世界最大のヘッジファンドが世界同時株安の原因を語る

世界最大のヘッジファンドであるBridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏が再び世界同時株安とその背景について語っているので紹介したい。金融市場ではFed(連邦準備制度)のパウエル議長の発言に反応して金利が低下しており、ダリオ氏はそれについてもコメントしている。

債務危機と世界同時株安

ダリオ氏を良く知る読者は知っての通り、彼が経済を考える時に重要な要素は債務、つまり借金である。

世界中のあらゆる国で政府債務や民間債務が積み上がっており、それについて誰も気にしていないことについて、次のように述べている。

多くの人は、バブルがバブル崩壊の直前に醸成されると思い込んでいるが、そんなことはない。歴史上、同じことが何度も何度も繰り返されているのだ。

ダリオ氏の最近の著書「Big Debt Crises(仮訳:巨大債務危機)」のタイトルから分かるように、バブルの本質と、何故金利が金融市場にとって重要かは債務というものを考えれば分かる。

現在、多くの国において債務が積み上がっており、政府と民間の債務を合わせればGDPの100%から300%の債務が積み上がっている。仮に債務がGDPの200%ある国で金利が1%上がれば、債務の支払額は毎年GDPの2%分増えることになる。だから金利上昇が問題なのである。

債務と金利と金融市場

よって2018年の世界同時株安の本質は債務と金利にあるのだが、最近の市場の混乱についてダリオ氏は次のように纏めている。

様々な経済的サイクルの内、われわれが何処に居るかということが重要だ。利上げはどうなっているか、引き締め政策はどうか、資産価格は何処にあるかということだ。

話を戻すと、2008年の金融危機で金利はゼロになった。債務危機だ。そして金利がそれ以上下げられなくなったので、中央銀行は紙幣を印刷して金融資産を買い入れ始めた。結果、資産価格は上がり、行き場をなくした資金が経済を押し上げた。

そして今、経済はサイクルの後期に位置している。緩和にブレーキを踏む局面であり、金融引き締めを行うことになる。

2018年の金融危機の状況が簡潔に纏められている。

では、金融引き締めを行うと経済や市場はどうなるのか? ダリオ氏は次のように続けている。

利上げのために短期金利は長期金利とほとんど同じ水準まで上がった。どの期間の国債に投資しても、無リスク資産に投資しながら基本的に3%程度の金利を得ることが出来る。一方で、株式に現在の株価水準で投資した場合のリターンはどうだろうか? 国債の年率3%より大きいとは思えない一方で、リスクはあまりに大きい。

世界最大のヘッジファンドを運用するダリオ氏が、株式は魅力的ではないとはっきり言っている。同じ理由で投資家は株式から債券に資金を移しており、それが世界同時株安の原因となっているのである。

さて、問題となるのは、それでもFedが利上げを続けられるかということである。ダリオ氏は次のように予想する。

Fedが来年も定期的に利上げを続けるとは思わない。市場で織り込まれている以上の速さで利上げをした場合、すべての資産価格に影響する。すべての資産価格は国債の金利を前提としているからだ。

Fedのパウエル議長はそれを認めつつあるようだ。数日前に金利は現在、中立金利(引き締め的でも緩和的でもない中庸の金利水準)の僅か下にあるというコメントを発表し、来年も2回か3回の利上げを想定していた金利先物市場は予想を引き下げた。利上げが早急過ぎると主張していたトランプ大統領に屈した形となる。

金利が下がったことを株式市場も好感し、株高に繋がっている。ダリオ氏はこのニュースについてもコメントしている。

最近のパウエル議長のコメントを見ると、彼は徐々に気付きつつあるようだ。周知の通り、市場もそれに反応した。パウエル議長のトーンが変わった。それは以前とは違うものだ。

市場の反応と今後の見通し

では、市場がどう反応したのかを一度纏めてみよう。以下は米国株のチャートである。

数日前のパウエル議長のコメントから上昇している。これは金利が下がったからである。アメリカの長期金利のチャートは次のようになっている。

11月の初めには3.2%を超えていた長期金利は、3.01%まで下落している。

投資家にとっての問題は、仮にパウエル議長が来年の利上げを中止した場合、世界同時株安を止められるかということである。

個人的な見解は、短期的には株式市場にとってプラスになるが、世界同時株安を根本的に止めることは出来ないというものである。金利は既に十分高い水準まで上がっており、そして私見では、市場により重要なのは利上げよりもバランスシート縮小(量的緩和の逆回し)の方である。利下げとなれば話は別だが、利下げを行うには株価の更なる下落が必要である。

しかしそれでも利上げ(12/5訂正)中止は株式の売り方にとっては短期的な脅威となるだろう。それに対してどう対応するかは、既に以下の記事に書いている。

今後、世界の金融市場には2つの方向性が存在する。金融引き締めの弱気相場がついに米国市場にまで到達し、世界的なリスクオフになるか、そうなる前にFedが金融引き締めを止めるかである。

ここで考えてもらいたいのは、どちらになってもドル円には悪材料だということである。世界的な弱気相場となればリスクオフで円高となり、金融引き締め撤回になればアメリカの金利低下でドル安となる。どちらにしてもドル円は下落するのである。

現在、筆者は日経平均とドル円の空売りという2つのポジションを抱えている。日経平均の空売りが成功している一方で、ドル円の方はまだ下落していないと言うべきだろう。

筆者はそれでもドル円の空売りを維持するつもりである。その理由は、Fedが市場の圧力に屈してハト派側に寄った場合、株式市場にはプラスになったとしても、ドル円にはマイナスになるからである。そしてドル円が下がる場合、日本の輸出株にはマイナスとなるので、日本株は米国株ほどは上昇出来ないだろう。だから米国株ではなく日本株の空売りなのである。

実際には、日経平均とドル円の水準に合わせて、下がりすぎた方のポジションを減らし、その分上がっていない方のポジションを増やすなど、適宜ポジションの量を相互に入れ替えるべきである。実際に筆者はそうしている。しかし日々のポジションの調整までもここで中継することは出来ないので、各自臨機応変に対応すべきだろう。現状について言えば、ややドル円の売りの方に惹かれている。しかし僅かな差である。