2015年商品市場大暴落の原因と影響: 金、原油、天然ガス、銅、鉄鉱石

コモディティ市場の下落が止まらない。米国の利上げが近いことによるドル高と、中国の景気減退懸念と言えばもっともらしいが、以下の2つの点で強い違和感がある。

  • 量的緩和を行っている円やユーロで見ても大幅な下落である
  • 米国の量的緩和前の水準まで下落してきている

米国は確かに大規模な量的緩和を停止したが、米国は買い入れた債券を放出しておらず、まだ利上げもしていないのである。

この時点でもし日本とユーロ圏が量的緩和を停止すれば商品価格は更なる暴落を迎えそうであり、そうなれば世界中で量的緩和を行ったらデフレになったなどということになりかねない。非常に奇妙な事態が起きているのであり、投資家は合理的な説明を考える必要がある。

コモディティ価格の変化

先ずはそれぞれの商品がどの水準まで下落したのかをまとめよう。以下は順に、サブプライム・ローン危機後の底値、2011年頃の高値、現在の価格である。

  • 金:$700 -> $1900 -> $1100
  • 原油:$30 ->  $150 -> $45
  • 天然ガス:$2.5 -> $7 -> $2.7
  • 銅:$1.3 -> $4.6 -> $2.3
  • 鉄鉱石:$60 -> $190 -> $45

ファンダメンタルズで見れば、原油と天然ガスは米国シェールによる大幅な供給増、鉄鉱石は中国のインフラ需要減退による需要減と生産大手の増産による供給増、銅は中国の景気減退懸念、金は逆に生産コストの上昇による潜在的な供給減となっている。

金だけは押し目買い可能

上記の価格下落のうち、金だけは実需ではなく金融市場における需給で動いていることが分かる。産金コストは1000-1200ドルまで上昇しており、これが今後下がることは考えづらい。これが金を押し目買いできる理由であるが、以下の記事に書いた通り、買いに入るのはまだ早い。

商品価格下落の原因

投資家はコモディティ価格の下落を単純に産業のコスト低下と考え、世界経済を下支えすると見ていいのだろうか? 何故世界的な金融緩和にもかかわらず、コモディティ価格は上がっていないのか?

第一の推測は、量的緩和がなければ世界経済はもっと酷い状況だったと考えることである。このシナリオが正しければ、世界経済の潜在成長率は非常に低いこととなり、米国がかろうじて達成した2%の経済成長でさえ、量的緩和による大量の流動性に支えられていることになる。

この推論が正しければ、P/E(株価収益率)などで市場の割高・割安を測ることが意味をなさなくなる。P/Eは株価を利益で割った数字だが、利益のほうが実体経済に流入した人工的な流動性で支えられていることになるからである。

これは2008年の金融危機で起きたことである。バブル崩壊前、株式市場はP/Eで見てバブル水準ではなかったが、バブル崩壊後に実体経済から債務による流動性が失われたことによって、企業の利益が大幅に減少し、結果的にP/Eも悪化した。商品市場の暴落が続けば、世界的な量的緩和終了後、同様のシナリオを辿る可能性がある。

資金は何処へゆくのか?

商品市場から出て行った資金は何処に流れているのだろうか? 債券と株式だろう。勿論現金で保管される分も多いだろうが、余った資金の一部は常に金融市場に供給され続ける。

量的緩和によって債券の利回りがほとんどゼロに等しいために、恩恵を受けているのは株式である。行き場のない資金がリスク資産に流れている。これをポートフォリオ・リバランスと呼び、以下の記事で書いた通り、量的緩和の効果の一つである。

再帰的な利上げ相場

ちなみに、このトレンドはジョージ・ソロス氏の言う「再帰的なトレンド」である。商品市場からリスク資産へと資金が流れてくることで、債券と株式の価格が支えられ、中央銀行は利上げを躊躇わなくなる。利上げは更なる商品暴落を引き起こし、資金はリスク資産へと逃避する。

  • コモディティ安 -> 債券高 -> 株高 -> 利上げ正当化

米国が利上げをすれば、ドルは上がり、高い金利が中国経済を圧迫するため、二重の意味で商品価格を下落させることとなる。こうしてプロセスが再帰的に繰り返されるわけである。

  • 米国利上げ -> ドル高 -> コモディティ安
  • 米国利上げ -> 中国経済停滞 -> コモディティ安

しかし、株や債券が支えられているのは、米国が量的緩和を辞めても日本とユーロ圏が引き継ぎ、その間は先進国の金利は低く抑えられ、債券市場が好調なうちは株式市場も暴落しないためである。

しかしそれにも終わりは来る。すべての先進国が量的緩和を終了するとき、株式市場と債券市場は資金の奪い合いを始め、利上げは正当化されなくなり、すべてのトレンドは逆転する。金はバブルになるだろう。ジム・ロジャーズ氏の予測する通りである。

しかしながら、コモディティ市場の暴落は世界的な潜在成長率の低迷を示唆しており、先進国の低金利は長らく続くと思われる。そうなれば上記に書いたトレンドは延命されるだろう。

再帰的トレンドは一方が進めば他方も進む、自己強化的なトレンドであり、続けば続くほど市場を非常な過熱水準にまで高めるが、それゆえに逆流する時の勢いも同様に激しいものである。

ソロス氏の再帰理論に基づいた投資戦略については、彼自身の著作を参考にしてほしい。量的緩和相場が終わるとき、グローバル・マクロ戦略は非常に役に立つはずである。


新版 ソロスの錬金術