アイカーン氏がインフレで株価急落を予想、住宅ローンはサブプライム危機の再来へ

著名投資家のカール・アイカーン氏がBloombergによるインタビューでインフレと自分のポジションについて語っている。2008年を彷彿とさせるシナリオを語っていて興味深いので紹介したい。

インフレと金融引き締め

アイカーン氏は現金給付などの刺激策でV字回復した経済と、その結果アメリカで起こり始めている物価高騰についてこう述べている。

経済に大量の資金が注入されている。当然インフレが起こる。というかそれはもう起こっている。だからインフレに対応する必要が出てくるだろう。ブレーキを踏まなければならなくなる。

ブレーキを踏んでインフレに対応するとはつまり中央銀行が金融引き締めを行うということである。彼はこう続ける。

いずれ金利は上昇し市場に大きな調整が起こるだろう。しかしいつ起こるのか、どれぐらい大きなものになるのかについては現時点では答えられない。

アメリカではインフレが始まっており、インフレ懸念で金利が上がったことでコロナ後の株価回復を支えてきた低金利がなくなりつつある。

金利は金融引き締めが始まっていないにもかかわらず上がっている。インフレが続けば実際に金融引き締めが行われ、その強度が強まれば最終的には2018年型の株価暴落が起きるだろう。当時は量的引き締めが株価を下落させている。

しかしアイカーン氏の言う通り、現時点で金融引き締めが(そして株安が)どれほど大きくなるのかについて予想するのは早すぎるだろう。2018年においてそうだったように、株価が実際に急落を始めるまでには長いプロセスがある。当時からの読者なら覚えているだろう。しかしそろそろ投資家はそのシナリオを頭に入れ始めるべきなのである。

アイカーン氏のモーゲージ債空売り

さて、では今投資家に出来ることは何だろうか。アイカーン氏は現在進行系のポジションを1つ紹介している。

CMBXの空売りはわたしの大きなポジションの1つだ。

CMBXとはショッピングモールなどの不動産ローンを纏めた指数である。ショッピングモールは苦境にあえいでいる。ドラッケンミラー氏の大儲けしたAmazon.comがコロナ経済の光であれば、消費者が足を運ばなくなったショッピングモールは影の部分だろう。

それでショッピングモールが不動産ローンを払えなくなると予想し、アイカーン氏はそれらの債券を空売りしているのである。

ショッピングモールやCMBX 6に含まれる他のいかがわしい不動産はローンの借り換えを行うことができず、借金は支払われないだろう。これらの多くのショッピングモールのローンは2022年に期限となる。

これらのローンは2008年で問題となったような住宅ローン証券と同じ悲惨な運命を辿ることになると信じている。

これらの債券はモーゲージ債と呼ばれ、サブプライムローン危機で一躍有名となったあの証券である。

2008年にはモーゲージ債のデフォルトがリーマンショックの原因となった。そしてアイカーン氏は更に2008年を彷彿とさせることを言っている。

われわれはこれらのモーゲージのCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を効率的に買い集めることが出来た。CDS契約とは少額の決まった保険料を払うことでこれらのモーゲージが満額支払われるように契約相手に保証させるものだ。

つまり、モーゲージがデフォルトすればCDSの契約相手がその分を保証してくれる契約ということである。

アイカーン氏はこれらのモーゲージ債を保有しているわけではないが、CDSを買うことでローンがデフォルトした時に利益を得ることができる。2008年のリーマンショックではモーゲージ債は大量にデフォルトし、リーマン・ブラザーズなどの多くの「契約相手」がデフォルトした債券の多額の保証を求められて破綻した。

2008年の再来か

市場にはアイカーン氏のようにモーゲージ債の破綻を予想する投資家もいれば、破綻しないと主張して顧客に販売するファンドもある。アイカーン氏は次のように説明する。

興味深いことに、AllianceBernsteinやPutnamのような巨大ミューチュアルファンドがわたしのポジションの逆を行なっている。

今の状況は2008年にかなり似ている。高名な企業を信じ、これらのモーゲージ債が国債と同じぐらい安全だと信じた普通のアメリカ人が多額のお金を失った。

多くの人がこれらのショッピングモールや経営不振の不動産は決してローンを返済できないと信じている。

どんなアドバイザーが国債よりも少しだけ高い金利のために、これらのショッピングモールや他のいかがわしい不動産がローンを返せずに投資家が多額の資金を失うリスクを自分の顧客に取らせるんだ?

筆者もAllianceBernsteinがモーゲージ債を推している記事を公式サイトで読んでみたが、アイカーン氏や筆者のようなバイサイド(証券の買い手)の人間が決してセルサイド(証券の売り手)の言葉を真に受けないのは、彼らが自分でリスクを取らずに顧客にだけリスクを取らせるからだ。バイサイドからすればそれは利益背反である。アイカーン氏は次のように言う。

この種類の保険に2020年1月に投資していれば投資家は現在の評価額で20%以上を失っていることになる。一方で国債はより低いリスクで4%のリターンを出している。にもかかわらずAllianceBernsteinやPutnamはそこから手数料まで徴収する。

インフレはもうすぐ醜い頭をあげて金利をかなりの程度上昇させ、これらのショッピングモールはローンの支払いのための借り換えが出来なくなる可能性はかなり高い。にもかかわらず、これらの高名な企業は自分の顧客に2008年の愚行を繰り返させようとしている。

結局のところ、顧客に商品を売って手数料で食べている人々は自分の資金を賭けている人間ほどそれが上がるか下がるかを気にかけない。上がっても下がっても手数料は手に入るからだ。セルサイドのウェブサイトにはあらゆる商品の売り文句が常に並んでいる。上げ相場でも下げ相場でも常に並んでいるのである。

常々思っているのだが、せめてアドバイザーと販売者を分けるべきではないか。証券を売る企業が必要なのは当然だが、彼らは市場や金融商品について顧客に語るべきではないと思う。このような利益背反が当たり前のように許されているのが金融業界である。