2015年Q4シェール企業決算: 原油価格暴落で生産量は減っているのか? 倒産は近いか?

2016年に入ってからも軟調が続いているエネルギー価格だが、これまでも書いてきた通り、原油と天然ガスの価格見通しは米国シェール産業とOPECの動向次第である。

OPECについてはサウジアラビアやイランなどの協調がどう進むかを見なければならないが、シェール産業の今後の産出量を知るためには各社の決算を追いかけてゆく必要がある。したがって本稿では、2月後半に発表されたシェール企業の決算を纏めたい。

損益自体は赤字だが

取り上げるのは以下の5社である。

損益そのものは随分前から赤字になっている企業がほとんどであるので、問題となるのは以下の2点である。

  • 産出量は減っているのか?
  • 倒産は近いのか?

原油価格は以下のように暴落となっており、価格が下がれば供給が減るというのが経済学上の一般論である。

2016-2-26-WTI-crude-oil-long-term-chart

原油安にもかかわらず減少していない産出量

周知の通り原油価格は大分下落している。しかし決算によれば、これらの企業は産出量をほとんど減らしていないのである。原油安で窮地に追い込まれた各企業は生産コストの削減を図っており、操業停止点(損益分岐点から先行投資コストを引いた生産そのもののコスト)は急激に低下している。

生産コストについては各企業で統一された指標がなく、決算によって数値の意味が異なるのだが、どうやらシェール産業の生産そのもののコストは10ドルから15ドルほどに収まっているようであり、20ドル前後を原油価格の底値としたこれまでの予想は概ね当たっているようである。

現在の原油価格はまだ30ドル前後であるから、現在のシェール企業の赤字は先行投資した設備の減価償却や減損処理が響いているのであり、しかし既に資金を投じて作ってしまった設備を動かすコスト自体は原油価格より低く、シェール企業としては赤字を補うために生産を出来る限り増やすほかない状況に置かれている。

以下は5社の原油および天然ガス産出量の変化(前年同期比)を並べたものである。

2015-4q-shale-oil-companies-oil-and-gas-production-growth-year-on-year

企業によってまちまちではあるが、場合によってはむしろ増産していることが分かる。Chesapeake Energyは原油、天然ガスともに減産しているように見えるが、これは財政悪化のため設備などを売却した分が反映されていると思われる。バランスシート上で2014年末に325億ドルあった「不動産と設備」の項目は、2015年末には143億ドルにまで減少している。

では売却された設備はどうなっているのか? それは無論、購入者によって使用されているのである。売却によって所有者が変わったところで、原油安によって悪化した財政を補うためにシェール企業が生産量を増やそうとしている現状では、利益を出している設備が完全に停止されるということはない。先行投資を除けば、油田自体は利益を出しているからである。

勿論、より財政が健全な企業に買われることによって、効率の良い油田は温存される可能性は高まるのだが、生産量を劇的に変えるほどの効果を持つかと言えばそれは微妙である。したがってシェール企業の破綻が即減産に繋がるわけではないということを、投資家は覚えておかなければならない。

倒産は近いのか?

次にシェール企業の財務諸表を見てみたい。以下は5社のバランスシートとキャッシュフローを比較したものである。

2015-shale-firms-financials

項目は順に流動資産、流動負債、総資産、総負債、2015年のキャッシュフローとなっている。流動資産とは1年以内に現金化できる資産、流動負債は1年以内に期限の来る負債である。

一番倒産に近いのはChesapeakeであり、キャッシュフローはマイナス、流動負債が流動資産を上回っていることから、更なる資産の売却を強いられることになりそうである。単純計算で2016年のキャッシュフローが現在の純資産(総資産と総負債の差)を上回りそうであることから、今年中に債務超過に陥る可能性が高い。

しかし他の4社については2016年を生き延びてしまいそうである。純資産は十分であり、流動比率(流動資産と流動負債の比)も悪く無い。2016年のキャッシュフローはマイナスになるだろうが、即倒産というレベルではない。

また、前述のようにChesapeakeにしても倒産と掘削装置の停止はイコールではない。Chesapeakeの設備は他のエネルギー関連企業に売却され、次の所有者によって使用され続けることだろう。

シェールオイルの供給は当分続くか

したがって、今回の決算を見る限りでは、シェールオイルの供給が2016年前半に大幅に減少することはなさそうである。原油価格はどうなるか? 30ドル台の原油価格も供給を減らすことが出来なければ、20ドル台を再度試す可能性は上がると見るべきだろう。

もう一つの供給源であるOPECは生産量調節のための協調の向きを見せているが、シェールオイルの供給が止まらなければ自殺行為となる可能性が高く、ベネズエラなど小国は既に瀕死ではあるが、比較的余裕のあるサウジアラビアは減産に応じない可能性が高い。

しかし底値は確実に近づいている。上記の記事でも述べたように、20ドルまで下落し、その水準が1年続いたとすれば、ほとんどのOPEC加盟国は悲鳴を上げるだろうし、10ドル台に落ち込んだ場合にはサウジアラビアも危うくなる可能性が高い。

シェール企業の操業停止点が10ドルから15ドルであることを考えても、20ドルを割った水準が中長期的に続くと考えるのは難しいだろう。

原油安をトレードする方法

では投資家はどうすべきか? 先ず分かっているのは、20ドル台が長続きしないということ、そして少なくとも2016年前半は供給過剰が続き、原油価格の上値は抑えられるだろうということである。

この状況で投資家が出来ることは、オプションを売ることである。40ドル程度を上限、20ドル前後を下限として、数ヶ月から半年ほどはレンジ相場を見せるのではないか。そうであればプット・オプションとコール・オプションを同時に売り、レンジ内に収まる場合に利益が出るポジションを作れば良いのである。

ちなみにこのレンジを短期的に出る可能性を否定するわけではない。OPECが減産を早まれば上限を、供給過剰が長く続けば下限を割る可能性はあるが、いずれの場合も短期的な動きに留まると予想している。

個人的には下限を割る可能性についてはリスクとは考えていない。原油が10ドル台となれば米国株は急落し、12月に買った金が急騰するだろうからである。

一方で原油が急反発をした場合には以下の記事で取ったウラン関連のポジションが利益を産むだろう。とりあえずはバランスの取れた現状のポートフォリオに満足している。