ユーロは短期的にはやや下がり過ぎである

ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁が来月の会合での金融緩和に言及して以来、ユーロドルは1.40の高値から急落し、現在1.36付近で推移しているが、これは恐らくやや下げ過ぎである。

以前の記事で検証した通り、もしECBが量的緩和によりマネタリーベースを20-50%拡大する場合、ユーロドルの適正レートはおよそ1.34-1.28であり、現在の水準は20%のマネタリーベース拡大を半分以上織り込んだ形となる。しかし来月の会合で量的緩和を行うという話はどの筋からも出ておらず、公に議論されているのはマイナス金利を含めた利下げである。現在のユーロ急落は、利下げを織り込んだものとしては完全に行き過ぎであろう。

万一量的緩和が行われた場合も、マネタリーベースを50%も拡大するような規模の緩和は、少なくとも来月には望むことができない。これは、以前のLTRO(長期資金供給オペレーション)によるマネタリーベース拡大は、ギリシャの長期金利上昇などのユーロ債務危機に対応するためであり、これは債権者であるドイツ国民を説得しやすい差し迫った状況であったために政治的に可能であったが、デフレの悪影響は経済学の知識のない層を説得できるほど分かりやすい危機ではなく、それゆえにデフレへの対応としての量的緩和は、債務危機下の大規模緩和に比べ政治的に困難である。量的緩和の実行自体が難しい状況では、もし行われたとしても20-30%の拡大が精々であろう。

現実的には来月の会合は利下げの実行になるだろうが、口先介入を得意としてきたドラギ総裁としては、現在のユーロ急落がインフレをどれだけ支えるのかを見極めたいと思っているところだろう。来月の会合では語調を強めるものの実行には移さないという可能性も、道筋の一つとして頭の隅に置いておきたい。

以上より、これまでユーロドルを売ってきた投資家は、一旦手仕舞いを考えるのが良いだろう。もし為替レートが1.35に差し掛かれば、来月の会合で量的緩和が出ないことを見越した一時的なユーロ買いも現実的な投資戦略となる。この場合はGecina(紹介記事)などユーロ圏都市部の不動産株を押し目でロングし、合成ポジションによって万一量的緩和が行われた場合のリスクをヘッジすれば、かなり割の良い投資になるはずである。