世界最大のヘッジファンド、量的緩和バブルの終わりを語る

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が世界の金融市場のトレンドの大転換を予想している。米国が利上げに加えてマネタリーベース縮小(量的引き締め)を行おうとする中、ダリオ氏もこの金融政策の転換について投資家に警鐘を鳴らしている。

リーマン・ショック後の低金利政策が終わる

2008年の金融危機以来、アメリカを含めた先進国の中央銀行は量的緩和を行なってきたが、米国のFed(連邦準備制度)は既に量的緩和を停止し、金融引き締めに動いている。

このトレンド転換はあまりに大きなものなのだが、米国株は市場最高値付近を維持するなど、投資家はあまり警戒していない様子である。

しかしダリオ氏は、他の著名な投資家らと同様、この転換点を軽視していない。彼は次のように語っている。

この9年間、中央銀行は金利をゼロに押し下げ、金融システムに資金を供給することで、好ましい資金の流れと莫大な現金とを作り上げてきた。こうした金融政策は資産価格を押し上げ、名目金利を名目成長率よりも低く抑え、預金に付く実質金利をマイナスにし、債券の実質金利をゼロ均衡に誘導した。

その結果として経済のバブルは見事に縮小し、経済のバランスシートは修理され、融資と経済成長の増加率は債務の増加と比較してバランスの良いものとなった。しかしそうした時代は終わろうとしている。

2008年のリーマンショックの事後処理が終わりつつ有るとダリオ氏は主張しているのである。しかし、バブルが縮小したとは具体的に何を指しているのだろうか? 例えば次のチャートである。

米国の家計債務(GDP比)である。政府債務と並べてある。リーマンショック以降、金融緩和と財政出動によって、住宅ローンなどを含む家計債務は減少し、政府債務へと転嫁された。ダリオ氏はこの変化を成功だと見なしているのだろう。

ダリオ氏の見方によれば、住宅ローンなどの民間バブルの縮小に成功したので、今度は金融引き締めを行う順番だということである。彼は次のように続ける。

中央銀行が、今後金融政策の方向性が逆転し、彼らのパンチボールから注がれる流入量が減少するということを明確に示したのは理解出来ることである。

これは投資家にとって、これまでの9年間で経済と市場に大量の流動性をもたらしてきた金利抑制と資金流入の時代が終わるということ、そして中央銀行が経済成長率とインフレ率を強すぎず弱すぎない状態に保つために最適なペースで金融引き締めを行う新たな局面が始まり、それは中央銀行が失敗して経済が次の不況を迎えるまで続くということを意味している。

「中央銀行が失敗して次の不況を迎えるまで」という表現は意味深である。しかしダリオ氏は、金融危機のような破滅的結末がすぐに来ると予想しているわけではないようである。

金融引き締めは成功するか?

ダリオ氏の予想がバブル崩壊でなければ、金融引き締めがもたらす結果はどうなるのか?

この現状を認識すれば、われわれがすべきことは、出口に近づき、注意深く状況を観察しながら踊り続けることである。

ご存知の通り、われわれは大きな債務バブルが近い未来に崩壊することを予測しているのではない。実体経済の債務は成功裏に縮小したからである。しかし同時に、以前説明した「大いなる引き締め」が着実に過激さを増しているのを目撃しているのである。

「パンチボールが取り上げられ、パーティの終わりが告げられるまで踊り続ける」というのが、低金利バブルに乗じる投資家を表現する常套句である。そしてダリオ氏によれば、パーティはまだ終わったわけではないが、終わりが来る兆候に耳を澄ませておけということらしい。

そして当面のトレンドはバブル崩壊ではなく「大いなる引き締め」(原文:Big squeeze)だという。ダリオ氏の以前の記事(原文英語)では、「引き締め」について次のように説明されている。

経済は大量の債務と債務以外の支払い義務(年金や健康保険、社会保障など)を抱えており、支払期限が迫っている。これらの支払期限は次第に大きな「引き締め」を生む。この「引き締め」は徐々に来るものであり、一気に破裂するものではない。

つまり、ダリオ氏は金融引き締めの結果、バブル崩壊ではなく、長期停滞のようなものを予想しているようである。しかし経済学者ラリー・サマーズ氏などとは異なり、人口動態などよりもダリオ氏は債務の短期・長期サイクルを重視する。ダリオ氏の経済理論については以下の記事で説明している。

結論

Fedはその「引き締め」の中で利上げやマネタリーベース縮小を進めなければならないことになる。

Fedがマネタリーベース縮小を宣言したことによって市場のトレンドは大転換を迎えているのだが、投資家は気付いているだろうか? 市場の動向については引き続き伝えてゆく。