パウエル議長の玉虫色の議会証言に惑わされるな

7月14日にFed(連邦準備制度)議長のジェローム・パウエル氏が議会証言を行い、実体経済や金融政策について発言した。テーパリング(量的緩和縮小)についても語ったが、どうにも要領を得ない発言が多かった。

物価高騰とその理由

まずは懸念されているアメリカの物価上昇についてパウエル氏が述べた部分を引用しよう。

物価は顕著に上昇しており、それは沈静化する前に数ヶ月は続きそうだ。

何処かで聞いた台詞である。債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏やスコット・マイナード氏らの議論と同じである。

最近思っていたのだが、どうもパウエル氏は著名投資家の議論を後から聞いて後付けで理屈を付け加えているように思える。当初は全く根拠がなかった、あるいは経済学の骨董品であるフィリップス曲線を理由としていた「インフレは一時的」の議論に、著名投資家たちが既に話した論理が時間とともに少しずつ付け加わってきている。

数ヶ月の後ある程度沈静化するという議論までは良い。詳細は上記のマイナード氏らの記事を参考にしてもらいたい。だがそれに続くパウエル氏の理由説明が良くない。彼は次のように続けている。

インフレはベース効果によって一時的に持ち上げられている。コロナによる去年の春からの物価下落が12ヶ月の物価計算に影響を与えているからだ。

残念ながら現在の物価上昇の原因をベース効果だとする議論は間違っている。

ベース効果とは前年同月比(例えば今年の6月と去年の6月を比べて物価がどれだけ上がったかを計算する)で見た場合、比較対象となる前年同月が極端に低い数字であれば、その月と比較して今年の数字は高くなるということである。

しかし例えば最近報じた最新のCPI(消費者物価指数)は前年比ではなく前月比で見たものだが、インフレは年率11.4%と十分に加速している。

前月比(例えば5月と6月の比較)は恣意的な季節調整(月ごとに異なる季節要因を統計発表者が恣意的に調整する)に頼らなければならない問題もあるため、読者も知っての通り筆者は前年同月比のデータを通常は好んでいる。

しかしコロナ後は一時的な落ち込みがデータを撹乱してしまうため、一貫して前月比年率のデータを用いている。それでもインフレが十分上がっていることは読者も知っての通りである。インフレ加速は今年の問題なのである。

利上げとテーパリング

またパウエル氏はインフレについて次のようにも発言している。

最近のインフレデータはわれわれが予想し、また望んでいた数字よりも高くなっている。

これまで散々否定してきたことを遂に認めてしまった。だんだん「インフレは一時的」の議論があやしくなってきている。中央銀行の見解はいつもこのように修正されてゆくので投資家はあまり真剣に取ってはならない。

結局、問題は利上げとテーパリングがどうなるかである。それが株価の動向を決める。

先ず利上げについてはパウエル氏は次のように述べている。

インフレが2%に上昇し、2%を穏やかに上回る期間がある程度続くまで(中略)政策金利を現在のレンジに維持することが適切であると見ている。

この話が奇妙だと思った読者がいればそれは正しいのだが、現在のインフレ率はどのような基準で見たとしても2%を上回ってからかなり経っている。仮に短期効果が剥落しても2%は間違いなく超えるだろう。

実際、パウエル氏は議会で「ある程度とはどれくらいなのか」と突っ込まれ、次のように答えている。

それは難しい問題だ。問題は今後6ヶ月でどのような情報がもたらされるかだ。その時振り返ってみて条件を満たしていると言えるかもしれないし、もしかしたら言えないかもしれない。

パウエル氏より議員の方がまともな議論をしている。

また、テーパリングについては次のように述べている。

完全雇用と物価安定の目標に向けての顕著な進展が見られるまで量的緩和を少なくとも今のペースで継続する。

そして、「顕著な進展」についてはパウエル氏は次のように述べている。

「顕著な進展」が見られるまでにはまだ道半ばであるとはいえ、進展は続くと予想されている。

パウエル氏には申し訳ないのだが、もはや何を言っているのかよく分からなくなってきたのはわたしだけではないはずである。

結論

投資家は恐らくパウエル氏ではなく、その他のFOMC会合の委員を見るべきなのだろう。

それは6月のFOMC会合を考えれば納得がゆく。

筆者が見るところによれば、他のメンバーはあまりパウエル氏に信を置いておらず、パウエル氏が不明確な(そして常にどちらかと言えばハト派寄りな)発言を繰り返す中で、他のメンバーはパウエル氏の発言をあまり考慮せずに「インフレが見られれば利上げに傾く」という中央銀行としての通常の仕事を果たした結果、前回のFOMC会合はパウエル氏の発言からは予想出来ない比較的タカ派な結果となったのではないか。

パウエル氏の発言があまり役に立たない今、恐らくは今後の会合も同じように決まってゆくことになる可能性が高い。だからパウエル氏の発言をあまり真剣に考えないほうが良いだろう。金利とテーパリングは淡々と決まってゆくのである。