レイ・ダリオ氏: ドルは基軸通貨ではなくなる、紙幣の代わりを探せ

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が、Fox Newsのインタビューで、各国の債務問題と通貨の価値下落について語っている。

アメリカの債務問題

ダリオ氏はアメリカの債務問題を懸念している。アメリカではコロナ後の金利上昇で米国債の利払いが急増しており、財政赤字の半分ほどが国債の利払いとなっている。

米国政府はそれを新規の国債発行で賄っているが、それは更なる利払いの増加を呼ぶ。アメリカの債務は文字通りねずみ算式に増えてゆく状況にあるのである。

では国債の大量発行の何がまずいのか? ダリオ氏は次のように述べている。

需要と供給の問題だ。大量の国債を売らなければならず、買い手が不足している状況になれば、良くないことが起きる。金利が上がったり、景気が落ち込んだりする。

債券市場で米国債の量が増え、買い手が増えなければ、需要と供給の関係で当然価格は下がることになる。

多くの機関投資家がそれを懸念する中、トランプ政権にとっては最悪なことに、米国債の急落は4月の株安の最中に起きた。それでトランプ政権は関税を延期せざるを得なくなったのである。

財政赤字の削減

少し前までは多くの人が「政府債務は問題ない」と主張していたが、その根拠は一体何だったのだろうか。そして今の現実では米国債の下落リスクが緊急の問題となっている。

この問題を解決するには、米国債の発行を減らすしかない。つまり債務を減らすしかない。

だからダリオ氏は次のように述べている。

財政赤字はGDPの3%まで下げなければならない。現在は6.5%だ。

それはトランプ政権も分かっている。かつてジョージ・ソロス氏のSoros Fund Managementの運用を任されていたスコット・ベッセント財務長官は財政赤字を3%に下げるという目標を掲げている。

だが政府支出がGDPを構成する1要素である以上、財政赤字を6.5%から3%に下げることは、GDPを3.5%下げることに等しいと債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏は指摘していた。

だから共和党内部でも意見が割れているようだ。最近米国議会は前トランプ政権の減税の恒久化(市場は織り込み済み)などの法案を通したが、DOGE(政府効率化省)で政府支出削減を担当していたイーロン・マスク氏は、CBSのインタビューでこの法案を次のように批判している。

率直に言って巨大な支出法案には失望した。財政赤字を減らすどころか増加させる。DOGEのチームがやっていることを台無しにする行為だ。

トランプ大統領はマスク氏のこのコメントに対して記者会見で聞かれ、次のように述べている。

大量の票を集める必要がある。削減だけではそれはできない。たくさんの支持を集めなければならない。

マスク氏に支出削減を頼んだのもトランプ大統領である。だが、票を集めるためには支出や減税をしなければならないという政治的現実がある。

少し前に発表された予算案では、確かに支出削減はしているが問題解決にはまだ遠いという微妙な支出削減となっていた。

財政危機からドル下落へ

結局、トランプ政権が支出を減らせなければどうなるのか。国債の大量発行の問題は残り、米国債は下落を避けられないだろう。

赤字削減が間に合わず、米国債の下落が止まらなくなった場合、中央銀行が紙幣印刷で国債を買い入れるしかなくなる。

そうなれば、アメリカは米国債を救うためにドルを犠牲にしなければならなくなる。

ダリオ氏はドルが基軸通貨ではなくなる可能性を懸念しているかと聞かれ、次のように答えている。

そうだ。

だがドルが下がるからと言って、ドル円が下がるとは限らない。それは何故か。ダリオ氏は次のように述べている。

はっきりさせておきたいのだが、すべての国が債務の問題を抱えていると思う。

通貨は交換の手段であると同時に富の貯蓄手段でなければならない。だが債務の問題があり、紙幣の代わりを探さなければならない。

ドルも円もユーロも人民元も駄目だということになればどうなるか。人々は貴金属に走るだろう。それで金価格が物凄い勢いで上がっているのである。

結論

ダリオ氏は著書『世界秩序の変化に対処するための原則』において、ドルの長期的下落は不可避だと予想している。債務問題を解決するためには通貨を犠牲にするしかない。ゴールドの上昇も避けられないことなのである。

通貨の価値が暴落すれば、物価が上がり、紙幣で生活用品を買うことが難しくなる。

何故それが避けられないのか。アメリカにおける政治的争いを見ながらダリオ氏は次のように言っている。

これが民主主義において難しいところだ。政治というものが邪魔をして、優れた意思決定や妥協ができない。皆が争い合っている。


世界秩序の変化に対処するための原則