量的緩和で上がらなかった物価が現金給付で高騰する理由

2008年のリーマンショック以後、アメリカや日本などの先進国は紙幣を印刷する量的緩和政策を行なってきた。紙幣印刷を乱用すればインフレが起こるという懸念があったが、実際にはデフレ圧力は根強くインフレは起こらなかった。

現在、金融市場ではコロナ禍の現金給付などの財政政策で物価高騰が懸念されている。お金をばら撒けばインフレになるだろうということである。

金融市場で取引される貴金属や穀物などのコモディティ価格は日用品の価格に先行して上がっており、インフレでコモディティが上がると踏んだファンドマネージャーらの資金がコモディティ市場に向かっているのは明らかである。例えば以下は銅価格のチャートである。

以下は大豆価格のチャートである。

機関投資家の資金が入っていることが見て取れる。価格はかなり上がっているが、バイデン政権のインフラ投資がこれから行われることを考えても、そうしたインフレ予想が正しければこれらのコモディティバブルはまだまだ中盤ということになるだろう。

本当にインフレは来るのか?

一方で物価上昇予想に対する疑念の声もあるだろう。これまでいくら紙幣を刷ってもインフレにはならなかったからである。「今回は違う」と言うことが出来るのだろうか? しかしインフレ予想に限っては今回は違うということを数字で示すことが出来るのである。

それはマネーサプライである。マネーサプライとは中央銀行が発行した現金(紙幣と硬貨)に銀行に預けられている預金を足したものであり、つまり「世の中にどれだけお金があるか」を示している。

これは量的緩和で増加するマネタリーベースとは違う。マネタリーベースは現金に市中の銀行が中央銀行に預けている預金を足したものであり、これは消費者や企業の持つ口座にある預金とは異なる。

量的緩和では中央銀行が銀行の持つ国債を買うことで現金と入れ替え、銀行の持つ現金の量(マネタリーベース)を増やす。

しかし銀行がいくらお金を持っていようとも、消費者や企業の銀行口座に入っていなければそのお金は使われることがない。銀行はこれを人や企業に貸し出すことでマネタリーベースはマネーサプライになるのである。

つまり、マネタリーベース(銀行の持っているお金)が増えようともマネーサプライ(消費者や企業が持っているお金)が増えなければインフレにはならない。リーマンショック以後の金融緩和ではマネーサプライは大して増えなかった。では今はどうなっているだろうか? アメリカのマネーサプライの増加率(前年同月比)のチャートは次のようになっている。

最新3月のマネーサプライは前年同月に比べて25%以上の増加となっており、これは過去30年に遡っても比べられる時期の存在しない増加スピードである。

何故そうなったか。トランプ氏とバイデン氏が立て続けに国民の銀行口座に直接お金を注入したからである。量的緩和と現金給付はマネタリーベースとマネーサプライのどちらを増やすのかという意味でマクロ経済学的に大きく異なる。

それが筆者が「今回は違う」「物価高騰が起こる」と考えている根拠である。このマネーサプライのチャートは長年マクロ経済学をやってきた人間からすると仰天のチャートなのだが、それが分かってもらえるだろうか。パウエル議長はそれがどれだけ分かっているだろうか。

結論

ということで筆者も著名ファンドマネージャーらもコモディティに大きく投資している。

貴金属や穀物は実は日本の個人投資家でも買える。その方法については以下の記事で解説している。

コモディティはどれも大分上がっているが、コモディティバブルはまだ中盤だと筆者は見ている。ここ1ヶ月ほど横ばいになっているのはインフレ懸念で金利が上がってきたからである。しかしインフレ懸念による金利上昇とコモディティ価格の低迷が長期的に両立することはないだろう。

そして一番上がるのは何よりビットコインである。ビットコインもコモディティであり、最近の金利上昇もものともせずに上がり続けている。ビットコイン相場の今後の推移については以下の記事を参考にしてもらいたい。