ガンドラック氏: 景気後退入りは保証されている

経済学者のラリー・サマーズ氏は最近アメリカ経済に対していくらか楽観的な見方を示した。

一方で、DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏が自社のRound Tableでアメリカ経済に対して強烈に弱気な見方を示している。今回はそちらを紹介したい。

消費者の借り入れと経済の強さ

Fed(連邦準備制度)の大幅な利上げにもかかわらず、アメリカ経済はそれほど悪くない状態のように見える。

だがガンドラック氏は強気派の様々な議論を次々に一刀両断している。例えばアメリカでクレジットカードによる借り入れが増加していることに関するものである。

ガンドラック氏は次のように論じている。

自分がもう何年も指摘している奇妙な議論があるのだが、それは消費者の借り入れが増えれば経済が非常に健全である証拠だというものだ。

特に2022年には食料品とガソリンのために消費者は借り入れ額を増やした。「人々はクレジットカードを大胆に使うことにためらいがない、これは将来にとって良い兆しだ」などというのは単純に馬鹿げている。人々は好んでそうしているわけではない。そうせざるを得ないだけだ。

そういう主張をしているのが例えば誰かと言えば、他でもないSoros Fund ManagementのCEOであるドーン・フィッツパトリック氏である。彼女は去年の6月にまさに次のように述べていた。

消費者はクレジットカードの残高をコロナ前より速い速度で切り崩している。それは消費者の財務状況がかなり良いことを意味している。

ガンドラック氏の議論はフィッツパトリック氏の去年のコメントを直撃しているのだが、一方で彼女の6月のコメント以降、もう半年以上アメリカ経済が持ちこたえていることも事実である。

サマーズ氏などの元々の弱気派もこの事実には驚いていた。

筆者も比較的驚いている。ここで筆者やサマーズ氏が認識しなければならない当たり前の事実は、債務増加は経済危機を延期できるということだろう。

実際、コロナ後の経済の落ち込みも、2年間でGDPの25%に近い規模のアメリカ政府のばら撒きによって2年間延期され、そして2年後に世界的な物価高騰をもたらしたのだから、実際に負債は経済の落ち込みを延期できるのである。

あるいは若者世代の犠牲によって高齢者が病院を社交の場にできていることも同じように負債による貧困の延期だろうか。

だからフィッツパトリック氏が去年6月にクレジットカードの借り入れ増加を指摘したことにはむしろ耳を傾けるべきだった。それは景気後退が遅れることを意味しており、事実そうなった。

一方で、紙幣ばら撒きの結果として2年後にインフレが来たように、それが本当の経済の強さではないという議論も同時に正しい。ガンドラック氏は現金給付がいかに2023年の消費を激減させるかということについても2022年の間に説明しているので、そちらも参考にしてもらいたい。

ちなみに記事を読めば分かるようにフィッツパトリック氏、ガンドラック氏の両方が2022年の景気後退回避、2023年の景気後退を当時から予想しており、その正確さには脱帽させられる。

失業率は上昇する

さて、ガンドラック氏の持ち出すもう1つの議論が、労働市場に関するものである。

景気後退は本当にただ延期されただけなのか? この期に及んでも失業率は上がっていないどころかむしろ下がっている。

失業は来ないのか? しかしガンドラック氏は次のように言う。

その他のよくある議論は例えば労働市場がどれほど強いかというものだが、労働市場は遅行指標だ。労働市場はいつもいちばん最後に悪化する。失業率は3.7%と低い。

だがFedの予想では失業率は2023年の末までに4.6%に上がる。

Fedの予想でそうなのだから、実際にはもっと上がると言いたいのだろう。

ガンドラック氏は次のように続ける。

それは12ヶ月移動平均線を大幅に上回る数字だ。そしてそれは一番最後に来る兆候だ。失業率が12ヶ月移動平均線を上回る時、景気後退になることはほとんど保証されている。

2023年のアメリカ経済見通し

ガンドラック氏は2023年のアメリカ経済についてこう包括する。

だから問題は、経済を加速させる要素が何処かにでも見つけられるのかということだ。自分にはまったく見つからない。

CNBCなどのメディアのインタビューでは見られない、自社主催のウェブキャストならではのガンドラック氏の遠慮のないコメントである。彼は次のように続ける。

住宅市場の活動は端的に言って終わっている。住宅ローンの毎月の支払いはコロナ前から倍以上になった。住宅価格と金利が上がったからだ。金利は多少下がったから少しは安心できるかもしれないが、どちらにしてもこの状況は持続可能ではない。コロナ下の緊急事態で人為的に作られた状況だ。

サービスはコロナ前のトレンドにようやく戻ったところだ。

経済成長は何処から来るのかまったく分からない。ドルの下落くらいだろうか。

ガンドラック氏は筆者と同じくドルの下落も予想している。金利の低下を予想しているのだから当然だろう。

読者は2023年のアメリカ経済についてどう思うだろうか。サマーズ氏の議論とも比べて考えてみてもらいたい。