レイ・ダリオ氏の新著、アメリカの財政破綻が内乱と戦争に繋がる理由を説明する

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が最近出版された新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)について、自身のブログで語っている。

戦争と国家の財政

ダリオ氏はコロナ後の現金給付でインフレが起きるといち早く予想した投資家の1人だが、ダリオ氏のもっと凄まじい予想は他にもある。

例えば、2021年11月に出版された著書『世界秩序の変化に対処するための原則』において、インフレとともに戦争が起きる可能性を予想している。そしてウクライナ戦争が起きたのは2022年2月である。

ダリオ氏は何故そんなことが出来たのか? ダリオ氏はロシアとウクライナの情勢を緻密に分析していたわけではない。しかしインフレを引き起こすような経済政策をやらなければならないほどアメリカの財政が危うくなっていることと、戦争が起きることの間に確かな関係があることを理解していただけである。

ダリオ氏は、国家の財政と政治的安定の間には密接な関係があると指摘している。それこそがダリオ氏の経済予想において独自性のある点である。

財政と政治的不安定の関係

ダリオ氏はブログで次のように述べている。

50以上の内戦や革命を研究した結果明らかなのは、内戦や革命が起きるもっとも信頼性のある指標は、政府の財政破綻と貧富の格差の組み合わせだということだ。

人々は政治と経済を分けて考えがちである。学校の政治史の説明にGDPや財政赤字の話はほとんど出てこない。

だが当たり前だが、政治にはお金の話が大いに関係している。

先進国はまず金利低下によって、次に量的緩和によって経済を持ち上げようとしたが、ついに現金給付に頼らざるを得なくなり、世界的なインフレを引き起こした。

政府の緩和政策は徐々に過激になっている。そしてそれこそが国力の低下を物語っている。経済が万全であれば、そもそもそんなことをしなくても良いはずだからである。

大国が衰退するときに起きること

先進国の経済がそのように衰えるとき、何が起こるのか。ダリオ氏は次のように説明している。

政府が財政力を失えば、経済全体を維持するために救済しなければならない組織(例えば2008年の終わりにアメリカを含む各国政府がやったように)を救済できなくなり、必要なものが買えなくなり、人々にお金を払って何かをやらせることが出来なくなるからだ。

そうなれば政府はもはや無力だ。

2008年のリーマンショックでは、多くの銀行や保険会社が救済された。そうしなければアメリカ経済全体が壊れかねなかったからである。

逆に言えば、当時のアメリカはそうすることが出来た。リーマンショックは量的緩和によって打ち消された。

だがコロナは現金給付でなければ何とかすることができなかった。しかしそれはインフレを引き起こした。

インフレ後の先進国の経済

そしてインフレが起こってしまえば、政府は自由に紙幣印刷することが出来なくなる。厳密に言えば、紙幣印刷することは出来るのだが、インフレが悪化する。

ダリオ氏は次のように述べている。

政府は紙幣印刷ができなくなり、増税や支出削減を行わなければならなくなる。

これはまさにアメリカで起きていることである。イーロン・マスク氏が率いたDOGE(政府効率化省)は、政府支出を減らしたかったわけではない。米国政府は財政赤字の問題からそうせざるを得なくなっているだけである。

その原因が紙幣印刷であれ何であれ、お金がある間は誰も文句を言わない。自民党がどれだけ自分の利益のために税金を浪費しようが、年金という名の略奪で若者のお金が年寄りに奪われようが、誰も文句を言わなかった。

だが国家にお金がなくなり始めると、皆が文句を言い始める。それがアメリカでも日本でも起こっているのである。

政府にお金がなくなるとき

人々が争い始めるとき、何が起きるだろうか? ダリオ氏は次のように述べている。

そうなれば誰がお金を払うのか? 「持っている」人々か「持っていない」人々か? 「持っていない」人々は明らかにお金を払えない。

支出削減は特にもっとも貧しい人々にとっては耐え難い。だから政府はまだお金が払える人々からもっと税金を取ろうとする。

だが「持っている」人々は、政府の借金を肩代わりさせられると気づいたら、普通は彼らは逃げ出すだろう。

増税とサービス低下の組み合わせは耐え難いからだ。

政治家と国民が争い合い、富裕層と貧困層が争い合い、結局債務の問題は増税かインフレか景気後退でしか解決できないので、争い合っても誰も報われない状況が続く。

結論

だから歴史上、政治的動乱が起こった時期というのは、ほとんどの場合政府の財政破綻が関係している。財政問題と政治の混乱はほとんど不可分なのである。

それは国内の政治だけでなく、国家間の関係においても言える。アメリカが強力だった時代にはアメリカが何をしても誰も文句を言わなかったが、今やロシアは西側に対して公然と反旗を翻し、イスラエルを支援するアメリカを無関係の国々は白い目で見ている。

少し前であればアメリカの支持率はむしろ上がっただろう。イラク戦争をどれだけの人々が支持していただろうか。だがもはやそういう時代ではない。それは、スコット・ベッセント財務長官が認める通り、アメリカの国力の問題と密接に関わっているのである。

ダリオ氏の新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)はそういう本である。これからの世界情勢を理解するためには必読だろう。英語版しか出ていないが、英語を読める人は原文で読んでおくべきである。


How Countries Go Broke