世界最大のヘッジファンド: 無節操に支出し続けるメンタリティのお陰でスタグフレーションへ

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏がBusiness Todayのインタビューでインフレの根本原因について語っている。

インフレの本当の原因

インフレの原因は何か。ヨーロッパなどの局所的な話を除けば、もはやロシアのウクライナ侵攻は完全に無関係である。原油価格は既に2022年2月末の侵攻開始時よりも大幅に低い水準にある。

これは識者が全員最初から指摘していることだが、大手メディアはいまだに2021年から始まっていたインフレの主因として2022年のウクライナ情勢を挙げている。デマを撒き散らすのも良い加減にしてはどうかと毎度思っている。

ではインフレの本当の原因は何か。経済学的にはコロナ後にアメリカでは3回も行われた現金給付によって需要が爆発的に増加したこと、そしてそこからの物価上昇スパイラルが原因だが、ダリオ氏はもっと本質的な原因を分析したいようだ。

ヘリコプターマネーにすがる人々の声

経済学においては物価は需要と供給で決まる。現金給付は確かにこのバランスを完全に崩壊させた。

だがそれを政治的に許容した背景とは何か。それがインフレの本当の原因のはずである。そしてそれは単にコロナだけの話ではないとダリオ氏は言いたいのだろう。彼は次のように述べている。

誰もがお金を必要としている。貧困緩和のためにもお金が必要だ。インフラのためにもお金が必要だ。ウクライナの復興のためにもお金が必要だ。気候変動のためにもお金が必要だ。

だがその原資は何処から出るのか? コロナ初期にジェフリー・ガンドラック氏がこう言っていたことを思い出したい。

政府による企業救済とヘリコプターマネーを求める声がうるさいほどである。でも政府は文無しだ! まったくの文無しだ。

現金給付を求める声に対してダリオ氏もまたこう言っていた。

われわれが消費をできるかどうかはわれわれが生産できるかどうかに掛かっているのであり、政府から送られてくる紙幣の量に掛かっているではない。

紙幣は食べられない。

問題の根源は人々が消費したい量に対して商品の量が足りないことである。それを紙幣印刷で解決できるという妄想は何処から来たのか。あなたの欲しかったものは食料やエネルギーではなく紙だったのか?

このような馬鹿げたアイデアは個人の資金繰りのレベルでは考えもしないことのはずである。ダリオ氏はこう説明する。

個人であれば、先ずいくらお金を持っているかを考え、次に何に使うかを考えるだろう。だが政治においてはそのメンタリティがない。

個人と政府の大きな違いは、政府は紙幣を印刷することができるためにその制約がないということだ。

そしてお金を手にした人が更に必要のないものまで購入して更にものがなくなってゆく。それが政府のやっていることである。

紙を求めた人は確かに紙を得たが、食料やエネルギーの欠如はむしろ酷くなった。現金給付支持者の望んだ通りの未来である。おめでとう。

生産なしに消費できるという妄想

要するにダリオ氏はこう言っている。インフレの本当の原因が何かと言えば、生産することなく消費をすることができるという妄想こそがインフレの根本原因である。

その一番の見本は、エネルギーを生産することなく暖房を確保できるというヨーロッパの新興宗教だろう。

しかしこうした身の丈に合わない消費をする傾向はリーマンショック以降長年存在した。それでもまだ貯金がある間は良い。無駄金が銀行口座に溜まってゆくだけで、元々貯金のある人々の消費行動にはそれほど影響しない。

だがコロナなどで人々に本当にお金がなくなり、降ってきた現金を人々が本気で使うようになれば紙幣印刷の幻影はもうおしまいだ。物価は高騰し、しかもこれまで10年以上溜まり続けた分の現金まで人々は使おうとする。そして現金の価値がなくなる。

だから今の相場はリーマンショック以後の14年、もっと言えば金利低下が始まった1980年以後の42年間の低金利巨大バブルの総決算なのである。それが20%程度の株価下落で収まり、インフレも次第に元に戻ってゆき、大した不況に陥ることもないという市場参加者の妄想は完全に間違っている。

今やインフレ率は下げなければならないが、現在7%台のアメリカのインフレ率を2%まで5%下げれば、現在1%台の経済成長率は間違いなく5%以上、恐らく10%程度下がるだろう。そうならなければ、物価高騰は10年は居座るだろう。そのほとんど間違いない未来は、まだ金融市場の何処にも織り込まれていない。

ダリオ氏はこのように纏めている。

中央銀行は今やインフレと経済成長のトレードオフを迫られている。残念ながらこの困難な状況はスタグフレーションを引き起こすだろう。

筆者の今年の相場観は、一貫してスタグフレーショントレードである。年始から明らかだったではないか。