ジム・ロジャーズ氏: 景気後退で紙幣印刷再開、インフレ第2波へ

ジョージ・ソロス氏とクォンタム・ファンドを立ち上げたことで有名な投資家のジム・ロジャーズ氏がThe Meb Faber Showのインタビューで、インフレが一度落ち着いた後のシナリオについて語っている。

インフレは一度沈静化する

世界的な物価高騰が続いている。一方、アメリカではもう半年ほどインフレ率が8%台で横ばいとなっており、ピークが近いのではないかと言われている。

インフレ率は今後どうなるのだろうか。ロジャーズ氏は次のように語っている。

一直線に上昇するものも一直線に下落するものも存在しない。調整を交えながら上げと下げを繰り返すのが普通だ。そしてインフレにも同じことが言える。

だから物価は上昇した後、下落してゆくのだろうか? ロジャーズ氏の意見はそうではない。彼はこれからインフレ率が下がったとしても再び上昇する可能性が高いと見ている。

彼は次のように述べている。

原油の価格が高騰し、その後落ち着く。人々は「インフレが収まった」と考える。だが多くの場合一時的なものだ。

特にインフレはロシアのウクライナ侵攻のせいだという大手メディアのデマを信じている人はそう思いがちだ。ウクライナ情勢が短期的なものであれば、インフレも短期的なもののはずではないか。

だがロジャーズ氏はこう続ける。

戦争があれば穀物を植えたり農作物を収穫したりするのが難しくなる。だがもっと重要なのはインフレはウクライナ前から存在したということだ。

アメリカのインフレ率のチャートを掲載しよう。そしてインフレがウクライナ侵攻の始まった2022年2月末から始まったのかどうか確認してみるといい。

実際にはインフレはコロナ後の現金給付などのばら撒きが引き起こしたのである。

インフレは続くのか

だから今後インフレ率が原油価格の落ち着きなどを反映して下落した後、インフレはまたぶり返すのかどうかを考えるためには、「ウクライナ情勢はいつまで続くのか」を考えるのではなく、「このばら撒きを好む人々は存在し続けるのか」を考える必要がある。そして答えはイエスである。

ロジャーズ氏は次のように予想する。

何か本当に劇的なことでも起こらなければ、インフレは続くだろう。景気が世界的に後退すれば、中央銀行は紙幣印刷を続けるだろうからだ。

ロジャーズ氏は戦争とインフレを好むアメリカ政府を嫌ってシンガポールに移住しているのだから、彼の中央銀行家に対する見方は非常に明確である。

ロジャーズ氏は次のように続ける。

中央銀行は人々のことなど考えていない。彼らが考えているのは自分の職のことだけだ。

日本円が暴落しているのに、日銀は何故緩和をして円を暴落させ続けるのだろうか。

日銀の黒田総裁は何故自分の政策が失敗どころか危機の原因であることを認めないのか? 認めたら任期終了を待たずに辞めざるを得ないからである。このロジャーズ氏の発言はほとんどの中央銀行の行動原理を表している。そしてそれゆえに投資家にとって非常に重要である。

パウエル議長は緩和に逆戻りするか

日銀の黒田氏は言及する価値すらないが、アメリカが深刻な景気後退に陥った時にFed(連邦準備制度)のパウエル議長が緩和に逆戻りするかどうかは投資家にとって議論する価値のある問題である。

ロジャーズ氏の考えでは、パウエル氏は緩和に逆戻りする。筆者もこの件についてロジャーズ氏と同じように考えている。

何故か? それを予想するためには、パウエル氏の行動原理が何であるかを考えてみるといい。

パウエル氏は何故2018年に自分の金融引き締めが世界同時株安を引き起こしたとき、引き締めを撤回して緩和に逆戻りしたのだろうか?

逆戻りしなければ世間に批判されて自分の立場が危うくなったからである。

ではパウエル氏は何故2021年に、アメリカのインフレ率は既にかなり高かったにもかかわらず、「インフレは一時的」とマントラのように唱え続け、金融引き締めをやらなかったのだろうか?

世間が物価高騰を騒ぎ始めるよりも前に引き締めで経済を冷やしてしまえば自分の立場が危うくなっただろうからである。

ではパウエル氏は何故2022年に株価が暴落しても金融引き締めを続けているのか? 引き締めを続けずに物価高騰が続けば世間から批判されて自分の立場が危うくなるだろうからである。

パウエル氏が考えている唯一のこと

ここまで考えればお分かりだろう。パウエル氏はこれまで一貫して1つのことしか考えていない。自分の立場が危うくなるかどうかである。

1970年代にアメリカで物価高騰が起こったとき、それを沈静化したのは当時の議長だったポール・ボルカー氏だった。

彼は彼の引き締めが世間の批判を浴びても引き締めを続けた。そして彼と大統領はともに自分の席を失ったが、インフレは食い止めた。

パウエル氏とボルカー氏は同じだろうか? まったくの別人である。パウエル氏が信念で動いていないことはこれまで5年彼の行動を見てきた人間ならば誰でも分かる。というか、マクロ経済学とは無関係のキャリアを歩んできた彼にそもそもマクロ経済学上の信念などない。彼はボルカー氏ではない。

だからパウエル氏は金融引き締めが実際に景気後退をもたらし、世間の引き締め政策への批判が高まり、自分の立場が危うくなれば、喜んで緩和に転換するだろう。

緩和再開でインフレ第2波へ

したがってロジャーズ氏の予想は明快である。これからインフレ率が下がり、それ以上に経済成長率が下がるとき、パウエル氏はどうするか? ロジャーズ氏は次のように言う。

日本では既に膨大な紙幣印刷をしている。アメリカも同じだ。経済が落ち込めばFedは紙幣印刷をするだろう。彼らは緩和に逆戻りする。

要するにパウエル氏も黒田氏と同じ道を辿るということである。それはドルの暴落を意味する。

だが何度も言うが、利上げさえ正常に行われれば、預金者は預金金利の上昇でインフレから身を守ることが出来るのである。

だが中央銀行は緩和を続ける。そして預金者は金利も得られず、インフレはますます酷くなる。

結論

ロジャーズ氏はこのように纏めている。

勿論これは人々にとって良いことではない。だが彼らはそれが彼らにとって良いことだと考えている。

まったく黒田氏にふさわしいフレーズではないか。そしてパウエル氏も、これまでそうだったように、これからもそうなるだろう。ジョン・ポールソン氏やポール・チューダー・ジョーンズ氏など、他の著名投資家も同じように考えているようである。

ロジャーズ氏はこう言う。

もし自分が中央銀行のトップなら、中央銀行を廃止してから辞任するだろう。