11月雇用統計で平均時給上昇、賃金インフレ根強く高金利継続か

米国時間12月2日、11月のアメリカ雇用統計が発表され、失業率は3.7%で前月比横ばいとなった。これ自体は良くも悪くもない数字なのだが、労働者の時給にサプライズがあったので紹介したい。

歩みの遅い失業率チャート

まずは失業率のチャートから紹介しよう。

コロナによるロックダウンで急上昇した失業率は、その後大規模な財政支出と金融緩和によって急低下していった。

ばら撒かれた資金で消費が急上昇し、店舗は従業員をもっと雇わなければ客を捌けなくなった。しかしものとは違い、従業員はそれほど簡単に増やしたり減らしたりすることができない。それで手の空いている労働者はすぐに雇われ、失業率は低下、そして「労働者が値上がり」しているのである。

これが労働市場におけるインフレの正体であり、例えば日本ではいまだに全国旅行支援というインフレ政策(インフレ抑制政策ではない)が行われているが、それが原因で旅行業界で起きていることを考えれば分かりやすい。

彼らはインフレを引き起こすことがインフレ対策だと言っている。日本政府もそれを支持する有権者も馬鹿の集まりである。

しかしインフレを抑えるためには引き締め政策を行なって労働者を失業させ賃金を抑えるしかない。

アメリカではその成果が出てきており、失業率のチャートは下落を止め、横ばいになりつつある。最近は上昇トレンドになってきたとも言えなくもない。だがその上昇は遅く、労働市場のインフレ是正に時間がかかるという事実がチャートに現れている。

インフレ加速した平均時給

そして今回何より問題だったのは平均時給である。平均時給は5.1%上昇(前年同月比)でアナリスト予想を上回り、前月の4.9%から加速した。

チャートで見れば長期ではそれほど加速しているわけでもない。だが前回のCPI(消費者物価指数)が急減速だった後なので、市場はある程度のダウンサイドのサプライズを期待していただろう。

市場の反応

市場はと言えば、一時はドル高で反応したものの米国の取引時間を通して元の水準へと戻っていった。取引時間中のドル円の分足チャートを置いておこう。

株価も取引時間前に公表された雇用統計に反応して下落で始まったが、取引時間を通して下落幅を縮小するという同じ反応となっている。2週間ほどで公表されるCPI(消費者物価指数)が本命ということだろう。

どの辺りが注目点かは、前回のCPIデータの記事を参考にしてもらいたい。

結論

だが今回の雇用統計から学べることは大きいと筆者は考えている。サービスの価格などに大きく関わっている賃金インフレはやはり根強く、すぐには落ちてこないということである。

今回の平均時給のインフレ加速がトレンドであるのか、今回だけのことであるのかは微妙である。だがトレンドでなかったとしても、それはやはり賃金インフレが短期的に急改善することはないということを示している。

より長期的な視点ではアメリカのインフレはどうなるか?

これまで言っていることの繰り返しになるが、先行して進んでいる原油価格などの下落によってインフレ率は現在の7%から中期的には下がってゆく。これは7月には指摘していた。

しかしインフレ率は多くの人々が期待するほどは下がらず、恐らくは4%か5%までしか下がらないだろう。

そうなれば金利も同じ水準で停滞することになる。それは、長年ゼロ金利を前提にしてきた株式市場や米国企業には氷河期のような厳しい環境になる。

それは確かに失業率の大幅な上昇を引き起こすだろう。だが一番重要なのは、インフレーションは失業率が高騰してからが本番だということである。

これから大量に失業者が出、インフレはそれほど改善せず、人々はもの不足で苦しむことになる。1970年代の物価高騰時代の例を考えるべきだろう。

諸悪の根源はインフレを引き起こした現金給付なのに、人々は中央銀行の利上げを恨み始める。

問題はその時に中央銀行が金融引き締めを継続できるかどうかである。出来なければインフレ第2波が発生し、物価が天井を超えて上がってゆくだろう。