新型コロナ株安はいつまで続くか

新型コロナウィルス肺炎が世界的流行となっており、2月まではあまり反応しなかった株式市場も流行がヨーロッパとアメリカに広がると途端に下落を始めた。中国や日本が感染している間は気にしないが、自分たちが感染し始めると途端に慌て始めるのが西洋人の主導する金融市場である。

さて、株安の下落幅はともかく、下落スピードは史上稀に見る速さであり、一時的な反発もほとんどないまま一方的に下落を続けている。アメリカの株価指数S&P 500のチャートは次のようになっている。

かなりの急落である。しかもこの間世界中の中央銀行によって次々に緊急の追加緩和が行われているにもかかわらず、まったく効いていないどころか火に油を注いでいる。

何故これほどの速さで株価が下落しているのだろうか。リーマンショックのあった2008年でさえ天井から底値までは1年半かかっており、今ほどの速度で急激に下落したわけではない。以下は当時のチャートである。

下落スピードが示す今後の相場動向

今回の急激な下落は買い方の投資家には容赦のないようにも見えるが、ほとんど反発もせず金融緩和に目もくれずに一直線に下落しているという事実は投資家に今後の動向を予想するためのヒントを与えてくれる。

何故か。株価が何に反応しているかということを率直に教えてくれるからである。

株価は何故金融緩和に目もくれず下落し続けるのだろうか。市場が金融政策に反応しているわけではないからである。株価は何故これほどまでに一直線に下落を続けるのだろうか。一直線に悪化している別の何かに連動しているからである。

一直線に悪化している別の何かとは何か。それはアメリカとヨーロッパにおける感染者数の推移である。現在の株価の急降下は株式市場がほとんど近視眼的に感染者数の推移に連動していることを意味している。新型ウィルスの感染はねずみ算式に増えるため、流行が拡大している限り次の日には状況は悪化しており、よって市場も次の日には下落しているということである。それが毎日続いているのである。

しかしこの一直線の動きは同時にこの下落相場の底はいつかということを投資家に教えてくれる。つまり、感染者数の増加が最悪期を脱するまでは株価も最悪期を脱することはなく、株価が最悪期を脱するのは感染者数の増加率が鈍化し始めた時以降である。

欧米における感染者数の動向

つまり、株価の動向を占うためには(市場が気にしている欧米の)感染者数をフォローすれば良いということになる。では欧米での流行状況はどうなっているのか。最新のものを再確認しよう。まずは主要国の感染者数からである。

  • イタリア: 47,021人
  • スペイン: 21,571人
  • アメリカ: 17,235人
  • ドイツ: 13,957人
  • フランス: 12,612人

ヨーロッパの感染はイタリアから始まった。その後国境を接するドイツやフランスに広まり、ヨーロッパ各地に広まっていった。

しかしやはり金融市場にとって一番重要なのはアメリカの感染者数である。アメリカで感染が広がったのはヨーロッパより遅かったが、感染者数は最近急増しており、既にフランスの数を追い抜いている。アメリカの最近の感染者数の推移を以下に取り上げてみたい。

  • 3月10日: 936人 (+291 +45%)
  • 3月11日: 1,205人 (+269 +29%)
  • 3月12日: 1,598人 (+393 +33%)
  • 3月13日: 2,163人 (+565 +35%)
  • 3月14日: 2,825人 (+662 +31%)
  • 3月15日: 3,497人 (+672 +24%)
  • 3月16日: 4,372人 (+875 +25%)
  • 3月17日: 5,656人 (+1,284 +29%)
  • 3月18日: 8,074人 (+2,418 +43%)
  • 3月19日: 11,980人 (+3,906 +48%)
  • 3月20日: 17,235人 (+5,255 +44%)

最後は3日連続で40%を超える上昇率である。複利計算の恐ろしさを知っている投資家ならばこの数字がどれほど深刻かが分かるだろう。40%の上昇が10日続くだけで感染者数は17,235人から50万人近くまで急上昇する。

実際には何処かで増加率が鈍化するだろうが、アメリカでは感染者数の天井がまったく見えない状況である。しかしこれはアメリカでは全土での外出禁止はまだ行われていないためだろう。

明暗分かれたヨーロッパ各国

逆にヨーロッパの感染状況を見てみると、外出禁止と店舗の閉鎖が行われた後は感染者数の増加は確実に鈍化している。特に両方の措置が行われているフランスと、まだどちらも部分的にしか行われていないドイツでは明暗が分かれている。まずはドイツから見てゆこう。

