ヨーロッパには移民受け入れ能力はない: イタリアで邂逅した少女の話とドイツの欺瞞

ヨーロッパが移民殺到で混乱の極地に達している。経済的に見た場合、ヨーロッパには本来移民受け入れ能力はないのだが、ヨーロッパの知識人の意見は倫理観と現実問題の間で揺れているようである。ヨーロッパの移民問題に関する個人的な意見は一貫しており、受け入れるならば計画的に、そうでなければ初めから受け入れられないと宣言することである。

しかし、そもそもヨーロッパでは、シリア問題が悪化する前から移民の問題は存在していたのである。流入数や失業率などのデータを挙げることは出来るが、ヨーロッパの移民の現状は日本の読者の多くには馴染みがないだろうから、一つイタリアでの出来事について話してみたい。

南イタリアに位置するナポリに行った時のことである。ナポリでよく行く老舗のピッツェリアに行った帰りで、鞄も持たずに財布一つをズボンのポケットに入れて、地元民の住む住宅地の合間の狭い路地を歩いていたところ、前から7歳くらいの褐色の少女が現れて、わたしの前に立ちはだかった。

悪戯をするような笑顔で、おどけながら、わたしの通り道を塞ぐように両手を広げて、左右どちらも通れないように左右に機敏に動き、わたしの注意を惹こうとする。イタリア南部ではよくあることなので、財布を入れたポケットに手を入れながら、そのまま通ろうとすると、途端に彼女は「なあんだ、わたしの考えてること分かっちゃったのね、つまんない」とでも言うように、拗ねたような顔で、財布を掴んだわたしの手のある方のポケットを上から軽く叩いて、そのまま走って去って行った。

これはヨーロッパではよくある話である。子供に限らず、ナポリ中央駅の前を歩けばスリが観光客を狙っているのを見かけないほうが難しい。しかしわたしが驚いたのは彼女の純粋さである。彼女には、悪意というものが全くなかった。日本で同じくらいの少女が公園で遊んでいるのと同じ純粋さで、彼女たちは窃盗をするのである。

多くの子供はスリを大人から教えられ、何も知らない子供は当然それに何の疑問も持つことはない。移民がヨーロッパに来たはいいが、家族が仕事にありつけないとき、子供たちは何をさせられるかを日本の読者はご存知だろうか? 良くて物乞い、やや悪ければスリ、最悪の場合は売春宿行きである。

この傾向は何の誇張でもなく、しかも移民に限ったことではない。ルーマニアではチャウシェスク独裁政権下に子供を5人以上産むことが法律で義務付けられたことで養いきれない子供が大量に発生し、その多くは路上生活者になるか、女子である場合にはドイツなど都市部の売春宿で働き、金のない家族に仕送りを送る生活を送っている。

ドイツは世界に良い顔をしたいためだけに移民受け入れを表明し、実際に移民が押し寄せると国境を封鎖したのは以下の記事に書いた通りである。

何という偽善だろうか。この移民のなかには、戦争で家を失くした本物の難民のほかに、職を求めて偽造パスポートで入国した移民も含まれている。このような移民は本来、メルケル首相が移民を無制限に受け入れるなどと不可能な約束をしなければ、ドイツに入国しようとしなかった人々である。

ドイツの政治家たちは、無責任に呼び寄せられた移民が仕事にありつけないとき、どういう末路を辿るかということが分かっていない。以前も引用したドイツ副首相、ガブリエル氏の言葉を引用しよう。

われわれのところにやって来る人々を早急に訓練し、仕事に就かせることができれば、熟練労働者の不足という、わが国経済の未来にとって最大の課題の1つが解決するだろう

その通りだろうとも。実際にドイツの失業率は6.4%であり、労働者の増加による賃金低下はドイツ企業のコスト削減になる。しかしそれでは何故、イタリアやルーマニアなどで貧しい生活をしている移民を積極的に自国に呼び寄せないのだろうか? 答えは簡単であり、そうしたところでドイツは世界から褒められないからである。ドイツ国民はそういう動機で動いている。他国民には理解しがたいが、これについては以前の記事で説明した。

しかしヨーロッパ全体で見た場合、移民を受け入れるどころか、既にヨーロッパにいる移民さえ十分な生活と教育が受けられていない。ユーロ圏全体の失業率が11%であるのだから、そもそも自国民さえまともに生活できていないのであり、このような状態で移民を更に受け入れた場合、仕事にあり付けなかった家族の子供達の行く末は、もう一度書きたくないほどに残酷である。そして雇用を創出する財政出動を阻んでいるのは、他ならぬドイツなのである。

ドイツ国民が子供たちを売春宿に送る罪から逃れたいのであれば、ヨーロッパ各国ごとで受け入れられる最大の人数を公平に算出し、無制限に受け入れるなどとメルケル氏のように偽善を言うのではなく、計画的に事を進めるべきである。ヨーロッパが瓦解する前に、ドイツが正しいリーダーシップを発揮することを祈りたい。事態は非常に深刻である。