10月米インフレ率は7.8%に急減速、ドル高相場の終焉

米国時間11月10日に最新10月のアメリカのCPI(消費者物価指数)統計が発表された。元々減速が予想されていたインフレ率は市場予想を更に下回る7.8%(前年同月比、以下同じ)となり、半年以上8%台で推移していたインフレ率はついに7%台入りした。

遂に7%台へ

まずは全体の数字の推移を見てみよう。以下が前年同月比のインフレ率のチャートである。

インフレ率は明らかに天井を超えたようだ。筆者がこの兆候を最初に記事にしたのは6月のことだっただろうか。

筆者は当時まだ年始に始めたコモディティの買いポジションを持っており、この記事を起点にコモディティポジションを利益確定してゆくことになる。

その後原油などの価格は急落していった。コモディティ市場は実体経済の物価に対して先行指標となるので、こうなればあとはコモディティ市場の影響がCPIのデータに表れるのを待つだけである。

そしてそれは10月のデータにようやく表れたということらしい。

減速続くエネルギー価格

インフレ率の方向性を決定づけた全体の数字は重要だが、やはり内訳を見ていかなければ今後の動向は読めない。

まずはエネルギー価格だが、前年同月比で17.6%の上昇となり、前回の19.9%から更に減速している。

これは当然ながら原油価格の下落に起因している。原油価格は次のように推移している。

だが問題は市場がインフレ減速からの利上げ停止を織り込み始めると、それは原油価格にとってプラスになるということである。

住宅の減速はやや驚き

しかし今回の記事ではCPIの内容に着目しよう。次は住宅である。

住宅は今回筆者が一番注目していた指標である。何故ならば、金融引き締めがすぐに効果を表す原油価格の減速の影響は数ヶ月前からCPIの数字に表れており、逆に金融政策が効きにくい賃金インフレの減速は雇用統計の数字からまだ見込めないことが明らかである。

一方で住宅価格自体は利上げの影響を受けて既に減速している。

だが経済学者のラリー・サマーズ氏がその減速がCPIの数字に反映されるまでに時間がかかる可能性を指摘していたからである。

結果、どうなったか? CPIの住宅関連の項目は7.9%の上昇となり、前回の8.0%から減速した。

0.1%の僅かな減速だが、これは少し驚きである。住宅の天井が厳密にここなのかどうかはまだ分からないが、住宅がピークとなればあとは賃金インフレしか残らない。

サービスは加速続くも勢い鈍化か

では賃金インフレを反映しやすいサービスの価格はどうなっているのか。エネルギー関連を除くサービスの価格は6.8%の上昇となり、前回の6.7%から加速した。

だがこちらも0.1%の微妙な加速である。勢いは鈍化しているように見える。雇用統計で失業率が上がり始めたこととも関係があるだろう。

市場の反応

ということで、今回のCPIのデータは明らかにディスインフレ寄りのデータだった。住宅価格もピークで、賃金インフレも弱まりつつあるとなれば、金融引き締め相場は終了し次の段階に移ることになる。事実、CPI公表後に株価は大きく上がった。

インフレ減速については6月から予想していたことだから、ここでは当然対策を公表してある。

この記事では10月に発表される9月のCPIがデフレ側に動くことを警戒してゴールドの買いポジションを立てた。実際には昨日発表の10月のCPIがデフレ側に動き、金価格は急上昇した。

インフレ統計をピンポイントで当てることは不可能なので、概ね予想通りである。ここが金価格の底だろう。

結論

さて、今後はどうなるか。インフレ減速が株価とコモディティ価格の両方にプラスであることは言うまでもない。

一番重要なのは、恐らくここが長らく続いたドル高相場の終焉であるということである。CPIを受けてドル円も急落している。

筆者は日本円への不信感からドル円の空売りではなくドル建て金価格の上昇に賭けたが、短中期的にはドル円も恐らくここがピークとなるだろう。長期的には、円よりもゴールドを買う方が良いのは言うまでもない。

株価はどうなるか。金相場と株式相場の違いは、株式は利益を生むことである。よって株価は金価格と違い、企業利益の先行きに左右される。

今後のインフレ率が高く維持されるならば、金利もやはり高く維持されることになる。インフレ率を前年同月比ではなく、前月から今月の上昇分が1年間続くとどうなるかという前月比年率の数字で見れば次のようになっている。

5.4%である。つまり、9月から10月の最新の伸び率がこのまま続くと年率で5.4%のインフレになるということである。

この数字は前年度の数字が上がってくることによる見かけ上のデフレを含まない最新の数字である。よって金利が今後5%程度まで上がるという見込みも大体正しいと筆者は見ている。

何度も言うが、来年1年は年間通して金利が4%以上になることがほぼ確実となっている。ゼロ金利に慣れきった米国企業の企業利益が来年どうなるかということは、最近のハイテク株の悲惨な決算が先行指標となってくれる。投資家はこうした数字を重視すべきである。

金価格は直近が底値となる一方で、株価は来年に向けて企業利益の減少がかなり重い重しになってくるだろう。だから筆者は米国株を空売りした上でゴールドを買っている。

このクロスポジションはインフレを差し引いた実質の数字でアメリカ経済が死ぬことは避けられないというテーゼの上に立っている。それは不可避だろう。

詳細は10月の記事に書いてあるが、そもそもこのスタグフレーショントレードは1月に始めたトレードに回帰している(買いと売りの銘柄は少し変わっているが)ので、そちらも参考にしてほしい。書くべきことは年始からすべて事前に書いてあるのである。