レイ・ダリオ氏の新著: 政治家の官僚主義は国民が目覚めて反旗を翻すまで終わらない

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が自身のブログで新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)の紹介をしている。

今回は政治家の官僚主義と、それに対して国民がどう反応するかについて語っている部分を紹介したい。

官僚主義的な政治家たち

アメリカでも日本でも、非常に長い間、政治家は好き勝手にやってきた。アメリカではトランプ政権がイスラエルを支援していることが無関係の国々の間で白い目で見られているが、ブッシュ大統領がイラク戦争を行なった時にはもっと多くの人が(存在しない大量破壊兵器を口実に行なった)アメリカの行動を支持していたものである。

何故、現在ではそれが許容されなくなってきているのか。逆に言えば、過去には何故人々はそんなものを支持していたのか。人々はいつ政治家に従い、いつ政治家に反旗を翻すのか。

その背景にあるものは、国家の発展と衰退のサイクルである。それは、ダリオ氏が前著『世界秩序の変化に対処するための原則』を書いた時からのダリオ氏のテーマである。

官僚主義と国家の衰退

今回の本、『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)は、国家の発展から衰退までのサイクルのうち、衰退の部分にフォーカスした本である。

ダリオ氏の歴史研究によれば、国家が衰退する時に決まって起こることがいくつかある。例えば前回の記事では、ダリオ氏は国家の衰退期には債務の累積が内戦や戦争の発生に繋がることを説明していた。

国家の末期には別のことも起こる。ダリオ氏は次のように述べている。

政治においては、国家の初期には官僚主義はあまり見られないが、国家が老いると官僚主義が増加し、必要な決定をまともに行うことが難しくなる。

債務の増加と官僚主義はともに国家が衰退に差し掛かった象徴である。あるいはこれらは同じものかもしれない。政治家が自分と自分の票田のために好き勝手に支出し、借金を増やしても後のことは気に掛けないことが、債務の増加の原因だからである。

官僚主義のトレンド逆流

だがこの官僚主義と債務増加のトレンドはいつまでも続けることは出来ないというのは、ここの読者ならば分かるはずだ。

紙幣をばらまくインフレ政策は、本当にインフレが起こって金利が上昇してしまった時点で終了だからである。

だがそれが政治家の官僚主義と、それが一切自分のためにならないにもかかわらず何故か支持する国民たちの奇妙な関係に終止符を打つわけではない。

むしろ彼らの政治家と官僚への執着を打ち破るのは、国民たちはもっとばらまいてほしかったにもかかわらず、もはや紙幣が印刷できないことである。

それでようやく国民は目を覚まし始める。国民から徴収した税金から、その一部を自分の票田のために天引きし、その残りを国民に配布する現金給付によって、自分は実はお金をもらっているわけではなく奪われているのだということに(何故かこれまで気づかなかったのだが)ようやく国民が気づき始める。

何故そんなことにも気づかなかったのか。だが、インフレと金利上昇によって政治家が紙幣印刷という力を失うと、人々はようやく気づき始める。

人々は考え始めるだろう。現金給付など単に自分の払った税金のごく一部が天引き後に返ってくるだけなのに、何故そんなことが必要なのか? そんなことは止めるべきではないのか?

ダリオ氏は次のように述べている。

この問題は、最終的には政治が明らかに行うべきだと言えるようなことでさえ出来なくなる地点に達するまで、状況は泥沼になってゆく。

そしてどのように解決されるのか。ダリオ氏はやや物騒なことを言っている。

そして最後には革命による変革が必要になる。

官僚主義の崩壊

このダリオ氏の議論は、国家の末期には内戦が起きやすいというダリオ氏の主張と関連している。

人々は官僚主義の馬鹿らしさに気づいたが、法律や社会制度は官僚主義的な政治家たちが決めているものである。

だから歴史を振り返れば、その崩壊はしばしば法に従わない方法でなされる。それを内戦や革命と呼ぶ。

ダリオ氏は次のように述べている。

法と契約によって成り立っている社会である場合(そのことのメリットもあるのだが)、明らかに良いことを行うことを法が阻害してしまう可能性があるため、問題が大きくなる。

ポピュリストの台頭

アメリカや日本で最終的にこの問題がどう解決されるかは後のお楽しみである。だがダリオ氏によれば、その前に人々のそうした不満の声を聞くという政治家が現れる。

ダリオ氏は次のように言っている。

国民の不満が溜まり、無秩序になった状況で出てくるのが、力強く、反エリートで、人々のために戦うと主張する指導者である。

彼らはポピュリストと呼ばれる。

ポピュリズムとは、自分たちの利害がエリートによってないがしろにされていると感じる人々に訴求力のある政治的・社会的現象である。

アメリカ人であるダリオ氏が念頭に置いているのは、もちろんトランプ政権のことである。政治的に中立であることを心がけるダリオ氏は、もちろん民主党のバーニー・サンダース氏やエリザベス・ウォーレン氏などの名前も挙げている。

だが筆者はむしろ、ダリオ氏の言う状況は日本によりよく当てはまっているのではないかと感じる。

日本における官僚主義の終焉

自民党の時代が終わりかかっている。それは誰もが感じているだろう。筆者にとっては自民党のやっていることはもう何十年も変わっていないので、今更何を言っているのだと思っているが、ともかく人々がようやく気づき始めたということである。

自民党の現金給付に対して、国民民主党の減税がある程度の人気を得ている。国民民主党からは減税の声は聞こえるが、支出減の声は聞こえないから、オーストリア学派の経済学者でありアルゼンチンの大統領であるハビエル・ミレイ氏のような本物の反官僚主義者ではなく、いわゆるポピュリスト政党だと言って良いだろう。

だが筆者は少なくとも、若い世代が国民民主党を支持することは理にかなっていると考えている。支出を減らさずに減税を行うと経済学的な帰結は通貨安とインフレ(自民党政権でさえもう既にそうなっている)だが、インフレになって一番困るのはそもそも預金のない若者ではなく、預金を持っている中高年や年金生活者である。

だから若者が増税によって老人の肥やしになるか、インフレか、どちらか選べと言われたら、当然のようにインフレを選ぶことになるだろう。

ダリオ氏が物価高騰やウクライナ戦争を予想的中させたこともそうだが、物事は恐ろしいほどにダリオ氏の予想する方向へと向かっている。

新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)は日本語版が出ていないが、英語が読める人は原文で読んでおくことをお勧めしたい。


How Countries Go Broke