ガンドラック氏: 追加緩和が来る恐怖、追加緩和が来ない恐怖

米国時間6月10日に公開されるアメリカの5月分の消費者物価指数(CPI)を前に、インフレと債券の専門家であるジェフリー・ガンドラック氏のツイートを取り上げたい。

刺激策の亡霊

これは5月22日のツイートだがガンドラック氏が興味深いことを呟いている。

過去の刺激策の亡霊がアメリカ経済と金融市場の周りに集まっている。露骨な投機、供給不足、経済のゆがみ。追加刺激が来ることへの恐怖と追加刺激が来ないことへの恐怖との結婚は離婚に終わるしかない。

露骨な投機とは、例えばゲームを実店舗で小売販売する、悪く言えば前時代的なGamestopの株式がグロース株のような水準まで暴騰したことだろう。ガンドラック氏は以前これを政府の現金給付が招いた投機だとして批判していた。

供給不足とは、例えば金融市場で金属や穀物の価格が高騰して様々な分野でコスト高に繋がっていること、そして手厚過ぎる失業保険が労働者に失業したままでいるインセンティブを与えていることだろう。彼は以前次のように述べていた。

家でNexflixで動画を見ている方が働くよりも儲かると一定数の人が気付いた。だから職場に帰ろうとしない。

こうした要因が材料費と人件費を高騰させ、インフレを起こしている。アメリカの中央銀行であるFed(連邦準備制度)のパウエル議長はインフレは一時的なものだと主張しているが、ガンドラック氏がそうではないと主張しているのはそういう理由による。

行くも地獄、帰るも地獄

一番興味深いのはツイートの最後の部分だろう。インフレへの恐怖が金融市場で金属や穀物の価格を高騰させている。これは刺激策が過剰であることへの恐怖だが、一方で株式市場と実体経済は追加の刺激策が来ないことへの恐怖を表明するだろう。現金給付などの刺激策がなければ株価は間違いなくここまで上がらなかった。

そして追加の刺激策がなければ維持も不可能だろう。

ガンドラック氏が言っているのは、どちらかの恐怖は実現しなければならないということである。2018年に金融引き締めで株価を暴落させたトラウマのあるパウエル議長はぎりぎりまで引き締めを躊躇うだろうが、躊躇えば躊躇うほど物価高騰は進み、中央銀行はより急激にブレーキを踏まざるを得なくなる。

物価の安定を取れば株価が下落する。株価を取れば物価が高騰する。中央銀行はいずれ選ばなければならない。CPIは中央銀行に選択を迫る時限装置のような役割を果たしている。

5月のCPI

インフレはどうなるだろうか。5月のCPIが米国時間の10日に発表される。これについてガンドラック氏は最近のツイートで次のように述べた。

6月10日は次のCPIの公表日だ。上方向に賭ける。

ガンドラック氏の以前の予想では短期要因によるインフレ加速は7月まで続くとのことだったから、今回のCPIが加速方向になるのは彼にとって既定路線だろう。

しかし加速の度合いによってはサプライズになる可能性もある。恐らく今市場が一番注目している指標がCPIだろう。ガンドラック氏はインフレが行き過ぎれば株価の下落に繋がるという予想をしている。

CPIはどうなるだろうか。コモディティ相場全体への影響については、代表して銅相場を分析した記事に書いてあるのでそちらを参考にしてもらいたい。