人権団体アムネスティ、ウクライナ政府の人間の盾戦略を非難

久々にウクライナ関連のニュースである。国連やEUの諮問機関であるアムネスティ・インターナショナルが、ウクライナ軍がロシア軍との戦いの中で故意に住宅地に陣取ることによってウクライナの民間人を危険にさらしているとする報告書を発表し話題となっている。

ウクライナ軍の行動

話を少し遡って始めたい。元々ロシア軍はウクライナで学校や病院を攻撃しているとして日本を含む西側のメデイアでは非難されていた。

こうしたニュースでは、攻撃された病院や学校の写真が掲載され、ロシアを非難する言葉が並べられていた。だが筆者はそれらの記事を見ながら思い出していたことがある。以前も取り上げたOHCHR(国連人権高等弁務官事務所)の報告書である。

その報告書には次のように書かれていた。

ウクライナの軍隊とアゾフ連隊は民間人を立ち退かせて民間の建物を広く使用しており、そこでは民間人の財産の略奪が行われている。

アゾフ連隊は以前も取り上げた、2016年にウクライナ国家親衛隊が吸収した元フーリガンのネオナチ武装組織である。

アゾフ連隊がネオナチ組織であることは日本の公安調査庁のホームページにも記載されていたが、ロシアのウクライナ侵攻後に何故か削除されている。

アゾフ連隊が民間の建物から略奪していたことは驚きではないが、OHCHRの記述によると略奪していたのはウクライナ軍のうちアゾフ連隊だけではないらしい。

また、上記の報告書は次のように続いている。

ドネツク市では、住宅やホームレス用の避難所、画廊などの元々民間のものだった建物は、引き続き武装集団によって使われており、民間人を危険にさらしている。

だから筆者は上記のニュースを見ながら考えていた。ロシア軍が攻撃したとされる建物は本当に「病院や学校」なのか? 西側メディアの非難の格好の的となるのに、そんな場所をわざわざ狙うメリットが本当にあるのか?

どちらにしても証拠がない。だが、西側のニュースには筆者が考える可能性を否定する情報は1つも掲載されてはいなかった。

アムネスティ・インターナショナルの報告書

筆者の頭にそういう疑念が残ったままの状態で流れてきたのが、上記のアムネスティ・インターナショナルの報告書である。

アムネスティ・インターナショナルは国連やEUの諮問機関であり、イギリスの弁護士ピーター・ペネンソン氏が創設したどちらかと言えば西側寄りのいわゆる人権団体である。そのアムネスティが8月4日に発表した報告書には次のように書いてある。

アムネスティ・インターナショナルの研究者は、ウクライナの軍隊が5つの地点で病院を事実上の軍事基地として使用しているのを目撃した。2つの街では、多くの軍人たちが病院の中で休んだり、うろついたり、食事を取ったりしていた。他の街では、軍人たちが病院の近くから銃撃を行なっていた。

4月28日、ハルキウ郊外におけるロシア軍による空爆では医療研究所の従業員2人が負傷したが、そこではウクライナの軍隊が敷地内に基地を設置していた。

報告書にはこうした事例が他にも記載されている。報告書は次のように述べている。

ドンバスやミコライウの町や村で、ウクライナ軍は学校に軍事基地を設置するということを日常的に行なっている。

言論封鎖されたロシア側の反論

上記のように、ロシアが攻撃した拠点が軍事基地化された民間施設だった事例があったことは、ロシアが純粋な病院や学校を一切攻撃しなかった証拠にはならない。

しかしロシアが「病院や学校」を攻撃したとして一斉にロシアを批判していた日本を含む西側メディアの記事の大半には解せない点があった。ロシア側の反論が一切載っていないことである。

本当にロシアの言い分が荒唐無稽であるならば、それをそのままロシア批判の記事にも載せれば良いのである。だが、読者も検索してもらいたいのだが、ロシアが学校を攻撃したという西側のニュース記事に、ロシア側の言い分が載っているものはほとんど皆無だった。

