The Solid Ground Newsletterのラッセル・ネイピア氏が、The Society of Professional Economistsのインタビューで、トランプ政権の取り上げる貿易問題と各国の外貨準備、そしてドル相場の関係について語っている。
積み上げられた大量の外貨準備
コロナ後のインフレと金利上昇で、世界経済と金融市場を取り巻く環境はがらりと変わった。
それであらゆる機関投資家が世界経済の長期トレンドについて語っている。1980年から40年続いた金利低下のトレンドは終わった。デフレの時代はインフレの時代になった。
誰もが金利とインフレ率の長期的変化に注目している。だがネイピア氏は別のものにも目を向けることを勧めている。
ネイピア氏は次のように言っている。
各国の外貨準備の量は指標になる。外貨準備はほとんど爆発的に増え続けた。歴史的に見れば、これは爆発的な増加だと言える。普通の状況では外貨準備は単に増加と減少を続けるか、緩やかな増加を見せるだけだ。
だが現状はそれとは違う。
アメリカの貿易赤字と外貨準備ドル
過去数十年、各国の外貨準備は増え続けた。各国が何を積み上げたのかと言えば、ドルを積み上げたのである。
トランプ大統領はアメリカは巨額の貿易赤字を抱えていると怒っている。それはつまり、アメリカは世界中の国々から大量のものを輸入し続けてきたということである。
だからかつての日本、今では中国だが、アメリカを顧客としている国々はアメリカから支払われたドルを自国通貨に換金せず、外貨準備にドルを積み上げたのである。
中国はむしろドルを買った。人民元は元々ドルにペッグ(固定)されていた。本来、中国の経済成長とともに人民元の為替レートも上昇しなければならなかったのだが、中国はドルに対する為替レートを固定していたから、人民元を本来より安いレートに固定するために中国の中央銀行はドル買い人民元売りを行い、ドルの外貨準備を積み上げていったのである。
貿易赤字を逆流させることの意味
意図的に低く抑えられた人民元が中国の輸出を助けてきた側面もある。だが状況は変わりつつある。中国だけではないが、ウクライナ戦争でアメリカがドルを使った経済制裁を行って以来、世界中の国々が経済制裁の危険を避けるためにドルの保有を減らしている。
ネイピア氏は次のように述べている。
このやり方は中国にとってはもはや機能していない。中国国内の信用システムを考えても、地政学的に考えても機能していない。
中国にとって、今や敵であると言われる国の通貨に自国通貨を固定することは愚かなことだ。
そして現状の為替レートをアメリカの方は機能していると見なしているのだろうか。答えは明らかである。ネイピア氏は次のように言っている。
トランプ大統領はそう思っていない。
中国がアメリカに輸出品を売りつけるためにドルの外貨準備を積み上げてきたこれまでのシステムは、もはや両方の国にとって機能していない。
だからどうするのか。トランプ大統領は貿易赤字を減らしたがっている。ネイピア氏は次のように続ける。
トランプ大統領はアメリカのすべての問題は、中国やその他の国が行ってきたこの為替レートの操作から来ていると思っている。
それは中国だけの話ではない。スイスもノルウェーもサウジアラビアもだ。インドネシアもインドもそうだ。
しかしアメリカが貿易赤字を減らすということは、中国やその他の国がアメリカを顧客としたビジネスを止めるということであり、それは世界の国々がドル資産を売るということを意味する。
結論
トランプ大統領はそれが分かっているのだろうか。結局、貿易赤字を減らしたければドルを下落させるしかない。ネイピア氏も関税だけでそれをやろうとするのは無理だと言っている。
だが問題は、売られるのはドルだけではないということである。ドル資産が売られるということは、米国債も米国株も売られるということなのである。
米国株への資金流入が終わるという話はジェフリー・ガンドラック氏が以下の記事で解説している。
だが米国株の下落でさえも、米国債が投げ売りされる危険に比べれば些細なことであるように見える。ゾルタン・ポジャール氏は、ドル離れの結果アメリカで金利が急騰し、債務危機が起こることを予想している。
ドルを中心としたシステムが終わろうとしている。それこそがBridgewaterのレイ・ダリオ氏が著書『世界秩序の変化に対処するための原則』で予想しているアメリカとドルの覇権の終わりなのである。