ポールソン氏、製薬会社を残して米国株を大量売却、原油下落も予想か

機関投資家の米国株買いポジションを開示するForm 13Fの中から、リーマンショックにおける空売りで巨額の利益を上げたジョン・ポールソン氏のPaulson & Coのポートフォリオを紹介したい。

ポールソン氏のインフレ第2波シナリオ

ポールソン氏は2008年のサブプライムローン危機において、渦中にあったモーゲージ債の空売りで利益を上げたことで有名なファンドマネージャーである。以下の記事では本人が当時のことについて語ってくれている。

そのポールソン氏の今年の相場観はと言えば、アメリカの金融引き締めで実体経済が沈み、しかしインフレ率はそれほど下がらず、中央銀行は緩和再開を余儀なくされるというものだった。

以前の記事から彼の予想を引用しよう。

インフレ率は最良のシナリオにおいても2%まで下がったりはしない。4%、5%、6%までなら下がるかもしれない。だがその時点で経済は沈み込んでおり、中央銀行は緩和を余儀なくされるだろう。

経済学者ラリー・サマーズ氏も同じことを言っていた。

緩和再開になれば、インフレ第2波が到来し金価格は高騰するとポールソン氏は言っていた。だが、その未来が実現するのはもう少し先である。金融引き締めの効果は金融市場には表れているが、実体経済にはまだ表れていない。

これから来年にかけてその効果が表れ、世界的な景気後退が現実となり、その後中央銀行がどうするかである。

ポールソン氏のポートフォリオ

まだ実体経済が落ち込んでいない段階である今、ポールソン氏はどうしているのか。彼の株式に対する姿勢は、Form 13Fに報告されたこれまでの米国株買いポジションの総額の推移を見れば分かる。

  • 2021年3月末: 44億ドル
  • 2021年6月末: 42億ドル
  • 2021年9月末: 35億ドル
  • 2021年12月末: 32億ドル
  • 2022年3月末: 32億ドル
  • 2022年6月末: 20億ドル
  • 2022年9月末: 14億ドル

かなりの勢いで減り続けている。今や2021年3月時点の3分の1以下である。

これから景気が悪化することを予想し、米国株へのエクスポージャーを減らしている様子が読み取れる。

製薬会社の買い

そしてそれはポートフォリオの内容からも分かる。ポールソン氏の最大ポジションとなっているのは、製薬会社のHorizon Therapeuticsで、金額は3.8億ドルである。

チャート的には最近の株高に乗って反発している。

今回のForm 13Fでは製薬株が大人気である。ジョージ・ソロス氏、スタンレー・ドラッケンミラー氏も製薬株を買っていた。

インフレで値段が高くなっても、消費者が治療に必要な薬を減らすのは一番最後だろう。景気が悪化する場合のディフェンシブ銘柄でもある。

2番目に大きなポジションも製薬株で、Bausch Health Companies、規模は1.8億ドルである。

エネルギー株の売り

また、ポールソン氏のポジションで他に特筆すべきなのは、前回6月末の開示では1.5億ドルあったアメリカの原油・天然ガス採掘企業Occidental Petroleumの買いポジションがすべて決済されていることである。

Occidental Petroleumの株価は次のように推移している。

原油価格が以下のように下落している中、株価推移は悪くないと言える。

だがポールソン氏は2023年の不況突入による原油価格の下落を恐れたのだろう。何故今原油が下がっているのかについては、7月あたりの記事で事前に説明しておいた。

結論

製薬株の買い、エネルギー株の売りというポールソン氏のトレードは、これから不況に突入するアメリカ経済に備えたものであると言える。ソロス氏、ドラッケンミラー氏、ポールソン氏の3人が揃って製薬株を買っているのは興味深いことである。

また、Form 13Fは買いポジションだけを開示するため、空売りのポジションについては不明である。だが恐らく3者とも何らかの空売りポジションは持っているものと筆者は推測している。

しかし本当の問題はやはり、不況が起こった後のことだろう。1970年代の物価高騰時代のように、失業者は続出し、経済は阿鼻叫喚の状況になる。

その時投資家はどうすべきなのか。ポールソン氏の予想については以前の記事に書いてあるので、そちらを参考にしてもらいたい。