府との本物の戦争はスイスの銀行業界が既に経験し、完全敗北に終わったことは金融業界の人間なら誰でも知っている。

それは経済学者ハイエク氏の夢でもある。

暗号通貨はIRS(アメリカの国税庁)に勝つことが出来るだろうか。金融業界の人間としては楽しみに傍観したいところである。