  • 3月10日: 1,460人 (+348 +31%)
  • 3月11日: 1,884人 (+424 +29%)
  • 3月12日: 2,369人 (+485 +26%)
  • 3月13日: 3,062人 (+693 +29%)
  • 3月14日: 3,795人 (+733 +24%)
  • 3月15日: 4,838人 (+1,043 +27%)
  • 3月16日: 6,012人 (+1,174 +24% 近隣国との国境閉鎖)
  • 3月17日: 7,156人 (+1,144 +19%)
  • 3月18日: 8,198人 (+1,042 +15%)
  • 3月19日: 10,999人 (+2,801 +34%)
  • 3月20日: 13,957人 (+2,958 +27%)
  • 3月21日: (バイエルン州で外出制限)

データ元をRobert Koch Instituteのものに変更したので前回と数字が少し異なっている。

イタリアやフランスと異なり、ドイツでは全土での外出制限も店舗の閉鎖も行われていない。人の集まりやすい公共施設は閉鎖されているが、全店舗ではない。21日からようやくバイエルン州など一部で外出制限が行われる。

周辺諸国では5人以上の会合が禁止される中、ドイツではパーティが禁止される前に最後の晩餐だとでも言うように各地で「コロナパーティ」なるものが開催されており、感染拡大に拍車をかけている。

メルケル首相は22日に緊急会合を開く予定であり、強制力をもった封鎖措置がなければ状況が良くならないならば外出禁止令を発令すると警告しているが、ルールに完全に従うドイツ人がルールなしで賢明に行動するわけがないだろう。

ドイツでの感染者数の増加率はいまだ30%といったところだろうか。この数字は封鎖措置が既に行われているフランスでは状況が少し異なっている。以下はフランスの数字である。

  • 3月10日: 1,784 (+372 +26%)
  • 3月11日: 2,281 (+497 +28%)
  • 3月12日: 2,876 (+595 +26%)
  • 3月13日: 3,661 (+785 +28%)
  • 3月14日: 4,499 (+838 +23%)
  • 3月15日: 5,423 (+924 +20% 必需品以外の全店舗の閉鎖)
  • 3月16日: 6,633 (+1,210 +22%)
  • 3月17日: 7,730 (+1,097 +17% 不必要な外出の禁止)
  • 3月18日: 9,134 (+1,404 +18%)
  • 3月19日: 10,995 (+1,861 +20%)
  • 3月20日: 12,612 (+1,617 +15%)

外出禁止と店舗の封鎖を境に増加率が明らかに減少している。このまま行けば10%台が定着しそうである。

結論

ここまで厳密に数字を見ていけば今後の動向もある程度明確に見えてくるというものだろう。上手く行けばフランスでは4月の前半には流行状況が収まり始めるかもしれない。ドイツなどの近隣国ではもう少し遅れて4月の半ばか国によっては4月の後半だろう。

金融市場にとって一番重要なアメリカだが、流行がヨーロッパなどに追いつき始めているのは幸か不幸か、早く流行れば封鎖措置が早く行われ、早く収まることになる。フランスやドイツよりも封鎖措置が少し遅いと仮定すると、やはり4月の後半頃だろうか。

これが投資家にとって吉報なのかどうかは分からないが、株式市場が最悪期に到達するまであと1ヶ月ぐらいだろうということである。ここでは1月の頃からピークは4月前後だと言い続けているが、現時点でもその予想は変更する必要がなさそうである。

流行がピークに達した後株価がどうなるかということについては、債券市場の問題が悪化しなければ流行ピークは株式の買い場だという1月からの予想をキープすることが出来る。

その場合は基本的には売り叩かれたものを買ってゆくことになる。どの銘柄を買うべきかということについては下落前に紹介した以下の銘柄も参考になるかもしれないが、基本的には全く別の銘柄を今後紹介してゆくつもりである。

しかし問題はやはりドル相場と債券市場である。これらの市場が嫌な動きを見せていることは説明した通りである。

こうした問題は封鎖措置が長引くほど深刻となり、世界的な債務危機にもなりかねない。逆に封鎖措置が短期間で奏功すれば特に問題にならずに終わるだろう。

そうしたことも含めて新型コロナ相場をこれからも解説してゆく。投資家としてはなかなか興味深い1ヶ月になりそうである。