フランス大統領候補ル・ペン氏: EUは死んだ、変化なければフランスはEU離脱を

イギリスのEU離脱国民投票、アメリカの大統領選挙が終わり、そのどちらもが反グローバリズムの高まりを裏付ける結果に終わった。しかしまだこれで終わりではない。2017年にはフランス大統領選挙と、そして恐らくはイタリアの総選挙があるからである。

そして先ず注目すべきは4月に行われるフランスの大統領選挙である。今回の記事ではフランスの反EU政党である国民戦線の党首であり、現在世論調査で首位に立っているマリーヌ・ル・ペン氏の主張を紹介したい。

国民戦線

ル・ペン氏は反EUを掲げる国民戦線の党首であり、初代党首ジャン=マリー・ル・ペンの娘である。父ル・ペン氏は国粋主義的な主張で知られているが、娘ル・ペン氏が党首になって以来、国民戦線はやや過激な主張を抑える傾向があり、フランスでは父ル・ペン氏を毛嫌いする層は多いが、娘ル・ペン氏率いる現在の国民戦線を支持する向きは増えている。

さて、その現党首ル・ペン氏だが、Bild誌のインタビュー(原文ドイツ語)でEUについて以下のように述べている。

EUは死んだ、しかしEU自身はそれに気付いていない。EUは事実、経済、社会福祉、安全保障などすべての側面において失敗している。

ユーロ圏経済は疲弊している。2010年には欧州債務危機が発生し、ギリシャ、イタリア、アイルランドなどの国の国債が暴落した。ECB(ヨーロッパ中央銀行)の対応によって国債価格は今では沈静化しているが、イタリアなどの失業率はいまだ10%を超えており、特に若者の失業率が40%近い水準となるなどユーロ圏経済は問題を抱えたままである。

この問題の根源には当然ながら共通通貨ユーロが存在する。読者にはお馴染みの話となるが、この通貨はドイツにとっては安すぎ、ギリシャやイタリアなどの南欧諸国には高すぎるのである。

ドイツにとって安い通貨ユーロはドイツの輸出産業を支え、南欧諸国によって高すぎるユーロはイタリアやギリシャの観光産業を蝕んでゆく。ユーロが存在する限り、経常収支を通じて資金が南欧諸国からドイツへと移転されてゆくことになる。イギリスのEU離脱を主導したジョンソン外相は以下のように述べていた。

EUの悲惨な失敗は加盟国間の緊張をもたらし、そしてドイツにヨーロッパにおける過大な権力を与え、彼らがイタリア経済を乗っ取り、ギリシャを破壊することを許す結果となった。

イタリア人はかつて優れた自動車製造業を誇っていたが、これはユーロによって完全に破壊されてしまった。ドイツ人が望んだ通りにである。

また、ル・ペン氏の言うEUの安全保障上の課題については、今更話すまでもないだろう。

国民戦線ル・ペン氏の大統領選挙公約

こうしたヨーロッパの情勢を受けて、ル・ペン氏は移民政策などの政策を一方的に決定するEUの超国家的権限をフランスへと戻すことを公約としている。

国境、通貨、経済、立法の四つの分野において、フランスの独立した地位をEUに要求する。

これはイギリスがEU離脱の国民投票前にEUに対して提出した要望に似ている。

イギリスはその要望がEUに受け入れられなかったためにEU離脱を決定した。ではフランスの場合はどうなるか? ル・ペン氏は自らの要望について以下のように述べる。

EUがそれに同意すれば、わたしたちは「人々のためのヨーロッパ」へと着地することが出来る。しかしもしEUがそれを拒絶するならば、わたしはフランス国民にEUを離脱すべきだと訴えかけ、EU離脱を問う国民投票を行うだろう。

ル・ペン氏の当選確率は?

しかし、実際にル・ペン氏がフランス大統領となる可能性はどれくらいあるのか?

先ず、最新の世論調査の結果では、ル・ペン氏は25%の支持を集め、共和党の候補で元首相のフィヨン氏の23%を上回って首位に立っている。Bloombergは二つの世論調査の結果を伝えているが、その両方においてル・ペン氏は首位である。

では、ル・ペン氏はこのままフランス大統領となる可能性が高いのだろうか? それは必ずしもそうとは言い切れないのである。それはフランス大統領選挙のシステムに由来している。

フランス大統領選挙

フランスの大統領選挙では第一回投票と決選投票がある。第一回投票ではすべての候補者に対して有権者が投票を行う。しかしこの第一回投票で過半数を獲得した候補が存在しない場合、一位と二位の候補で決選投票を行うことになっている。

ル・ペン氏は現在25%の支持を得て首位に立ってはいるが、その数字は過半数には程遠い。実際、フランスの大統領選挙では第一回投票だけで大統領が決まったことはなく、2017年の選挙も決選投票に持ち込まれることはほぼ確実とされている。

したがって、ル・ペン氏は第一回投票では二大政党である共和党と社会党の候補に勝つことが出来たとしても、一騎打ちとなる決選投票では二大政党の支持者が結託してル・ペン氏の当選を阻止する可能性があり、ル・ペン氏は決選投票には進むものの大統領にはなれないというのが大方の予想である。

結論

しかしながら、イギリスのEU離脱もトランプ大統領も実現となった。

一方で、ここで報じてはいないが2016年にはオーストリアの大統領選挙で反EU候補が僅差で落選するというニュースもあった。オーストリアの大統領は実権を持っていないため、フランスやアメリカの大統領選挙とは趣旨が異なるものの、反グローバリズムが一貫して勝利してきたわけではないということである。

フランス国民はどういう選択をするだろうか? また、その次にはイタリアの総選挙も控えている。EU問題については今後も報じてゆきたい。