The Solid Ground Newsletterのラッセル・ネイピア氏がHidden Forcesのインタビューで、トランプ政権の関税政策とドル相場の関係について語っているので紹介したい。
トランプ政権の関税政策
ここでは一般の投資家にはあまり知られていない優れた金融家の意見を選別して紹介しているが、機関投資家にレポートを売るネイピア氏はその1人である。
4月にはトランプ政権の関税政策をきっかけとして株式市場が急落したが、ネイピア氏はそれについて次のように述べている。
問題は世界中に不均衡が存在していることだ。
例えば貿易の不均衡の問題がある。それが最近ではニュースになっている。
不均衡というのは、例えば中国に対するアメリカの貿易赤字であり、トランプ大統領はそれを是正するために関税を持ち出している。
多くの人が持っている共通見解は、アメリカの貿易赤字は自由な交易の自然な結果であり、無理矢理是正しようとすると問題を生むというものである。多くの人はこの見地からトランプ政権を批判している。
アメリカの貿易赤字の原因
しかしネイピア氏はアメリカの貿易赤字は人為的にもたされれたものだと考えているようだ。ネイピア氏は次のように説明している。
だが人々が忘れているのは、資本移動の自由がある世界における貿易の不均衡の問題は、資本の不均衡の問題でもあるということだ。すべての貿易収支にはその後ろにそのための資金調達があるからだ。
そしてその中心には中国がある。
中国に対してアメリカが赤字になっているということは、アメリカが中国の商品を大幅に買ってきたということである。
だからこの問題を考えるには、そもそも何故(負債が多くお金がないはずの)アメリカが中国のものを買い続けることができたのかを考える必要がある。
ネイピア氏によれば、それは為替レートである。ネイピア氏は次のように説明している。
わたしはこうした状況を作り出した張本人として中国を批判したいわけではない。今の状況は単に、何年も前に中国が選んだ為替レートの結果であるというだけのことだ。
重要だったのは、人民元をドルに、そして後には通貨バスケットにペッグするという中国の1994年の決断だ。そしてその決断に多くの新興国が追随した。
人為的に低く抑えられた人民元
人民元の為替レートは、徐々に自由になってきてはいるものの、未だに中国政府の管理下にある。
古くは人民元はドルに対して固定レートとなっていた。今は様々な通貨に対する固定レートとなっているが、為替レートを固定する場合、そのレートが高過ぎるのか低過ぎるのかはその国の外貨準備を見れば分かる。
中国政府が人民元を低く抑えている場合、中国政府は為替市場に介入し人民元を売ってドルなどを買っているということになるので、外貨準備は増加することになる。逆に人民元を買い支えている場合、外貨準備は減っているはずである。
ネイピア氏は、中国政府(そしてその他の新興国)が長期的には輸出に有利となるように自国通貨を低く保つためにドルを買ってきたと指摘している。ネイピア氏は次のように述べている。
この動きは新興国、特に中国の外貨準備が急激に増加するという結果をもたらした。この資金によって先進国の国債は買われ、それが先進国の債務を経済成長に比べて非現実的なレベルへと増加させる一助となった。
これまでは、中国などの輸出国が輸出で得たドルを自国通貨に替えず、ドルのまま蓄えた。外貨準備のドルは米国債を買って運用されるので、それは米国債の買い支えにも繋がった。
国債の価格上昇は金利低下を意味するので、それはアメリカなどの金利低下にも貢献した。ネイピア氏は次のように続けている。
その結果どうなったか? 金利が経済成長率と合致していない場合、借金の借り手にとって有利になるので、社会全体のレバレッジが増えた。同じ理由で資産価格も上がった。
貿易赤字・ドル高・金利低下の終わり
さて、貿易赤字は財政赤字に繋がるため、財政問題に対処しようとしているトランプ政権としては赤字縮小に尽力せざるを得ない。
だが、中国などが外貨準備を通してドルと米国債を支えてきたメカニズムを逆流させればどうなるか? ネイピア氏は次のように述べる。
だから貿易を攻撃するということは、そのシステムを攻撃するということだ。それが今起こっている。トランプ政権はこうした不均衡を終わらせようとしている。
これこそが、レイ・ダリオ氏が『世界秩序の変化に対処するための原則』において詳しく解説している基軸通貨ドルの終わりである。ドルと米国債を買い支えてきたあらゆるシステムが終わりを迎えようとしている。
逆に貿易赤字を放置しようとしても無駄である。貿易赤字は財政赤字に繋がり、財政赤字は結局米国債を下落させ、中央銀行が紙幣印刷で国債を買い入れなければならなくなり、ドルは下落するだろう。
筆者の目には、あらゆる意味でドルが詰んでいるように見える。米国株もそこそこ詰んでいるが、ドルを犠牲にして紙幣印刷で株価を持ち上げるという選択肢がある分、ドルよりはマシではないのか。

世界秩序の変化に対処するための原則