それでようやく見つけたのは、かなり遡って3月のニュースで、ロシアが病院を空爆したとする批判に対し、ロシアの国連大使であるネベンジャ氏がTwitterでこう答えているものである。

(病院は)過激派によって軍事施設に変えられていた。国連が検証なしに偽情報を広めている。

また、ネベンジャ氏は同時期に国連安保理で次のように述べている。

安保理メンバーはわれわれの言うことに耳を傾けてくれない。プロパガンダではなく事実を提示しているが受け入れてもらえない。

ちなみにネベンジャ氏は上記の投稿のためにTwitterアカウントを凍結されている。

ぜレンスキー大統領の反論

さて、では公平を期すために、アムネスティの報告書に対するウクライナ大統領ゼレンスキー氏の反論も載せておこう。

被害者と加害者を対等に扱うような報告書を作ることは許容できない。

ウクライナに対するロシアの攻撃が正当化されるような状況は存在しない。

ロシアが悪いから自分が何をやっても正当化されるという考えは、自国を支援してくれているドイツの首相をレバーソーセージ呼ばわりしたウクライナ政府にふさわしいものである。

だが注目したいのは、ゼレンスキー氏が意図的に民間人の間に陣取る「人間の盾」戦略を否定していないことである。

そしてロシアの「学校や病院」への攻撃に対して、ゼレンスキー氏は以前、「ロシア軍の司令官たちはただただ病気」だと主張していた。確かに単なる学校や病院を意味もなく攻撃したのであれば病気なのだろうが、筆者が解せないと思ったのはまさにその点である。

思い出してほしいのだが、ウクライナ政府はそもそも18歳から60歳の男性を出国禁止にし、自国民が逃げられないようにしている。そして民間人に銃を持って戦うように焚き付けたのもゼレンスキー氏である。

だが銃を持った民間人は民間人なのだろうか? ウクライナ政府にとっては、戦力も増え、殺されればロシアを非難できるので一石二鳥である。

ここからは筆者の意見だが、ゼレンスキー氏はロシアを国際世論の批判にさらすために、ウクライナの民間人を意図的に犠牲にしている。

以前にも述べたが、そもそもロシアの侵攻前に核兵器をロシアに向けることをほのめかし、戦争の直接の原因を作ったのはゼレンスキー氏なのである。

結論

何度も述べているが、2016年にアメリカやEUによって支援されたデモ隊が当時のウクライナ政府から親ロシア政権を武力によって追い出して以来、ウクライナの政権はアメリカの傀儡となっていた。

それは例えば、以下の記事で解説したように、バイデン大統領がウクライナ政府を顎で使っていた事実によっても例証される。

そしてゼレンスキー大統領は一貫してウクライナ国民を守ることよりも、欧米の政治的都合のためにウクライナを対ロシアの尖兵とすることを重視しているように思える。

結果として、「ゼレンスキー疲れ」という言葉で表されるように、自分の要求ばかり声高に叫ぶゼレンスキー氏に対して欧米の人々の支持は失われているようだが、それだけではない。恐らくそれはウクライナ政府内部でも起こっている。

ウクライナは7月18日、情報機関と検察のトップを停職処分にした。両機関の職員がロシアに協力しているケースが多数あることを理由にしている。

どうやら政府内部にゼレンスキー氏に反旗を翻す人々が多くいるようである。

筆者はこの状況を、欧米の反ロシア勢力とゼレンスキー氏がウクライナを対ロシアの兵器として使っている状況に対するウクライナ国民の反逆であると考えている。そしてそれはどうやら、ウクライナ政府のかなり中枢まで及んでいるようである。

そもそも姉妹国であるロシアとウクライナが戦争をしなければならない理由はなかったはずなのである。

だが日本のニュースでは流れていないが、ウクライナ政府は崩壊寸前なのではないか。第2次世界大戦で官製放送により日本の勝利ばかり聞かされていた日本人が敗戦の知らせに驚いたのと似たような報道が、もうすぐウクライナ情勢に関しても行われるのではないかと筆者は考えている。

メディアの報道は本当に鵜呑みにしてはならないのである。