ソロス氏: 天然ガスを禁輸すればロシアは7月にも危機に陥る

引き続き世界経済フォーラム(通称ダボス会議)におけるジョージ・ソロス氏のBloombergによるインタビューである。

前回はソロス氏の政治的な側面をお伝えしたが、今回は原油と天然ガスに関するより経済的な論説となっている。

ロシアの原油と天然ガス

ロシアのウクライナ侵攻の裏にあった大きな軍事的側面がNATOの東側への拡大であったならば、エネルギー価格の高騰は大きな経済的側面であったと言えるだろう。

プーチン大統領が侵攻を決断した要因の1つは、バイデン大統領が「アメリカは軍を送らない」と早々と表明してしまったことであると以前説明した。

だが今思えば、あれはむしろロシアにウクライナへ侵攻させるためにわざと発言したことだったのだろう。高齢のバイデン氏はもう何でも口にするので、周囲の人間にうまく使われている。

一方で、プーチン大統領の頭にあったもう1つのことはエネルギー価格である。

大手マスコミの完全に間違った報道によれば、現在のエネルギー価格高騰はウクライナ情勢のせいだとされているが、実際にはエネルギー価格はもうずっと前から高騰していた。

ウクライナ情勢に一番影響されているはずのヨーロッパの天然ガス価格チャートを見てみると、むしろウクライナ後は横ばいになっており、2021年の上げ幅が莫大であることが分かる。

マスコミの間違った報道に騙されている人は、この2021年の価格上昇をまったく説明できないだろう。

脱炭素という自滅政策

この価格上昇は、西洋人が自分で行なった脱炭素政策に起因している。

多くの日本人が脱炭素政策について誤解していることは、脱炭素とは単にいわゆる再生可能エネルギーを増やしてゆこうという政策ではなく、化石燃料への資金供給を意図的に止め、化石燃料を採掘できなくさせる政策だということである。

その結果どうなったかと言えば、原油が足りなくなり原油価格が高騰した。

当たり前の結果である。西洋人は馬鹿なのではないだろうか。そして原油価格が高騰すればエネルギー価格全体が高騰する。

ファンドマネージャーら経済の専門家はこの馬鹿げた政策を止めるよう必死に訴えかけているが、気候変動にとりつかれた人々は何も聞こえないようだ。

リベラル派は自分の政治的妄想のために他人を犠牲にすることが大好きである。

ヨーロッパに性的暴行とテロをもたらした移民政策もそうだったが、西洋人は自殺が趣味らしい。

エネルギー価格とロシア

そしてプーチン大統領は当然この状況を笑いながら眺めていただろう。苦笑する他に出来ることがあるだろうか。

彼がウクライナ侵攻を決意した要因の1つに、貴重な(ヨーロッパ人が勝手に貴重にした)天然ガスをヨーロッパに供給するロシアに対し、ヨーロッパは強く出られないだろうという目算があったことは間違いない。

ソロス氏はこう語っている。

プーチンは天然ガスの供給を止めると脅すことでヨーロッパをいわば脅迫することを上手く利用してきた。

だが、興味深いことにソロス氏はロシアの立場を見かけほど強いものではないと考えているようだ。彼はこのように続ける。

だが、プーチンの立場は実際には彼の見せかけよりもずっと弱い。

何故か。ソロス氏は次のように説明する。

去年彼は天然ガスを放出せずに国内の貯蔵施設に入れておくことによって、天然ガス価格を高騰させ多大な利益を得た。

禁輸が行われて以来、ロシアはアメリカにドル資産を接収されながらも、それ以上の大金を稼いできた。

何故ならば、ウクライナ後の西側の禁輸政策が、ロシアの輸出品であるエネルギー価格を高騰させたからである。

一方で西側の経済制裁はあまり効果を現さなかったようだ。

さて、ここからがソロス氏の議論の面白いところである。彼はこう続ける。

だが今やロシアは貯蔵施設をほとんど満杯にしている。7月には満杯になるだろう。天然ガスを何処かに放出しなければ溢れてしまうことになる。

価格高騰で儲かったとはいえ、価格が高騰しているということは、やはり輸出量は減っているということである。

ロシアは去年からその分を貯蔵に回してきた。だがソロス氏によれば、貯蔵庫が満杯になりかかっているというのである。彼は次のように続ける。

だから天然ガスを市場に放出しなければ、天然ガスを生産しているシベリアの採掘施設を閉鎖し始めなければならなくなる。

7月にはこの状況になる。だからプーチンは実際には危機的状況にあるのだ。

エネルギー資源に頼るロシア

現在、西側の経済制裁にもかかわらず、ロシアに対して資金は流入しているように見える。ドルルーブル(下方向がドル安ルーブル高)のチャートはウクライナ前よりもむしろルーブル高に動いている。

だがそれも、ヨーロッパ側が天然ガスを買い続けているからだ。ソロス氏が言うには原油の禁輸は意味がないという。

原油の禁輸は忘れていい。

原油の禁輸は間違った方法だ。原油は何処にでも輸送できる。船に乗せれば何処へでも運べる。ヨーロッパがそれを買わなければ中国人が喜んで買うだろう。だから原油の禁輸には意味がない。

それは単にロシアの輸出品の価格を上げるだけに終わるだろう。ロシア憎しのソロス氏だが、愚かな政治家たちとは違い現実を見据えている。

原油と天然ガス

だが天然ガスの事情は異なる。コモディティトレーダーなら誰でも知っていることである。ソロス氏は次のように続ける。

だが天然ガスはヨーロッパにしか売ることが出来ない。パイプラインが既に建設されているのはそこだけだからだ。これがロシアの弱みなのだ。強みではない。

原油と天然ガスの大きな違いは輸送手段である。

液体である原油ならばタンカーで容易に何処へでも運べる一方で、天然ガスは気体であるため、パイプラインを建設してその中を通すか、液体になるまで冷却して専用の輸送船(数が限られている)で運ぶかのどちらかしかない。

だから中国が買いたいと言っても、天然ガスを売るためにはまず中国との間にパイプラインを建設しなければならない。それは数ヶ月では無理なのである。

ソロス氏は次のように続ける。

だからこの件に関してヨーロッパは自分が思っているよりも強い立場にある。

このことについてわたしはイタリアのドラギ首相に手紙を送った。彼はこういうことについて一番理解している人間だからだ。手紙は昨日送ったがまだ返信は来ていない。

結論

ソロス氏の恐ろしいところは、個人的な政治イデオロギーと卓越した経済的知見が同居しているところである。

彼のプランが実現すれば、ヨーロッパの天然ガス価格は再び一時的に高騰することになるだろう。

しかしファンドマネージャーらのインフレ警告が無視されたように、経済の専門家の卓越した知見は大体の場合政治家に無視される。

ヨーロッパの政治家にはソロス氏の見解を活かすだけの頭があるだろうか。ヨーロッパの次の手に注目したい。