ドラッケンミラー氏、個人投資家の投資スタイルを酷評

引き続き、かつてジョージ・ソロス氏のヘッジファンドを率いたことで有名なスタンレー・ドラッケンミラー氏のSohn Conferenceにおけるインタビューである。

コロナ後の投資ブーム

昨今、多くの個人投資家が投資に走っている。それは日本でもアメリカでも同じようである。

それは端的にコロナで株が上がったからである。日本では金融庁などが主導してNISAなどの制度が喧伝され、また金融庁が海外への投資を分散だとして奨めたために、NISA口座の投資信託の多くは米国株のものが占めた。

そして2020年からたった2年ばかりの強気相場で去年まで利益が出ていたために、投資が簡単だと思った個人投資家も多いだろう。

そもそも金融庁などの資料は株価の下落リスクを十分に説明しておらず、参考資料として書かれている株価チャートは何故か大体上昇したものばかりとなっている。参考に、彼らの「金融ガイド」(2021)から株式の説明を引用しよう。

投資の初心者がこの画像をどう受け取るかを考えれば、この画像ははっきり言って酷い詐欺である。

何の根拠もない上昇チャートを載せないという選択肢もあっただろうに、金融庁にそういう誠実な対応は期待できないだろう。

だが筆者とは違って優しいドラッケンミラー氏は、こうした不適切な投資推奨に騙された個人投資家たちのことを心配している。彼はこう述べている。

中央銀行の金融政策がこれまでどうなってきたか、そしてバブルがどれだけ広がっているかということを考えると、「強気相場の天才たち」がどうなるかを心配している。この言い回しは50年前わたしが金融業界に入った時に聞いたものだが、今でも意味を持つ。

思い出されるのは、ジム・ロジャーズ氏の以下の記事である。

ドラッケンミラー氏などのヘッジファンドマネージャーらは、将来の経済動向を予測し、その予測が当たれば利益が出、当たらなければ損を出すという金融市場のゲームを生業としている。

市場に優れた未来予想を提出するからこそ利益を得られるのである。しかしコロナ相場で特に何も考えずに利益を出せてしまった「強気相場の天才たち」は本当に天才なのだろうか。彼らはどうなるのか? ドラッケンミラー氏はこう語る。

今の市場にはたくさんの「強気相場の天才たち」がいる。彼らは投資というゲームを好きなわけではない。勝つと良い気分になるのが好きなだけだ。彼らは台風をバックにサーフィンしており、今のところ波に乗れていようが、最後には酷く失望する結果になるだろう。

もうその答えは半分出ているかもしれない。ドラッケンミラー氏は多くの個人投資家が乗った現在のバブルを空売りして利益を上げている。

だがまだ序の口である。米国株を暴落させているアメリカの金融引き締めは始まったばかりだからである。

分散投資はリスクを減らすか?

また、ドラッケンミラー氏がやり玉に挙げるのが、いわゆる分散投資である。

金融庁の金融ガイドには次のように書かれている。

資金を1つの資産に集中しないで、複数の種類に分散して投資すれば、リスクが分散され、リターンの安定度が増す効果があります。

だがそうだろうか? 誰も気にしていないが、現在の投資ブームを主導している金融庁は資産運用の専門家ではまったくない。ドラッケンミラー氏が金融庁で働かないことでどれだけ儲けているかを考えれば、正しい投資をすることの出来る人材を金融庁の給与で雇えるわけがないのはすぐに分かるはずだ。

一方で正真正銘の投資のプロであるドラッケンミラー氏は、分散投資について次のように語っている。

わたしの投資スタイルはビジネススクールで教えられているものとは正反対だ。彼らは分散投資をすれば、集中投資をするよりリスクが低くなると言う。それが正しいとはまったく思わない。

伝説的なファンドマネージャーであるジョージ・ソロス氏のもとで働いていたドラッケンミラー氏によれば、彼がソロス氏から学んだ一番重要なことはそれだと言う。

彼はこう続ける。

わたしがジョージ・ソロスから学んだことをよく聞かれるが、わたしがあそこで働き始めたとき、わたしは日本円やドイツマルクが何に左右されて動くのかなどを学ぶのだろうと思っていた。

だがそれは違った。わたしが学んだのは、ポジションの規模を適切な大きさにすることが成功の70%から80%を決めるということだ。

有名なのは1992年のポンド危機の逸話だろう。ジョージ・ソロス氏はポンド危機におけるポンド空売りで「イングランド銀行を潰した男」として有名だが、実はこの空売りは当時ファンドを率いていたドラッケンミラー氏のポジションである。

だがポジションの規模を変えたのがソロス氏だった。ポンド空売りのアイデアに自信があったドラッケンミラー氏は、10億ドル分のポンド空売りを行なっていた。それを見てソロス氏はこう言った。「それでポジションのつもりか?」

ドラッケンミラー氏はそこから利益を出すべき時に大きく利益を出すことの大切さを学んだ。その利益は別のポジションで出した損失を補ってくれる。彼の方針は、「多くの卵を多くのカゴに分けて入れる」ではなく、「すべての卵を1つのカゴに入れ、その1つのカゴを注意深く見守る」である。

最高のアイデアに全額賭けられる時に、それよりも分が悪いアイデアに投資しなければならない理由があるだろうか? それがドラッケンミラー氏の投資哲学である。

結論

ドラッケンミラー氏は次のように纏める。

投資とは自分が正しいか間違っているかではなく、自分が正しいときにいくら儲け、間違った時にいくら失うかなのだ。

しかし投資とは縁もゆかりも無かったのに金融庁に騙されて投資の世界に入り込み、投資信託が塩漬けになってしまった多くの個人投資家は、「違う、自分は何も分からないからインデックスに投資したいんだ」と言うかもしれない。

彼らにはこう言うほかない。市場は、投資家が提供する意見の正しさに応じて損益を返してくれる。あなたが何も市場に提供できないなら、市場はそれ相応のものをあなたにくれるだろう。

金融庁のウェブサイトには皮肉にもこう書かれている。

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