マイナード氏: 株価が暴落しても中央銀行はもう助けに来られない

インフレ対策でFed(連邦準備制度)が利上げなどの金融引き締めを続け、株価が暴落する中、Guggenheim Partnersのスコット・マイナード氏がBloombergのインタビューでインフレと市場経済の今後について語っている。

アメリカの金融引き締め

物価高騰は止まらず、アメリカは利上げと量的引き締めを続けている。6月の会合ではFedは通常の3倍の上げ幅である0.75%の利上げを行なった。

だがこれでようやく政策金利は1.5%であり、一方のインフレ率は8%を超えている。

既に株価は下落しているが、インフレを抑えるためにはここから更にどれだけ利上げを行わなければならないだろうか。そしてその時株価や実体経済はどうなるだろうか。

マイナード氏は次のように語る。

パウエル議長は、自分が提示している利上げの道筋をこれから辿っても景気後退や市場の下落には繋がらないと説明することに苦心しているが、それはどう考えても避けられないと思う。

これまで景気後退なしにインフレ率が2%以上下落したことはない。

そして繰り返しになるが、現在のアメリカのインフレ率は8%を越えている。そしてFedはインフレ目標は2%だと言う。

インフレ率を2%下げるために1つの景気後退を経験しなければならないとすれば、インフレ率を6%下げるために経験しなければならない景気後退は通常の3倍の規模のものだということになる。

はっきり言うが、現在20%しか下落していない株式市場がそれを織り込めているとは考えられない。

金融緩和の時代の終わり

司会者は緩和の象徴として持ち出されるアラン・グリーンスパン元Fed議長を持ち出し、グリーンスパンの時代は終わったのかとマイナード氏に聞く。

マイナード氏はこう答えている。

グリーンスパンの時代と今の状況の大きな違いは、彼の時代はディスインフレの時代だったということだ。だが今はもはやその時代ではない。

グリーンスパンは経済が過熱したら金利を上げ始め、経済が弱まり始めたら金利を再び下げることが出来た。われわれにもはやその選択肢は与えられていない。

いくらでも緩和が出来たのは、デフレだったからである。経済学者を名乗っているインフレ主義者たちはデフレがどれだけ有難かったかを分かっていない。

だが緩和を続けるとインフレになる。そしてインフレが発生してしまえば、もはや緩和は出来ないのである。緩和を続けると物価高騰が止まらなくなってしまう。

だから何度も言っているように、1980年から始まった低金利の株高相場はもう終わったのである。

一般の投資家(あるいは銀行や証券会社で働いている多くの素人たち)に話を聞くと、彼らはこの点をいまだに理解していないようだ。彼らが現実を理解し、そして絶望するまでは、下落相場は終わらない。

株価の先行き

さて、ここからアメリカ経済と株式市場はどうなるだろうか。マイナード氏は次のように続ける。

小売店売上高の指標はあまりに弱かった。その数字を考慮すると、アメリカ経済は既に景気後退入りしている可能性がある。

恐るべきことに、アメリカ経済は既に減速しかかっている。2022年第1四半期は前期比年率で既にマイナス成長だった。

これまで筆者や著名投資家は散々スタグフレーションの話をしてきた。スタグフレーションとは、景気後退に突入しながらもインフレが収まらない状態である。それが2022年の投資テーマだった。

だが今既に景気後退に陥っているとすれば、景気後退に陥っている状態でインフレ率は8%ということになる。

この状況は、年始から散々スタグフレーションを警告している筆者にとっても驚きの状況である。現金給付や量的緩和のツケがこれほどだと誰が想像しただろうか。

そしてインフレが止まっていないならば、景気後退であろうが何であろうが中央銀行は金融引き締めを続けなければならない。マイナード氏はこう語る。

既に景気後退入りしている場合、あるいは景気後退が近い場合、Fedがそこから更に引き締めを進めると、株式などの資産価格が突如として1987年のような暴落を経験する可能性がある。

昨今、株価の見通しについて様々な人が様々な過去の事例を持ち出して語っている。

筆者がメインシナリオだと思っているのは1974年の物価高騰による50%の米国株暴落である。

スタンレー・ドラッケンミラー氏は1929年の世界恐慌による80%暴落とその後の長期の経済停滞を持ち出していた。

そしてマイナード氏が持ち出すのは、1987年のブラックマンデーである。

これは下げ幅で言えば1974年などよりは小さいが、ブラックマンデーの特異性は、たった数週間の間にこれだけ落ちたということである。

だから恐らくマイナード氏が言いたいのは短期間でこれだけ下落するようなクラッシュがここから起きる可能性についてだろう。

結論

様々な人が様々な事例を持ち出しているが、現在の状況との類似性を考えると、やはり1974年の物価高騰による50%暴落が一番可能性が高いのではないかと筆者は考えている。

だがどのシナリオにおいても未来は明るくない。マイナード氏は次のように纏める。

景気後退シナリオになる場合、わたしはそうなると思っているが、リスク資産は全滅だろう。

株式を持っていても暴落する。現金を持っていてもインフレで価値が暴落する。

このような状況で出来ることはあまり残されていない。だから筆者を含め、ファンドマネージャーらは皆同じことをやっているのである。

だがこの状況は投資の素人にはあまりに苛酷ではないか。せめて被害を被るのは現金給付や量的緩和を支持した馬鹿たちだけにしてもらいたいものだと心から思う。