レイ・ダリオ氏: アメリカは実際に債務危機になるまで財政赤字を解決できない可能性

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、自身のブログでワシントンDCへ行った時のことについて話している。

アメリカの債務危機

ここの読者も知っての通り、ダリオ氏はアメリカの債務問題を憂慮している。そのために最近本を出版したほどである。ダリオ氏の新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)は、覇権国家アメリカの財政破綻を予想した本である。

ダリオ氏はこの問題について最近ワシントンDCで共和党と民主党の重鎮たちと話したらしい。ダリオ氏は2008年のリーマンショックも予想した世界屈指のヘッジファンドマネージャーだから、アメリカの政治家たちもダリオ氏の話を聞きたいのだろう。

ワシントンの議員たちは、ダリオ氏の懸念について何を語ったのか。

ダリオ氏によれば、会話したすべての政治家は、財政赤字を3%まで下げなければアメリカは債務危機に陥る可能性が高いこと、そのためには支出の削減と増税の両方を行わなければならないことに同意したという。

トランプ政権も少なくとも口では財政赤字の削減を目標に掲げている。だが予算案などの中身を見ると、大幅な削減は難しいようにも見える。

債務問題を解決できない政治家たち

何故か。ダリオ氏は共和党と民主党が団結して財政赤字を削減すべきだと考えているが、それについて次のように述べている。

わたしが話した政治家たちは、有権者からの反発を恐れていた。「敵の政党の政治家と団結してわたしたちに増税する(あるいは支出を削減する)つもりか」と有権者は言うだろう。

政治家たちは、現在の政治的状況では「決して増税しないと約束する」「決して補助金を減らしたりしない」といった約束しか許されていないのだと言った。そういう約束を絶対だと言わない政治家は、職を追われる。

だからアメリカの最大の問題は、債務問題を解決するために必要なことを、政治家は行うどころか議論することさえ出来ないということだ。有権者によって職を追われてしまうからだ。

これがアメリカの政治的意志決定の問題だ。

アメリカの財政赤字の問題は差し迫っている。コロナ後の金利上昇で大量の米国債には多額の利払いが発生しており、米国政府は米国債の利払いを新たな米国債の発行で賄っている。

このままでは米国債の発行はねずみ算式に増えてゆく。そして何処かの時点で米国債は買い手不足に陥る。これまでならば中央銀行が無制限に米国債を買い入れていたのだが、インフレになってしまってからは中央銀行は自由に紙幣を印刷することができない。

財政赤字を減らさない限り、長期的には米国債は買い手不足で下落を免れない。だがアメリカの政治家は、増税か支出削減が必要であると分かっているにもかかわらず、そうすれば選挙に落ちるという理由でアメリカ経済にとって有害だと自分で分かっているばら撒き政策を続けるということをやっている。彼らの仕事は、なかった方が良いのではないのか。

アメリカが債務問題を解決できるタイミング

この状況は変わらないのか。どうすればアメリカの政治は財政赤字を解決し、米国債の下落を防ぐ方向に進むことができるのか。

ダリオ氏はそれをワシントンの政治家たちと一緒に話し合ったらしい。そしていわば絶望的な結論に達している。ダリオ氏は次のように述べている。

われわれはどうすればワシントンの政治家たちが問題を解決できるようになるのかを話し合った。彼らの考えは、大きな経済危機でもなければ無理だろうというものだった。

だがわたしは彼らにこう伝えた。経済危機は債務問題を解決するには最悪のタイミングだ。経済的に困窮した有権者たちは互いに責め合い、増税も自分の取り分削減も受け入れないだろうからだ。

有権者も政治家も結局のところ、金融市場と実体経済が本当に窮地に陥らなければ、財政赤字を本当に何とかしようと思うようにはならないということである。

それは例えば米国債が急落し、金利が急上昇するということだろう。4月にはそうなりかけたが、金融市場は何とか平静を取り戻した。

しかし根本的な問題である財政赤字は未解決のままである。このままアメリカは米国債の急落に突っ込んでゆくしかないのか。しかし実際にそうなってから増税と支出削減を行えば、ダリオ氏の言うように地獄絵図になるだろう。

結論

ダリオ氏はアメリカの未来を考えるためにワシントンに行ったのだが、アメリカ経済が詰んでいることがむしろ浮き彫りになったような感がある。

アメリカの債務危機は本当に手遅れになるまで手遅れになることを逃れられないだろう、ということである。だが、文字通り、手遅れになればもう手遅れである。そうなれば増税も支出削減も実際には出来ないだろう。

結局、そうなればアメリカ経済はどうなるのか。それを詳しく説明しているのが、ダリオ氏の新著『How Countries Go Broke』(仮訳:なぜ国家は破綻するのか)である。

その中には日本の例も挙げられながら、アメリカがどうなるかが書かれている。

英語版しか出ていないのだが、今後の世界経済を予想する上で必須の本である。英語が読める人は原文で読むことをお薦めしたい。


How Countries Go Broke