レイ・ダリオ氏: 年内利上げは深刻な誤りに、そして米国は量的緩和を再開する

世界最大のヘッジファンド、Bridgewaterを率いるレイ・ダリオ氏が、Bloombergのインタビュー(原文英語)で、米国の株式市場と米国利上げ、そして先進国経済の長期停滞について語っている。

ダリオ氏は、これまで量的緩和による株式の上昇相場を引っ張ってきたポートフォリオ・リバランスの正循環が終わっていないと主張する。これが正しければ、年始から荒れている株式市場は、必ずしも下落に向かわないということになる。

ポートフォリオ・リバランス

ポートフォリオ・リバランスとは、中央銀行が国債を買い入れて国債の利回りを低下させることで、元々国債に投資していた投資家がより高い利回りを求めて社債などのよりリスクの高い証券に移行し、そうして今度は社債の利回りが低下することで、社債の投資家を株式や不動産などの高リスク資産に移行させるという、量的緩和の効果の一つである。

このポートフォリオ・リバランスの逆流、つまり国債から社債、社債から株式や不動産へと流入していた資金が、利上げによって社債および国債の市場へ逆流してゆくというのが量的緩和バブルの崩壊であるが、市場はまだこの時点に達していないというのがダリオ氏の主張である。

量的緩和バブルはいつ崩壊するか

先ず、量的緩和バブルはまだ崩壊しないという点は、わたしも昨年から一貫して主張してきた通りである。2016年には急落は起きても暴落はまだ起こらない。国債の金利が上がらなければ資金の逆流は起きず、米国の長期金利は下降傾向にあるからである。

2016-3-6-10-year-treasury-note-yield-chart

米国株の方も下げ幅を縮小してきており、現時点では史上最高値から5%ほどの下落となっている。

2016-3-6-s-and-p-500-middle-term-chart

これでは米国株の空売りも現時点では儲かっていないことになり、世界の金融業界を見渡しても、中長期的に順調に利益を出しているのは、以下の記事で説明したわたしのポジションくらいだろう。

ジョージ・ソロス氏はダボス会議でS&P 500を空売りをしていると言っていたから、利益は縮小しているはずで、現状ではオプションを売ったわたしの読みの勝ちといったところであるが、そのようなことよりも問題は今後どうなるかである。

ダリオ氏も「株式に対して弱気ではない」と言っているだけで、「強気である」と言っているわけではない。わたしも彼もソロス氏も、間違っても株を買いに行こうなどとしているわけではないが、問題は空売りであれオプションであれ、下落方向に賭けるポジションを今後どうするかである。

ダリオ氏の言うようにポートフォリオ・リバランスの正循環が終わっていないとすれば、これはソロス氏の空売りポジションには悪いニュースである。株式市場の今後についてはまた別途記事にするとしたい。

債務の長期サイクル

より重要なダリオ氏の主張は、先進国経済は債務の長期サイクルの終わりを迎えているため、Fed(連邦準備制度)がもう一度利上げを行えば、それは深刻な誤りとなるということである。

先進国経済が長期停滞に陥っているという点では、著名なヘッジファンドマネージャーは大方同じ意見を持っているが、長期停滞の原因についてはやや意見が分散している。

経済学者のラリー・サマーズ氏や債券投資家のビル・グロス氏は人口動態を原因としている。わたしの周りでは技術革新によるコストの低下をデフレの原因とする声もある。ダリオ氏は、債務の長期サイクルが原因だと主張しており、わたしはそれぞれの意見に一理があると考えているが、ダリオ氏の意見にもっとも同意する。

ダリオ氏によれば、膨大な政府債務に象徴されるように、先進国経済は債務を増やすことによって成長してきたが、政府も消費者も債務の増加に限界が来ており、金利がゼロになったとしても消費者はお金を借りて消費を増やそうとしなくなっている。

債務の額が限界まで高まっているとすれば、その利払いを増大させる利上げは、アメリカ経済に対して非常に深刻な結果をもたらすことになる。

長期停滞をどう切り抜けるか

長期停滞に対する対策は、消費を直接支援することだとダリオ氏は主張する。そのためにはいくつか方法があるとし、例えば政府債務をマネタイズすること(財政ファイナンス)や、消費者に直接お金をばら撒くこと(ヘリコプターマネー)などだという。

ちなみに財政ファイナンスはもう始まっている。量的緩和が既にそうであるし、マイナス金利もそうした取り組みの一部である。量的緩和が財政ファイナンスや通貨切り下げでないというのは、当たり前のように大嘘である。

一方で、長期停滞論の提唱者であるサマーズ氏は、上に挙げた記事で財政出動を薦めている。いずれにせよ景気対策にはまだいくつか手段があるのであり、株式市場の下落に賭ける投資家は、そろそろそれらの可能性を考慮に入れなければならない時期になり始めている。

景気対策は金融市場にどう作用するか

幸いなのは、あるいは不幸であるのは、政治家はいつも賢明な投資家よりも数年遅いということである。債務の長期サイクルについても、また別途記事を書いて説明する必要があると思っている。

いずれにしても、著名投資家のあいだで一貫しているのは、利上げは続かないということ、ゼロあるいはマイナスの金利が長続きするということである。それはどういう結果をもたらすか? 今年に入って一番成功しているわたしのポートフォリオ内の最大ポジションが、ますます成功するということである。