ジョン・ポールソン氏、サブプライムローンの空売りで大儲けした時のことを語る

多くの人が大損したのが2008年のリーマンショックの相場だが、ヘッジファンド業界にはその暴落相場で巨額の利益を上げた人物が何人かいる。そしてその筆頭がPaulson & Coのジョン・ポールソン氏である。

今回はBloombergのインタビューより、ポールソン氏がリーマンショックの原因となったサブプライムローンの空売りで利益を上げた時の話を取り上げたい。

サブプライムローンの空売り

サブプライムローンとは、当時アメリカで流行っていた質の低い住宅ローンのことである。ローンを返せるかどうか分からないサブプライムな(つまり二流の)ローンを集めて証券化した。

実際には借金を返せるかどうか不明な借り手にお金を貸すようなものだったのだが、証券化されたことで実体が見えづらくなり、格付け会社が高い格付けを与えた。高い格付けにもかかわらず金利が高かったために多くの資金が集中しバブルになったのである。

インタビューではポールソン氏はまず空売りの難しさについて聞かれている。そこで彼は次のように語っている。

空売りは失敗した時には青天井の損失を出すことがあるが、その点サブプライムローン債券の空売りは面白かった。何故ならば、あの空売りはリスクが非対称だったからだ。

投資において、買いポジションは最悪のケースでも投資額を失うだけだが、空売りの損失は理論上無限である。だがポールソン氏によれば、サブプライムローンの空売りはそうではなかったという。

彼は次のように続けている。

通常、債券を100ドルの額面価格で空売りするとき、その債券を市場で売る代わりに100ドルの現金を手にする。そしてその100ドルは投資に回すことができる。

だから空売りの損失は厳密には空売りする債券のために払う金利と、100ドルを投資して得る利益の差ということになる。

分かるだろうか。債券を空売りするためにはまずその債券を誰かから借りなければならないが、債券を借りるためにはその債券の金利以上の金利を空売りしている間支払わなければならない。

一方で、借りた債券を市場で売れば現金が入ってくるので、それを国債などに投資をすれば金利が得られるわけである。

国債並みだったサブプライムローンの金利

ポールソン氏のような空売り投資家にとって幸いだったのは、当時サブプライムローンがあまりに過大評価されていたために、サブプライムローンの金利と国債の金利がそれほど変わらなかったことである。

ポールソン氏は次のように続ける。

サブプライムローン債券のケースでは、サブプライムローンの金利は6%程度だった。格付けはBBBだった。

一方で国債の金利は当時5%だった。だから100ドルで債券を空売りすると、6ドル金利を支払う代わりに100ドルの現金を手にして、国債を買う。国債から5ドルの金利を得られるから、空売りのコストは年間たった1ドルということになる。

サブプライムローン債券の期間は2年か3年だったから、損失リスクは精々2%か3%だ。

仮に空売りが成功しなくても空売り投資家のやることは年間1ドルの金利差を払うだけのことだ。一方で空売りが成功すればどうなるか? ポールソン氏はこう続ける。

しかしサブプライムローン債券がデフォルトすれば、空売り投資家は100ドルを得ることができる。

これがリスクが非対称だったということの意味である。

通常、株式市場で投資をしていればリスクがこれほどに非対称な投資はなかなか見かけないだろう。一方で、債券市場や為替市場ではこういう状況がしばしば発生する。損失は限られているのに、成功すれば莫大な利益を生む。

日本の投資家は株式市場にばかり目を向けている人が多いかもしれないが、債券や為替も面白いものだと伝えておこう。

空売りにおける最大の課題

とはいえ、ポールソン氏はそれほど簡単にサブプライムローン空売りで儲けたわけではない。空売りにはそれでも最後の難問が残っている。その難問とは彼によれば次のものである。

債券空売りの問題は干し草の山の中から針を探すようなものだ。その債券はいつデフォルトするのか?

投資においてタイミングは常に難問である。ポールソン氏は次のように続ける。

Moody’sやS&Pによれば、サブプライム危機の前、サブプライムと同じ等級の債券のデフォルトは1つもなかった。

だがサブプライムローン債券の本質、住宅ローンの本質、そして当時かかっていたレバレッジを考えれば、住宅価格が横ばいか多少下落に転じるだけでこれらの債券はデフォルトするだろうと考えた。

だからポールソン氏は当時、高騰していた住宅価格をずっと眺めていたのだろう。そしてそれが横ばいになり、下落に転じる瞬間を待った。それはついにやってきた。そしてその瞬間に空売りをしたのだろう。

結論

当時の住宅価格の推移については以下の記事で説明しているので、興味のある読者は参考にしてもらいたい。

だが住宅価格が横ばいになっただけでデフォルトに追い込まれる住宅ローンというのは、当時の人々はどれほど住宅価格の値上がりを前提に行動していたのかを教えてくれる。

それは恐らく、住宅価格は永遠に上がり続けるものだと思っていた少し前までの中国人と同じなのだろう。中国の住宅バブルももはや崩壊したと言っても良いだろう。

誰もが永遠に上がり続けると思っている投資対象、誰もがそれを前提として投資をしている投資対象というのは、その前提が崩れると雪崩のように暴落してゆくものである。それは現在の市場にもまだ存在している。

筆者が何のことを言っているのか、ここの読者なら分かっただろう。米国株である。

これほど下落してもまだ信者が大勢残っているのだから、ここからの下落幅にも大いに期待ができるというものである。大量の素人を引き連れてきてくれた金融庁に感謝しよう。