2月の米雇用統計、ついに失業率上昇・賃金インフレ減速か

現在金融市場における最重要指標となっているアメリカの2月の雇用統計が発表された。インフレ減速を予想する筆者のような投資家にはプラスの内容だったと言えるが、より詳しく内容を見てゆこう。

上昇した失業率

失業率は3.6%となり、前回1月の3.4%からやや上昇した。

これはいわば市場が待っていた数字である。アメリカではインフレ全体の数字は下落しているが、金融引き締めが一番効きにくいサービスのインフレは加速し続けており、それが止まるかどうかはサービス業の主な経費である賃金のインフレが収まるかどうかにかかっている。

つまり、インフレを止めるためには人々が解雇され賃金が下がらなければならない。それで初めて企業はサービスの価格を下げられる。

だから今、アメリカでは失業率の上昇が待ち望まれているのである。それがインフレを目指したインフレ政策の帰結である。コロナ後の未曾有の現金給付がもたらしたインフレは、人々の失業を待ち望まなければならない状況に進化した。

だから失業率の上昇はインフレ沈静化には良いニュースである。また、金利低下とそれに伴うドル下落に賭けている筆者にとっても良いニュースである。

だが失業率のチャートをもう一度見てほしい。確かに失業率は今回上がったのだが、失業率のチャートはもともと底打ちの形を形成し始めており、今回の動きはその一環に過ぎない。

賃金インフレもピークか

また、賃金そのものも良い結果だったと言える。平均時給は前年同月比では前年2月の数字が低かったためにインフレ加速したのだが、前月比年率では減速となっており、前月比年率には恣意的な季節調整という問題もあるのだが、前年の状況に左右されずに最新の状態を見るためにはそちらの方が良いだろう。

ということで、平均時給の上昇率のグラフを前月比年率で見ると次のようになる。

コロナ初期に激しく変動した分を省くためにここ1年の期間に絞っているが、最近の動きは逆に見やすいだろう。

2月の上昇率は2.9%となり、3.3%から下がっているが、それよりも平均時給はここ1年継続的に減速していることが分かる。前年同月比と前月比年率の両方を見ておくことの大切さである。

結論

金融市場はこれに対してドル安で反応した。ドル円相場は大きくドル安円高に振れている。

だが上記のチャートを見てもらえば分かるが、実際にはこうした動きはこれまでのトレンドをそのまま継続したものに過ぎない。前月比年率のコアインフレ率を加えて眺めてみれば、原油価格の影響を除いてもインフレは持続的に落ち着き始めていることが分かる。

ここ数ヶ月市場は一喜一憂していたが、元々あったトレンドは徐々にはっきりし始めている。

筆者にとって更に良いのは、市場が金利低下で反応したにもかかわらず、株式市場が下がったことである。

筆者は株価の下落にも賭けており、筆者の予想が当たって中期的に金利が下がってゆく場合には、それは株式市場にはプラスになる。

一方で、経済減速による企業利益の減少によって、それでも株価はそれほど良いパフォーマンスにはならないと予想しているが、今回の動きはそれを象徴しているようにも見える。

勿論金曜日の動きについて言えばシリコンバレー銀行破綻のニュースを織り込んでのことなのだが、インフレ減速と経済減速が両方重なるということは、2023年の中期的なトレンドを象徴していると言えるだろう。