恒大集団の倒産危機と中国不動産バブル崩壊懸念まとめ

恒大集団については一度記事を書いているが、最新の情報を盛り込んだまとめ記事を書いておこう。

恒大集団の倒産問題

恒大集団は世界第2位の経済規模を誇る中国でも最大級の不動産会社であり、その巨大企業が資金繰りが窮していることが金融市場で話題となっている。

何故個別の企業の倒産問題がこれほど話題になるかと言えば、恒大集団があまりに巨大過ぎるからであり、その負債総額は2兆元(およそ30兆円)を超えると言われている。

2020年の中国のGDPは中国政府の公表値で102兆元なので、恒大集団は中国のGDPのおよそ2%の負債を抱えていることになる。

これだけの規模の負債を抱えての倒産は、中国経済はおろか世界経済への影響も懸念される。一部の人々は恒大集団の倒産を「中国版リーマンショック」と呼んでいる。

世界経済への影響については後で検討するが、まず恒大集団はどれほどまずい状況にあるのだろうか。

9月13日のReutersの報道によれば、恒大集団の本社に約100人の投資家が押しかけ、「金を返せ!」と叫んだという。恒大集団は資金を分割で徐々に返すことを投資家側に提案したが、投資家側は受け入れなかったようだ。

また20日に期限がくる債務の支払いが危ぶまれているという。9月中の倒産の可能性がかなり高いと言えるだろう。こうした状況を反映して恒大集団の株価はナイアガラの滝状態である。

恒大集団の倒産の影響

恒大集団はどう考えても崖っぷちであり、倒産はほとんど不可避のように思える。そこで恒大集団が倒産すればどうなるかをより詳しく考えてみよう。

まず中国のGDPの2%に及ぶ2兆元の負債だが、恒大集団は手持ちの資産を売り払って返済するか、あるいは返済できないということになる。

不動産会社である恒大集団の手持ちの資産とは主に不動産である。恒大集団は不動産を投げ売りして2兆元の負債のうち返せる部分を返してゆくことになるが、これはつまり中国の不動産市場にはその規模の売り圧力がかかるということである。

このように2兆元のうち返せる分は基本的に不動産への売り圧力になるが、返せない分は債権者の損失となる。損をした債権者はその穴埋めに株式など他の資産を売らなければならなくなるかもしれない。あるいは消費を控えることになるだろう。これが2兆元のうち返せない分の経済への影響である。

株式市場への影響は、不動産価格下落で不動産銘柄が直接的に下落する分と景気後退による下落分を足し合わせれば、少なくないはずである。

海外の投資家も多い香港市場(恒大集団はこちらに上場している)では既に株価の下落が始まっている。香港ハンセン指数のチャートは次のようになっている。

ただ、この15%程度の下落で直接的に見ただけでもGDPの2%が失われる倒産危機をすべて織り込んだとは考えがたい。

そして本土の上海市場ではそもそも株価はほとんど下落していない。以下は上海総合指数のチャートである。

こうしたこともありアメリカや日本の株式市場もまだ影響を受けていないが、問題の規模を考えればこれだけで済むとは到底思えない。

当局の対応

中国政府はどう動いているだろうか。政府からの公式発表はまだないが、中国共産党傘下のタブロイド紙環球時報は見解を発表し、「恒大集団は『大きすぎて潰せない』の原則に基づく政府による救済を期待すべきではない」と主張している。

一方で、中央銀行である中国人民銀行は17日の取引で銀行システムを強化するため900億元を注入した。この問題が恒大集団だけでなく、恒大集団の不動産投げ売りを通して中国の不動産業界全体に広がれば、かなり大規模な債務危機となる。中央銀行が何らかの対処を強いられるのは不可避だろう。

しかし中国人民銀行はまだ利下げを行なっていない。従ってドル人民元のレートもまだ安定している。

だが恒大集団の問題は直接的影響だけでもGDPの2%であり、事態が中国の不動産市場全体に波及すれば当然ながら2%では済まない。

また、恒大集団は20万人の従業員を抱えており、取引先なども含めれば380万人の雇用を創出していると言われている。これが不動産業界全体に波及すれば、更なる失業者が出ることになる。

1社の倒産の影響はこのように経済に波及してゆくのである。概算は難しいが、影響は中国のGDPの3%から4%にはなるのではないか。これはコロナショックで先進国が経験したのと同じ規模の景気後退である。

今後の見通し

具体的にどういう形になるかは分からないが、中国がこの規模の経済危機を何の緩和もなしに乗り越えられるとは思えない。金融緩和が避けられないとすれば、人民元には当然ながら下げ圧力になる。

また、中国にはBridgewaterのレイ・ダリオ氏を筆頭とした海外投資家がこれまで精力的に投資をしていた。

恒大集団が倒産して不動産の投げ売りが進めば、海外投資家が中国に投資していた資金が逆流を始める可能性がある。

この2つの観点から考えれば、人民元がこの水準に留まっているということは考えづらいはずである。

また、直接的に中国に賭けるのでなくとも、以下の記事で解説したようなドル円や米国債においてリスクオフのポジションを持っておくことが投資家を助ける可能性がある。

まだ明らかになっていない部分も多いが、現状で確かなことが1つだけある。金融市場はまだこの問題をまるで織り込んでいないということである。

何も動いていない市場の動向に騙されてはならない。ジョージ・ソロス氏の言葉を借りて言えば、市場は常に間違っているからである。