新型コロナ株安、長期金利の動向を2018年世界同時株安と比較する

新型コロナウィルス肺炎が世界的流行となっていることで株式市場の暴落がニュースになっているが、一部のプロの間では債券と金利の値動きの方が危機的だと話題になっている。前回の記事でも説明した通りである。

しかし何故そうなのかということは一般の投資家には実感が難しいだろう。よってもう少しチャートを交えながら解説したい。

株価と金利

まずは米国株のチャートから掲載しよう。

ちなみにこの間、アメリカの中央銀行は3月2日と3月15日に緊急利下げを行いゼロ金利までの大幅利下げを行ったが、株安は止まっていない。

株価が下落するとき、通常であれば市場では追加緩和を期待して金利が下がるはずである。ではアメリカ長期金利のチャートはどうなっているだろうか?

3月9日までは金利低下で反応しているが、0.4%という低水準まで低下したあと上昇に転じている。しかもその間株価は回復していない。

この動きを2018年の世界同時株安と比べるとどうなるだろうか? まずは当時の株価チャートからである。

そしてこちらが同時期の長期金利である。

株安を受けてまずは金利低下で反応、年末年始に株価が反発すると上昇に転じ、その後は中央銀行の緩和を受けて中長期的な下落トレンドとなっている。

この時は株式も債券も緩和の動きを素直に受けて回復のトレンドを進んでいっている。金融引き締めが株安の原因だったので、金利低下となったことで解決したということである。当時の株安については以下の記事を参考にしてもらいたい。

下がらない長期金利

では現在の動きの何が問題なのだろうか。長期金利のチャートをもう一度掲載しよう。

株価が下落しているにもかかわらず長期金利が上昇で反応しているということである。理由の1つは前回の記事で解説したように、新型ウィルスによって財政の危うい企業の倒産が懸念されており、社債の金利が急騰していることである。

債券の金利上昇は価格下落を意味するので、信用の低い社債を集めたジャンク債ETFの価格は暴落している。

以前の値動きがほとんど動いていないように見えるほどの暴落である。このように社債の金利が高騰(社債価格は下落)しており、国債であってもリスクの高めな長期・超長期の金利は債券市場全体の動きに引きずられたということである。

しかしもう1つには0.4%という長期金利の水準が米国経済のファンダメンタルズを考えるとあまりに低すぎたのだろう。

新型コロナ前の数字だが日本やヨーロッパと違いアメリカはまだ2%以上のインフレ率を維持しており、コロナ前からインフレがほとんどない日本やヨーロッパと似た金利水準になるということは理にかなわない。つまり、金利は下がろうにも下がる余地がそもそもなかったということである。

株安で金利上昇の意味

繰り返しになるがこれは危機的状況である。2008年のリーマンショックの頃でさえ、国債の価格は上昇し金利は下がった。

金利が下がること自体が緩和効果を発揮し株安を和らげるのである。しかしアメリカでも金利がゼロ金利という床に到達してしまったため、跳ね返ってくる状況となっている。つまりは緩和の限界に達したのである。

これは世界最大のヘッジファンドを運用するレイ・ダリオ氏の予言した状況である。彼はこう述べていた。

長期金利がゼロの硬い床に到達してしまうことは実質的にすべての資産クラスが下がることを意味する。金利低下の好影響がなくなる、あるいは少なくともそれほどはなくなってしまうからである。

中央銀行による利下げやイールドカーブ誘導(訳注:日銀が行う金利誘導政策)などの金利刺激が効かなくなる。中央銀行は紙幣を印刷し債券を買うことを許されているが、あまり効果はないだろう。債券に上昇余地がほとんど残っておらず、投資家も債券を売って問題に直面している他のリスク資産を買おうとするとは考えがたい。

通常、金融緩和とは金利を下げることで国債の魅力を低下させ、投資家にもっとリスクの高い資産を買わせる政策である。しかし国債の金利が下がらないためにその緩和効果がなくなっているということである。

今後の相場動向

さて、問題は新型ウィルスのピークがまだこれからだということである。アメリカでは感染者数は増え続けており、アメリカより先にピークに達すると想定されているヨーロッパでもピークはまだ先である。

つまり、相場でも最悪期はまだ来ていないと考えるのが妥当だろう。にもかかわらず緩和効果をもたらす金利低下が止まってしまっている。

あまり良い予感はしないと言わざるを得ないだろう。投資家としてはまずは感染者数のピークを見届け、暴落している原油など下落の行き過ぎた資産を狙って行きたいところである。