世界最大のヘッジファンド: 国家が滅びゆく順序を説明する

世界最大のヘッジファンドBridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏は、大英帝国やオランダ海洋帝国など歴史上の経済大国の盛衰を研究していることで有名だが、アメリカの元財務長官ハンク・ポールソン氏のPodcastでその構想を分かりやすく説明しているので報じたい。

覇権国家の誕生

ダリオ氏が説明するのは国が隆盛してから滅びるまでのサイクルである。彼はこう述べる。

同じサイクルが何度も何度も起きる。それを今から説明しよう。

まずは覇権国家がどのように誕生するかについてからである。ダリオ氏はこう始める。

まず最初に戦争がある。内戦でも外国との戦争でも良い。その結果が世界の、あるいはその国の秩序を変える。

例えば第2次世界大戦だろう。彼はこう続ける。

1945年には戦争があり、勝者が世界のルールを決めた。

ここから新しいサイクルが始まる。サイクルの初期段階では、平和と繁栄があることが多い。戦争の勝者の力は強大で、誰も戦いたくないからだ。世界は彼らに支配される。

こうしてサイクルが始まり、負債が一掃される。前のサイクルにあった多くのものを一掃し、新しいルールが出来る。

当時、色々なことが決められた。各国の通貨をドルにペッグさせるブレトンウッズ体制や、国際連合など様々な仕組みが作られた。それが良いにせよ悪いにせよ、負けた国はそれに歯向かおうとはしなかった。

1945年当時そうだったようにそれが上手く行けば、50年代、60年代のように平和と繁栄が訪れる。

世界は団結しており、経済の生産力も高い。これはサイクルの中で最良の期間だ。

生まれ始める経済的対立

しかし良いことばかりが起こるわけではない。ダリオ氏は、国家が経済的に成功するにつれ歪みが生じ始めるという。

すべての覇権国家は資本主義国家だった。オランダが資本主義を発明した。彼らが作った最初の株式と最初の株式市場によってオランダは資源と起業家精神を手に入れた。

しかし資本主義は大きな貧富の差を生む。何故ならば、資本主義社会では本質的に収入と資産が不均等に分配されるからだ。

筆者はこの意見には異論がある。冨の不平等は資本主義経済の結果というよりは、非資本主義的な金融緩和政策によって金融資産価格が高騰したことが理由として大きいと筆者は考えている。このことについては以下の記事で述べておいた。

しかし今はダリオ氏の話に戻ろう。彼はこう続けている。

そうすると社会の貧富の差がどんどん大きくなってゆき、機会の平等という点で人々が不平等だと感じる、あるいは実際に不平等なシステムが出来てくる。もし裕福な親のもとに生まれれば、良い学校に行き良い教育を受けるだろう。それが不平等な競争の問題になる。

そうしている内に所得よりも負債の増加の方が大きくなってくるだろう。

繁栄の時代が徐々におかしくなってゆくというわけである。

覇権国の衰退と新興国の台頭

ダリオ氏の論点は、こうした変化が覇権国にとって不可避であるという点である。

ダリオ氏は次のように述べる。

サイクルが進むにつれてこうしたことが起こる。成功している国の商品は高くなり、人々は働くよりも人生を楽しもうとし始める。投資よりも消費が多くなる。

それが成功した国における自然な流れらしい。ジョージ・ソロス氏の息子がかつて次のように言っていたのが思い出される。

億万長者の息子が、ホロコーストを生き延びてアメリカの金融業界で成り上がった人物ほどハングリーにやれるはずがない。

人間は裕福になると怠惰になり始めるらしい。

日本人が勤勉だと言われた時代もあったが、今は見る影もない。そして日本企業も日本経済も見る影もない。それはそういうことである。

そうして人々は過去の遺産と借金に依存し始め、最終的には政府から10万円が降ってくるか降ってこないかを気にするようになる。

日本が何故駄目なのか、というかこういう人々が何故駄目なのか、はっきりと分かるというものである。

そうしている間に次の勢力が力を付け始める。ダリオ氏はこう続ける。

そうすると同時に競争力のある国や企業がより安くより良い商品を出すようになる。成功した国々と競争を始める。そうすると成功している国の優位性が揺らぎ始める。

日本人は認めたがらないかもしれないが、日本は既に中国に経済規模だけではなく技術的にも様々な面で負けている。

この事実を突きつけられても、彼らのやることはせいぜい隣国への偏見を口にするだけであり、自分で優れたものを作って彼らに追いつこうとはしないだろう。だから日本は駄目なのである。

基軸通貨の功罪

また、覇権国の衰退を更に後押しするのが通貨による要因である。ダリオ氏はこれをオランダ海洋帝国を例にとって説明している。

オランダ人の重要な発明品の1つは優れた船であり、彼らはそれで世界中をめぐり、資源を入手し、貿易することで世界でもっとも裕福な国となった。

彼らは旅をしながら世界最大の貿易国家となり、自国通貨を他国にもたらした。

そしてオランダの通貨は今の米ドルのように準備通貨(訳注:他国がその通貨で資金を貯蓄する通貨)となった。他の国々はそれを保有したがった。何処でも使えるからだ。

恐らくこれは世界初の基軸通貨だろう。そして他の国々にとって、その通貨を保有するということは、その通貨建ての金融資産を買うということである。

そうすると人々はその通貨で債券を買うようになる。資金を保管する時には当然そうなる。するとそれはオランダに法外な特権を与えることになる。

通貨の発行国は簡単に借金が出来るようになる。しかしそれはその国家をどんどん借金漬けにしてゆく。

ここからが衰退の始まりである。

増え続ける負債と拡大する貧富の差という材料が競争力を奪ってゆく。一方で競争相手はどんどん成り上がってくる。

状況は時間が経つにつれて悪くなってゆく。国内の対立と国外の対立があり、拡大する貧富の差と悪化する財政が国内の対立を更に煽る。外国との競争力の低下が財政を更に悪化させる。

まさに今のアメリカの状況である。トランプ氏とクリントン氏、保守とリベラル、国内で対立が広がる中で、前回の記事で述べたようにアメリカの貿易赤字はアメリカから資金を流出させ続けている。

そして最終的には覇権国にはとどめが刺される。ダリオ氏はこう締めくくる。

そこに新興国が覇権国に挑戦し、紛争が起こる。

こういうサイクルが歴史上いつも繰り返し起きている。

結論

ダリオ氏の覇権国家サイクルについての説明を一通り報じた。彼の理論については知っている読者も多いだろうが、このように纏められたものはあまりなかったのではないか。

重要なのは、このサイクルがどうやら逃れようのない流れらしいということである。

ダリオ氏はこの仮説から中国の人民元がアメリカのドルに代わって基軸通貨になると主張しているが、彼にとってそれが今なのか、10年後なのかは大した問題ではなく、遅かれ早かれそうなると彼は考えているのだろう。

彼の覇権国家サイクル理論についてはオランダ海洋帝国と大英帝国について書いた記事もあるので、そちらも参考にしてほしい。