世界最大のヘッジファンド: 金融資産から現物資産への怒涛の資金逃避が起こる可能性

世界最大のヘッジファンドBridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏がLinkedInのブログで金融バブルとその結末について語っている。

金融資産とは何か

人々はいくらでも金融資産を増やすことが出来る。例えば紙幣は印刷できる。あるいは新たに会社を立ち上げて、その会社に中身がなかったとしても、金融バブルの状況下ではその会社の株式が非常な高値で取引されることも有り得る。

しかし世界中の金融資産の量を増やすことと人々が豊かになるということは別のものだということをダリオ氏は常に主張してきた。ダリオ氏は以前、次のように述べている。

われわれが消費をできるかどうかはわれわれが生産できるかどうかに掛かっているのであり、政府から送られてくる紙幣の量に掛かっているではない。

紙幣は食べられない。

しかしダリオ氏の警告も虚しく人々は紙幣を無尽蔵に印刷し、金融資産を膨張させてきた。その結果どうなったか? ダリオ氏は次のように述べている。

金融資産の量が現物資産の量に比べてあまりに多過ぎる。これは銀行への取り付け騒ぎのようなタイプの、金融資産から現物資産への資金逃避に繋がる可能性がある。

現物資産よりも金融資産の方がはるかに多いという状況がどういうことかお分かりだろうか? ダリオ氏は次のように説明する。

資産に投資をする目的はたった1つしかない。その資産を売り払った時に現金を得て実際の商品やサービスを入手することだ。

だがその商品やサービスの量が足りなければどうなるだろうか?

例えばここにリンゴが1個あるとしよう。そしてリンゴが1個買えるはずの現金を持っている人が3人居るとする。

3人がリンゴを食べたいと思わない間は何の問題も起きない。現金は銀行口座に眠ったままである。しかし3人ともがお金を払えばいつでもリンゴが買えると思っている。しかし実際にはリンゴは1個しかないのである。

これがリーマンショック後の紙幣印刷から今までの状態である。豊かである間は人々はお金が銀行口座にあるだけで満足しているので、お金に対してリンゴが足りなくても問題にならない。だからこれまでインフレになっていなかったのである。

コロナの経済的意味

しかし疫病の蔓延や戦争や飢餓などの経済的問題が何らかのきっかけでひとたび発生し、人々が生活のために預金を切り崩し始めると問題が生じる。お金はリンゴ3個分あるのにリンゴは1個しかないからである。

これがまさに今のアメリカの状態である。

紙幣印刷は問題を引き起こすまでに上記のようなタイムラグがある。それを無視してリフレ派の人々は量的緩和を推奨し続けてきた。それに人々はまんまと騙されたというわけである。

ダリオ氏は次のように続ける。

歴史を通して、現物資産よりも現物資産を買うための資産(訳注:金融資産)の方がはるかに多い時にはいつでも、多くの金融資産の保有者が実際にその資産を使おうとしたタイミングで経済危機が起こってきた。

現在、現物資産よりも莫大な量の金融資産が存在している。それを現物資産に変換しようとする動きがもし始まれば、「銀行の取り付け騒ぎ」型のトレンドを生む。中央銀行は間違いなく更なる紙幣印刷で対応しようとするが、そうすると更に紙幣の価値がなくなってゆく。

銀行の取り付け騒ぎとはいつもそうした手段で解決される。紙幣を引き出そうとする人々は、紙幣は手に入れるが、その紙幣には価値がなくなっているというオチである。ダリオ氏はこう続ける。

大量の紙幣印刷によって人々を金融資産持ちのリッチにすることは出来るが、実際に豊かにすることは出来ない。

結論

紙幣印刷で起こったインフレを紙幣印刷で解決しようとするなんてそんな馬鹿なことがあるだろうかと読者は思うかもしれない。しかし実際にドルの前に基軸通貨だったイギリスのポンドの覇権はそのような形で終わりを迎えた。

そして実際に今、アメリカは6%のインフレが起こっている状況で金利を0%から0.25%にするかどうかを迷っている。フランスは実際に紙幣をまだばら撒いている。そんな馬鹿なことが実際に起こっているのである。

だが経済成長率がまだプラスになっている今は良い。今後の金融引き締めで経済が沈み始め、経済成長率ほどインフレ率が沈まなかった時、政府はどうするだろうか?

そのシナリオでは2つの選択肢があるということをここでは何度も繰り返してきた。経済を救うために金融緩和を続けて物価高騰が止まらなくなるのか、インフレを退治するために金融引き締めを行なって経済を更に沈めるのかである。

これは予想の難しい2択だが、上記の文章から推測するとダリオ氏はどうやら物価高騰シナリオになると踏んでいるらしい。そうすると金属やエネルギー資源、農作物などのコモディティ価格が高騰するだろう。

その辺りの投資戦略についても書きたいのだがなかなか書けていない。今後も楽しみに待っていてもらいたい。