マイナード氏: アメリカの金融引き締めはやり過ぎ

Guggenheim Partnersのスコット・マイナード氏がCNBCのインタビューでアメリカの金融引き締めについて語っているので紹介したい。

アメリカの金融引き締め

マイナード氏は突然金融引き締めを開始したFed(連邦準備制度)を皮肉った。

少し前まで莫大な財政刺激と莫大な金融緩和を行なっていたのに、突然それが逆の動きになっている。

インフレはもう大分前から手遅れの状態になっており、市場関係者は利上げが不可避だと思っていたので、いきなり利上げが始まってもあまり不自然ではないような気がする。

しかし中央銀行の発言の推移だけをそのまま考えれば、完全に言っていることが破綻しているのである。マイナード氏は次のように続ける。

Fedは少し前まで「金利は2024年までゼロのままだ」と言っていたのに、いきなりインフレと戦うために強力な利上げを行うという話になった。

マイナード氏は、「Fedは失敗したのか」と聞かれて次のように答えた。

そう思う。間違いなく緩和をやり過ぎた。債券買い入れで政府の財政支出を助けた。

これは以前にも起こった。第2次世界大戦の時だ。

第2次世界大戦の時にも膨大な戦費を補うために中央銀行は緩和を行い、インフレになった。

戦時のことと言えば特別に思えるかもしれないが、しかし経済学的には同じことだろう。戦時中もコロナ禍も、起こったことは莫大な政府支出と金融緩和である。経済はどうしてそれが起こったかを区別しない。そして同じようにインフレになる。

だがマイナード氏によれば、当時と今ではインフレに対する対処が違う。彼はこう続ける。

だが第2次世界大戦の時には単に紙幣印刷を停止し、インフレが勝手に中立に戻るまで待ったが、今では強力な金融引き締めを行なって対処しようとしている。

1946年にはインフレ率は20%になった。1949年にはデフレになった。当時、引き締めは行われていない。紙幣印刷を止めただけだ。

これはどうだろうか。恐らく考えなければならないのは、紙幣印刷を止めたと同時に戦争も止まったということだ。戦争は莫大な需要の源だった。それが消え去った。

一方でコロナは需要を殺していた。それが収まることは需要拡大を意味する。需要の源がなくなった戦争のケースとは、筆者の考えでは異なる。

「政策金利」は必要か

筆者の考えでは、3%程度の金利で20%近い住宅価格高騰が収まることはない。

しかしその点はマイナード氏も理解している。インフレが勝手に落ち着くためには以下の条件が必要だとマイナード氏は言う。

わたしが中央銀行なら、中央銀行が政策金利を決めるという考えを捨てる。

1970年代には、中央銀行が勝手に金利を決めるという考えがインフレを制御不能にした。だがボルカー氏が議長になり、金利を自由に上下させ、中央銀行はマネーサプライの量に視線を移した。

中立金利がいくらかということは市場に決めさせるべきだ。

これはもう1人の債券の専門家、ジェフリー・ガンドラック氏が以下の記事で表明した意見と一致する。

大体、何故パウエル議長のような中央銀行家がどうして金利の「正しい水準」を決められると考えるのか。

普通に考えれば、物価について何も理解せず、少し前まで「インフレは一時的」だと主張していた彼らが、経済にとって適切な金利水準を決められるわけがないということは、少し考えれば分かることである。

つまり、金利を決定する中央銀行というアイデアそのものが完全に間違っているのである。これは経済学者のフリードリヒ・フォン・ハイエク氏が何十年も前に指摘していたことなのだが、それに気付くまでに人類はどれだけの時間を必要とするだろうか。

そもそも中央銀行がなければ、政府が現金給付を行なってインフレを引き起こすこともなかっただろうし、このような馬鹿げた金融バブルも発生しなかったのである。マイナード氏は皮肉にも次のように言う。

中央銀行は自分で問題を作って自分で解決しようとする。

結論

そして中央銀行は「解決」の過程で2018年に引き起こしたのと同じ問題を引き起こすだろう。

だがもし中央銀行が金利の操作を止めれば、株式市場は下落を止めるのだろうか。これは興味深い問題である。

確かに米国株はボルカー氏の時代には大きな下落相場を経験していない。だが筆者はそれをボルカー氏の前に株式市場が1974年に既に大幅に下落していたためだと考えている。その時にインフレの悪影響をすべて織り込んでしまったのである。

当時の米国株のチャートを見てみよう。ボルカー氏は1979年に議長に就任している。

米国株は10年横ばいに見えるが、この間アメリカは毎年10%〜15%のインフレになっているので、実質的には米国株は(ドル紙幣と同じく)紙切れになっている。

しかもドル紙幣の方は(少なくともドル建てでは)一時的に半値になったりはしない。預金なら金利も付く。しかも高金利である。

株式市場はどうなるだろうか。筆者の意見では、当時米国株が乱高下するリスク資産でありながら預金に負けたリターンしか出せなかったのは、むしろ幸運だったと思っている。戦後間もないアメリカ経済はそれでも強かったからである。だから米国株は少なくともドル建てでは回復した。(ドル紙幣と同じく、実質紙切れに意味があるのかは分からないが。)

だがGDPの記事でも触れたが、アメリカは今では貿易赤字と財政赤字を空前絶後の規模で垂れ流している。

そのアメリカ経済に当時と同じショックが襲えば、当時と同じ程度の被害では済まないだろう。半値に下落した後、戻ってくるだろうか。

あと、これは言っておきたい。米国株よりは短期のドル定期預金を繰り返す方が良いパフォーマンスを上げるだろう。いずれにしてもこの状況で米国株を保有するメリットはゼロである。