イランがサウジやロシアの原油増産凍結を支持したことが示す2016年原油価格の先行き

サウジアラビアなどOPEC加盟3カ国とロシアの間で、原油の生産量を1月時点の数値で固定する条件付き合意がなされたことについて、同じく産油国であるイランが支持を表明した。

サウジなど4カ国の同意は、他の産油国もそれに従う場合のみ実行されるという条件付きであり、これはイランの同意が必要であることが含まれているが、アメリカの経済制裁により実質的に禁止されていたイランの原油輸出はようやく再開が可能になったばかりであり、イラン自身は1月の数値での固定については合意はできないとしている。しかしサウジやロシアもそれは分かっているはずであり、イランに対し何らかの譲歩がなされるのではないかとの憶測が市場を飛び交っているが、これはまだ憶測である。

しかしながら、産油国、それもOPEC加盟国と非加盟国が話し合っているということ、そしてこれまで減産にもっとも否定的であったサウジが、生産量の調節に意欲を見せていることは、今後の原油価格を占う上で重要なニュースである。

一気に反発した原油価格

市場も恐らくはそう解釈したようであり、20ドル台に突入していた原油価格は31ドルまで短期的に反発した。

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原油は遂に底値に達したのか? 先ずはっきりさせておくのは、減産を伴わないただの生産量維持では原油安を止められず、しかも1月の生産量を生産国すべてに適応する条件では、これから増産しようとしていたイランは納得しない。したがって、これまでに明らかになっている合意や合意案では原油安は止められない。

一方で産油国は明らかに協調に向かっており、減産で同意するまでにどれだけ時間がかかるかは分からないが、わたしの当初の予想通り、2016年後半までには原油価格は底値を迎えるだろう。

減産合意までに時間が掛かりそうであれば、市場は失望して20ドルへ向かう可能性もあるかもしれない。こうした情報では実際のトレードに役に立たないのではないかと思うかもしれないが、実際にはそうではないのである。

どうトレードすべきか?

ベネズエラが耐えかねて他の産油国との話し合いの場を設け、サウジが生産量凍結を示唆し、イランも協調に前向きな姿勢を示したというこのニュースは、原油価格の見通しに関する新たな事実を提供している。それは原油価格が20ドルに下がった場合、それが1年以上長続きすることに主要な産油国は耐えられず、その場合には減産の合意へ向かうだろうということである。

つまりは20ドルまで下がるかもしれないが、下がった場合にも長続きはしないということであり、こういう場合に出来るトレードは何かと言えば、ここの読者にはもう分かったことと思うが、それはオプションである。

とはいえ、個人的には原油価格そのものに賭けるつもりはない。仮に減産が行われたとしてもシェール革命の技術が消えるわけではなく、これまでの技術で掘削できなかった原油が掘削できるようになった事実は変わらない。この技術がいずれ世界中の油田に適用されるようになれば、原油価格が一時的に反発したとしても、長期的な供給過剰は原油価格の上値を制限し続けるだろう。

したがってわたしが賭けるのは「エネルギー価格が長期にわたって低迷することはないこと」であり、「原油価格が強く反発すること」ではない。この両者を区別できるのはオプションを使うからこそである。

ウランとプットオプション

賭ける対象は原油ではなくその他の有望セクターであり、一例はウランである。ウラン先物に賭けることも出来れば、ウラン採掘企業に賭けることも出来る。ウラン関連株に賭ける場合には、価格低迷が長期化した場合も耐えられる財務状況の良い銘柄を選ぶのが良い。

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一例はこのCameco (NYSE:CCJ; Google Finance)であり、世界有数のウラン採掘企業であるが、チャートを見る限り原油価格が25ドルまで落ちたときに10ドルを割っていないので、20ドルまで落ちた場合も大雑把に考えて9ドル程度までの下落を想定しておけばよい。

考慮しているのはプット・オプションの売り(株価が一定以上に下がらないことに賭ける方法)だが、オプションの保険料は長期になればなるほど多くなるので、行使価格や行使期間を調節して、9ドル以下まで下落しない場合に利益が出るようなポジションを取れば良いのである。

原油暴落の可能性

今回の産油国の動向で可能性が低くなったとは思うが、では原油が20ドルを割った場合はどうなるか? この場合には世界同時株安が更に進行し、米国は利上げが出来なくなり、2015年12月から開始しているわたしの金の買いポジションが長期的な上昇トレンドを確定するだろう。

このように、特に2016年の相場では一つのポジションのリスクを別のポジションが補うようにポートフォリオを組むべきであり、すべてのポジションが複雑に補完し合って一つの優れたポートフォリオを構成するということこそが、グローバル・マクロのファンドマネージャーの職人技であり、真骨頂なのである。

正直に言えばエネルギー産業に関するポジションはもう少し条件の良い価格で始めたかったのだが、今回の産油国の動向で底値に対する見方を変えた。産油国の協調の速度によっては一時的な20ドル転落も想定しているので、一定の大きさのポジションを持ったに過ぎず、下落の場合は反発に賭けるポジションを本腰を入れて考えるだろう。

価格がどちらに転んでも良いと考えられるとき、自分のポートフォリオは一番安定している。ジョージ・ソロス氏は、自分のポジションに不備があるときには背中がピリピリするようになると言ったが、そういう精神論は重要であり、逆に言えばそうならないようなポートフォリオを目指すべきだということである。

市場のことが気になって仕方がないという状況に、読者のポートフォリオは陥っていないだろうか? 一般的に個人投資家はほとんどがそういう状況でトレードをしているのかもしれないが、本職のファンドマネージャーにとってはそれは自分が誤りを犯しているときにのみ生じる例外的な状況なのである。あるいは、そういう要因を消し去ること自体が、投資家の仕事であると言えるだろう。