ガンドラック氏: 利上げのお陰で株価反発の下地が整った

DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏が、先日Fed(連邦準備制度)が行なった大幅利上げと金融市場の反応についてCNBCのインタビューで語っている。

Fedを褒めるガンドラック氏

ガンドラック氏と言えば、これまでFedに批判的だったことで知られる。去年は1年中、インフレの脅威を認めないパウエル議長を批判していた。

だがFedはようやくインフレの脅威を認め、金融引き締めを開始している。それでガンドラック氏の評価も少し変わったようだ。彼は今回のインタビューで次のように述べている。

パウエル氏の会合後の記者会見は良くなってきている。

自分はFedの役人に批判的なことが多いが、今回の会合はかなり良かったと思う。

ガンドラック氏としては珍しいことである。彼は理由を次のように説明している。

彼はまず棍棒から始めた。「インフレを抑制する」「インフレを抑制する必要がある」「インフレを抑制しなければならない」、そしてそこからよりハト派的になった。市場が安心するようなことを喋った。

結果として市場は上がり、市場のムードを変えたと思う。会見の最中と会見の後、株価が上がっただけではなく、債券市場もいくらか落ち着いた。

実際、FOMC会合に対する市場の反応は良かった。ガンドラック氏はその理由について、今後の方針を示さなかったからだと分析している。

今後の政策についてもっとガイダンスを示してくれと言う人が多いが、以前わたしはむしろ逆だと書いた。ガイダンスはFedの信任を台無しにした張本人だ。

ガイダンスで事前に何かを予想してもそれは起こらない。そして状況が変わっても彼らは約束を守るために事前に決めたことをせざるを得なくなる。

それはまさに、「インフレは一時的である」と言ってしまったばかりに、インフレが始まってから1年が経過しても「一時的である」と言い続けなければならなくなった去年のパウエル氏の姿である。

あるいは日本国民がインフレに苦しむ中、インフレを実現するためにいまだに緩和を続けている日本銀行の姿である。

だがガンドラック氏によれば、パウエル氏は今後について何も約束しなかった。そしてガンドラック氏はそれを次のように絶賛している。

今回、それは起こらなかった。それどころか各会合ごとに判断するとまで言った。

そしてその方が良い。Fedが過去のデータに基づいて馬鹿なことを言い、何かをやると約束し、そして結局すべてを変更しなければならなくなるより良い。

これは経済学者ラリー・サマーズ氏と同じ考え方である。

ガンドラック氏がそう言うのも当然だろう。彼はそもそも、政策金利はろくに経済を予想出来ない中央銀行の役人が決めるのではなく、市場の今後の政策金利の予想値を反映する2年物国債の金利に基づいて決めるべきだと主張していた。

だからパウエル氏が自分で事前に方針を決めず、会合の瞬間に市場が織り込んでいることをそのまま実行すると実質的に表明したことに満足しているのである。

それならばそもそも中央銀行の職員を解雇してしまえば良いのだが、それは今は置いておこう。

市場の反応と今後

さて、会合後の市場の推移に注目してみよう。ガンドラック氏は会合後の市場の反応が良かったと述べた上で、次のように言っている。

債券市場はここのところ荒れていた。6月は高利回り債や新興国市場にとって酷い月だったが、そこからかなり強いリバウンドがあった。社債や高利回り債は特にそうだ。そして今回の記者会見の後にまた追い風が吹いた。

確認のために高利回り債ETFのチャートを掲載しよう。

高利回り債(いわゆるジャンク債)は今年の利上げ相場で急落していた。当然である。金利の上昇は債券にとって価格の下落を意味するからである。

だが今月に入って反発している。理由は同じタイミングで長期金利が天井を打ったからである。アメリカの長期金利は以下のように推移している。

これまで利上げで上がっていた長期金利は、アメリカ経済がもう利上げに耐えられないことが明らかになり始めてから下がり始めている。

そして長期金利の低下は当然ながら株価にも良い影響を与えている。S&P 500は次のように推移している。

筆者はスタンレー・ドラッケンミラー氏に倣って米国株の空売りを7月の初めにある程度手仕舞ったが、その判断は正しかったようだ。ドラッケンミラー氏のタイミング能力はしばしば神がかっている。

結論

そしてどうやらガンドラック氏も同じような株価推移を予想しているようだ。

今は興味深い状況にある。資産価格はここ数ヶ月の状況のお陰で十分に安くなっており、1ヶ月の話ではなく6ヶ月から12ヶ月のスパンの話だが、債券市場や一部の高リスクの株式にとって良いリターンを出す可能性が著しく改善されたと思う。

金利が上がったので株価が下がっていたのだから、金利が下がる以上株価はある程度上がらざるを得ない。

ガンドラック氏が「高リスクの株式」と言っているのは、利上げで酷くやられていたハイテク株などの反発を想定しているのではないか。

そうなると、ガンドラック氏が「レバレッジのかかったNasdaq」と呼んだビットコイン相場も一時的に吹き返す展開になるのかもしれない。

しかし、ガンドラック氏は6ヶ月から12ヶ月と言ったが、筆者はもっと早くこの反発相場は終わると思っている。

これまでは金利上昇を織り込んで株価が下がってきたが、株価が織り込まなければならないものがもう1つある。インフレによる企業利益の減少である。

企業利益は既に横ばいになっている。だが景気後退を織り込むのであれば、企業利益は横ばいどころか急降下してゆく。しかし今の株価は金利上昇分しか下落していない。

株価は最終的には途方もない底値にまで落ちてゆく。だがドラッケンミラー氏が言ったように、下げ相場は長い。2年ほどかかるかもしれない。数ヶ月単位では上がったり下がったりしながら、長期的には大きく下げてゆくのである。