サマーズ氏: インフレは全然ピークではない、金利は上がり続ける

アメリカの元財務長官でマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergによるインタビューで、アメリカにおける物価高騰と、株安を引き起こしている金融政策の行方について語っている。

止まらないアメリカのインフレ

6月10日に発表されたアメリカのCPI(消費者物価指数)統計は、予想を上回るものだった。

前回の記事でも述べたが、今年の4月から6月はインフレ鈍化が予想される月だった。しかし実際には5月の数字は8.5%に加速した。

この数字についてサマーズ氏は次のように述べている。

CPIの数字はほとんどの人々を驚かせた。

また、同じくこれまでインフレを警告してきた債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏は、インフレはこの辺りがピークだとしてきたが、サマーズ氏はそれに反対しているようだ。

インフレがピークだという主張、インフレが一時的だという主張が間違っているというのはかなり明らかだ。

理由としてサマーズ氏はセクターごとの数字を上げている。

CPIのほとんどの要素が顕著にインフレになった。そしていくつかの主要な要素のインフレはこれから数ヶ月で更に加速してゆくと予想している。

年末には建物のインフレは年率8%になっていると思う。民間の発表する数字を見れば、それよりも急速なインフレになっているのだが。

ガンドラック氏らも指摘していたことだが、不動産インフレはCPI統計において過小に評価されている。

一方で住宅価格指数では20%近いインフレとなっている。

住宅価格は、住宅ローン金利に影響する長期金利がインフレ率よりも低い限り上がり続けるだろう。住宅が年率20%近く値上がりするなか、長期金利のチャートは3%近辺で推移している。

金利が上がったとはいえ、住宅ローン金利の支払いは住宅の値上がりで元が採れてしまうのである。

一方で住宅を買わずに賃貸し続けると、家賃は上がってゆく。この状況で住宅を買わない選択肢はないだろう。

また、サマーズ氏は医療セクターについても次のように言っている。

医療セクターのインフレはまだ低いままのようだが、これが何を意味しているのかは分からない。医療関係者の誰と話しても看護師不足が深刻だと言っている。

医療セクターの数字も結局は上がらざるを得ないだろう。

アメリカではコロナ後、手厚すぎる失業保険が問題となり、一部では働くより失業保険を貰うほうが儲かったため、人が仕事に行かなくなった。

そしてそのうちの多くは結局職場に帰ってこなかった。あらゆる意味でインフレは政治家による人災なのである。

迫りくるスタグフレーション

サマーズ氏はこのように続ける。

われわれはスタグフレーション的な状況を自分で作り上げた。もう何ヶ月も言い続けているが、ソフトランディングは容易ではない。

インフレはどうなるだろうか。Fed(連邦準備制度)の金融引き締めが株式市場を下落させ続けているが、インフレが止まらない限り引き締めも止まらない。そして株安も止まらない。

サマーズ氏はインフレ見通しについて次のように述べている。

Fedはインフレが年末には2%台まで戻るという予想を3月に発表した。それは当時既に幻想だったが、今では更に馬鹿馬鹿しく見える。

だから利上げは止まらないだろう。だが今の利上げペースでインフレが収まるのかという別の問題もある。サマーズ氏は次のように述べている。

これから数ヶ月は0.25%か0.5%の利上げという見通しになっているが、もっと効果を出すためには0.5%から0.75%の利上げにするべきだろう。

政策金利を今の水準より大幅に上がげることなしに物価高騰から逃れられるとは誰も思わないはずだ。金利を先延ばしにするこのとメリットが分からない。一方で、金融政策が実体経済に効くまでのタイムラグを考えると、デメリットの方は本物だ。

幸か不幸か、Fedのメンバーに0.75%の利上げを考えている人物は多くない。

だがそれは幸いなことだろうか。利上げがゆるく、物価高騰が止まらなければ後でより強力な金融引き締めが求められることになる。

一方、急激な利上げが行われれば株式市場はより急激に下落してゆくだろう。

年始からずっと言い続けているが、リフレ派のお陰で経済も株価も両方詰んでいるのである。

株安はいつまで続くだろうか。それについては以下の記事で説明している。