7月FOMC会合結果がとりわけタカ派ではなかった理由

アメリカの中央銀行Fed(連邦準備制度)は7月27日から28日に金融政策決定会合であるFOMC会合を開き、現行の金融政策の維持を決定した。比較的穏やかなFOMC会合だったと言えるが、それには理由がある。

穏やかな声明文と記者会見

今回は会合参加者の利上げ見通しを発表するドットプロットなどの資料がない会合のため、材料は声明文とジェローム・パウエル議長の記者会見のみである。

まず声明文だが、前回6月の会合に比べてそれほどの変化もない。以下の1文が追加されたくらいである。

経済は最大雇用や物価安定の目標に向かって改善しており、今後何回かの会合でその進捗を査定してゆく。

前回示唆された利上げやテーパリング(量的緩和縮小)の開始時期について直接的な言及はなかったが、この文面から解釈すると利上げやテーパリングの時期は今後何回かの会合の内に発表されるということだろう。

この書き方だと例えば次回の会合でそれが発表されることもないことになり、時期が発表されるのは秋か冬頃で、実際に開始されるのは来年初頭ということになる。インフレが差し迫っているにしては穏やかな話である。

パウエル氏のインフレ無視は続く

実際、声明文ではインフレを「例の単語」を使って表現している。

インフレは主に一時的な要因を反映して上昇している。

この「一時的」という表現が金融関係者の中で議論になっている。債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏はこの表現に激しく噛み付いた。

ベン・バーナンキが住宅ローン危機について完全に間違った時のことを忘れてはならない。彼はサブプライムローンだけの限定的な問題だと主張したが実際には被害はその何十倍も大きかった。

だから彼らが「インフレを一時的」だと言うとき、どうやって判断しているのかと思う。

一方でスコット・マイナード氏は根拠を乗せてインフレは一時的だと主張している。

しかしマイナード氏も短期的なインフレ要因を挙げるだけで、住宅価格高騰などの長期要因がどうなるのかについては言及していない。

記者会見でもパウエル議長はインフレについて次のように述べた。

インフレはここ数ヶ月、目標である2%を大きく超えて推移している。そしてわたしたちの目標値に戻ってくるまで今後数ヶ月はかかるだろう。

しかしインフレはどう考えても数ヶ月で2%には戻りそうにない。

本番は次回FOMC会合

パウエル議長の発言は現実とどんどん乖離している。投資家はこれをどう読み取ればいいのか。前回の会合でもインフレを全く懸念していないようなパウエル議長の発言と違った結果が出て投資家は驚かされたのである。

筆者の予想では、今後の展開も同じようになるだろう。前回の会合で投資家が驚いたのは会合参加者がそれぞれ今後の利上げ予想を発表するドットプロットだったことを思い出してもらいたい。そして筆者が繰り返し指摘しているのは、パウエル氏の発言とドットプロットが噛み合っていないということである。

パウエル氏にはバイアスがある。金融引き締めを強行して株式市場を暴落させた2018年のトラウマがあるので、出来る限り市場を動揺させることなく職務を全うしたいと考えているのである。

しかし他の委員は比較的伝統的な中央銀行の役割に徹しているように見える。だからインフレが上がれば利上げ予想を強くしたのである。

今後も利上げが示唆されるとすれば、パウエル氏の発言ではなくドットプロットを通してだろう。だから次回9月21日から22日の会合で発表されるドットプロットにFedの本音が載ることになる。

それまでにインフレはどうなっているだろうか。そろそろ確かに3月の現金給付などの短期インフレ要因が剥落してくる頃ではある。9月までのインフレ統計が金融引き締めを決めそうである。